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昼休みにちっとばかしいつもと違う事があったが、他は特に異常もなく、村尾の奴は平常運転で狂ってやがったが、とにかく何事もなく授業も終わって帰宅時間ってな。
部活なんぞにゃ入ってねーし、さっさと帰るに限る。
さっさと教科書を纏めて教室を、校舎を、校門を出て、そしてスマホを取り出しソシャゲをしながらさっさと歩いて帰宅する。
村尾?態々アレと仲良しこよしで帰ったりするわけねーだろ、用があるなら俺の部屋に寄るだろ、ってか殆ど毎日俺の部屋に来てエロゲして帰って行くわけだが。
まあどうでもいいわアイツの事なんざ、それよりも溢れる行動力を消費しながら帰らにゃならぬ。
で、帰宅してサクッとカラスからの食材受け取りを行い、最近保冷ボックスに肉を詰めるっつー事を覚えやがったというか、氷はどうしたんだ、魔法か魔術でも使ってんのかコレ、まあとