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日々これなべて事もなし、高校生活も二年目に入って既に半ばを過ぎた今日この頃。
カラスに起こされ飯を喰い、登校しながらスマホを弄り、学校では授業中は教科書に挟んだり机の引き出しから覗かせたラノベや漫画を読み、休み時間や昼休み時間に腐肉にたかる蠅のように周りを飛び回る村尾を放置してやはりラノベや漫画を読みながらスマホを弄り、下校中にはスマホを弄り、帰宅しては運動機器を乗り回しながらアニメを見たりダンベル振ったりゲームのコントローラー振ったりマウスをカチカチしたりしながら部屋を溜り場に集まった野郎どもを適当に相手し、土日や長期の休みには村に帰って山へ向かう変わらぬ日々。
そういや、最近・・・と言っても去年だが、になって気が付いたことがあるんだが、どうも周りに居るコイツ等は俺に関わりだして絶対に一度は数か月から半年の入院をしている。
村尾は俺の部屋から出た後に階段から転落して入院したし、湊と千畳敷も一年の時に俺の部屋に来るようになった直後に一度二人揃って道端で倒れて入院して危うく留年しかかった。
別にこの三人のそれの時点では意識しなかった、と言うより殆ど気にも留めていなかったんだが、新たに俺の部屋に来るようになった奴を切っ掛けにふとそう言った事に気が付いた、気が付いてしまった、いや・・・気が付くことが出来たと言うべきなのかねえ。
「なあお前らよ、もちっとなんか他にやる事ねえのか?」
学校から戻って何時も通りに過ごしている俺、エロゲやりながらねっちょりした微笑を湛える村尾、何時も通りに何かしら漫画やラノベを読んだり俺の出先で使用しているポータブルプレイヤーでアニメを見たりしている湊と千畳敷の姿を見て呆れたように、そして所在なさげにしながらそう口にした男、通称―――
「如何したで御座るかパイセン氏」
「オイテメエ・・・その呼び方止めろっつっただろうがこのポークビッツ野郎!!」
「おい先輩、今なんつった・・・?」
湊の如何にも嫌味で言ってますと言わんばかりの呼び方にキレて叫んでいるが、それに反応したのは言われた当人ではなく何故か千畳敷。
「ハムラ氏ー、言われたの某で御座るからー中学の時の水泳の着替えの事は忘れるで御座るよー」
「テメエの事じゃねえよ何反応してんだバナナ野郎」
「パイセン氏、それも地雷でござ―――」
「誰がバナナ野郎だ!年上だからって調子に――う゛っ・・・ちょ、調子に、が、ガンくれたってお、俺が怯むとでも・・・!!」
あーあー、うるせえしなんかめんどくせえやり取りしてんなあ、けどアニメがいいとこなんで放置だな放置、千畳敷のトラウマっつーか地雷ワードがまた一つ、いや二つ判明したが今まで判明したのも含めて多すぎて考慮する気にもならんし勝手にやってろ。
中学の時の水泳の授業の着替えにポークビッツにバナナ野郎とか・・・萌えアニメ複数同時視聴でブヒブヒ言ってる最中の俺の耳にクソ萎えるワードを入れんじゃねえよタコが。
「・・・興、味が、ある、誰の、ポー、クビ、ッツ、がバナ、ナ、を、装備、した、敵兵、に、リョナ、られた、と・・・?」
「ぎゃあああ、なんでヘッドホン着用してたのに拾ってるで御座るか、しかも致命的に間違えた解釈でええええ」
「ホモゲーの濡れ場をフルスクリーンにしたディスプレイを背景にねっちょりした笑顔を浮かべるな、寄るな、来るな!!」
「・・・さぷら、いず、ぱーてぃー・・・!!」
「「寄るなああああああああ!!」」
「すっこんでろ村尾、俺は、こ、コイツらに言わなくちゃいけない事が・・・!」
「なんでハム氏はパイセン氏には思いっきりビビリ入っといてこのムラムラ氏に危機感覚えないで御座るか・・・!」
「ビビリのブタ野郎はすっこんで・・・いや、いいぞそのキモイ虫野郎をなんとかしろ!」
「・・・ひょ?」
「お、俺は、弱い自分を乗り越えるんだ・・・今日こそ・・・!!」
「うわあ、なにこれぇ、で御座るよ」
あーあーあー、喧しい上に萎える、より一層萎えるぞ、喧しいぞクソ戯けが、俺のアニメ視聴を邪魔しねえ限りにおいてお前らみたいなクソゴミを俺の部屋に放牧してやってんのに何勘違いしてやがる。
「クソ、お前らみたいな気持ち悪い奴らと一緒に居られるか!俺は帰るぞ!!」
あん?俺がいい加減全員纏めてゴミの様にひき潰してやろうかと思ってDVDを一時停止させて振り向こうと思ったら、なんか捨て台詞吐いて一匹出て行きやがったか。
そう思いつつ振り向くと案の定、森居『センパイ』だけが居なくなってやがった。
「なんで御座るかな、パイセン氏はこの後変死体で発見されるような事を・・・是非そのフラグは堅守して墓場へ直行してほしいで御座るな」
満面の笑みで何言ってやがんだこのゴザル、と言うかお前はその小デブの腕を極めながら何を朗らかな顔してやがんのか。
「がぁ・・・は、離せ・・・俺は、今日こそ弱い俺を卒業す、あいだだだだだ!!」
この厨二デブもこんなしょうもない場所で、情けねえ恰好で何ほざいてんだ。
「人の家で暴れないで御座るよ、元々そんな度胸もないのにご立派なことを言うのも逆に情けないで御座るしー」
「黙れ・・・!俺は、アイツを乗り越えて中学の因縁を、いだだだだだだ!!」
「はいはい黙るで御座るよー。やられた方は覚えててもやった方は基本そう言った事は覚えてないで御座るからねー。 パイセン氏がハム氏に高校入学して絡んできたのは拙僧の忠告も聞かずに何か勘違いした高校デビューを狙ったせいで目をつけられたせいで御座るからねー」
コイツらの中学時代の話とか果てしなくどうでもいいが、高校入る前から何かあったのかよあのセンパイと、てか高校デビューとか既にその単語そのものが痛々しいんだが。
この馬鹿どもが今さっき逃げだセンパイなんぞに絡まれさえしなけりゃあんなクソ面倒な事にもならず、『アレも留年なんてせずに済んだ』だろうによ。
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午前の授業が終わり、異常な速さで弁当を平らげた後にカクカクカサカサと擬音がしそうな動きで教室を出て行った村尾に教室の空気が若干緩んだのを感じつつ、俺は特に気にせずにラノベの新刊を読み続ける。
しっかし、そんなに居心地悪ぃんならさっさと出て行けばいいだろうにと思いつつ、教室に居る面子をチラッと一瞥する。
村尾っつー危険物が去ったにも関わらず教室の空気が緩み切らない原因は二つ。
一つは村尾という蠅が周りを飛び回る俺、当然の如く俺が居る限り奴が何時舞い戻ってくるかが不明だからだが、別に俺が居なくても普通にアイツは昼休み時間いっぱい徘徊するとは限らねえから誤解もいいとこだ。
で、もう一つの原因がクソ不機嫌な面で頬杖付きながらダラッダラとコンビニのパンを齧る『センパイ』が居るからだ。
名前を、森居重年、昨年に原因不明のナニカで昏倒して長期入院して単位を落として留年した阿呆だ。
入院前まではそれなりに幅を利かせていたらしいが、長期入院プラス留年というコンボをくらって高校生活がお亡くなりになったお可哀想な生き物だ。
まあ、元々が大して人望があったわけでもねえからこんなザマになったんだろうけどな。
どんぐらい前だったか、なんかいきなり湊と千畳敷がぶっ倒れて入院したとか言う話を聞いて、千畳敷だけが先に退院して来て、何故か昼休みに俺のクラスまで来て、何故か弁当も金も持ってきてなくて、いや持ってきていたけどひっくり返して駄目になっただったか?
そう言う話をしてきて、ふうんとか言いながらラノベ読みながら飯を喰ってたら縋るような視線が鬱陶しかったから肉を一切れだけ恵んでやろうとした所に取り巻き連れたアレが来て、千畳敷になんかごちゃごちゃと絡んでアイツが喰おうとしてた肉を奪って、ああコレが弁当がない理由かなんかメンドクセー流れだな、とか思ってたわけだ。
そんでもって、碌に抵抗もできずにブツブツと俯きがちに言ってる千畳敷に対して、肉をこれ見よがしに口に入れてクッチャクッチャやってやがったんで俺の喰いモンを渋々とこの小デブに恵んでやったのに何してくれてんだこのボケがと思わずイラッとした。
別に千畳敷に絡んでイキんのは勝手だが、俺の居ねえとこでやれよダボハゼがと考えつつ、ちといい加減ウゼエから何とかすっかと考えつつ、下手に関わってもメンドクセー事になるから怠ぃとか思ってたら、イキナリ顔色が悪くなってぶっ倒れたわけだ。
流石に驚いて読んでた新刊から顔を上げちまったわ。
んでもって唐突に思い至ったわけだ、以前に山の中で動物やらがくたばって植物が枯れたり萎れたりしてた事に。
もう今じゃそういうのもなかったからすっかり忘れてたが、そん時は流石にヤベえと思ったね。
んで、芋づる式に村尾が、湊が、んで目の前の千畳敷がぶっ倒れて入院したらしいと聞かされた時の事が、正確にはその前に最後にアイツらが俺の家で山からカラスが持ってきた食材を口にしてた事を思い出してクッソ焦ったわ。
誤魔化すために唖然とする周りの連中が我に返る前に大声で救急車だの叫びつつ、ぶっ倒れた口から零れ落ちた肉の残骸を誰にも気付かれない速度で『消し飛ばし』、介抱するフリをして回復の為の術式を魔力を編んでぶち込んだ。
そしたら吐血して更に焦ったが。
いやあ、咄嗟の事で思いっきりしくじったわ、魔力やら魔素やらのせいで異常起こしてるだろう奴に更に倍率ドン、更にドン、ってやるとかね。
ほんと、病院に担ぎ込まれても原因不明でよかったよかった。
ついでに、死ななくて本当によかったわー流石に寝覚めが悪くなる。
ま、長期入院でその間に取り巻き連中がすっかり離れちまって、なんか変な噂も流れたらしいが、挙句素行も宜しくなかったせいであっさりと留年が決まっちまって、退院したのは新年度はとっくに過ぎた頃。
クラス替えが終わってグループが固定された後の以前までは後輩だった連中の中に放り込まれたわけだ。
これで俺とは別のクラスか、もしくは転校でもしてくれりゃ一番よかったんだけどな。




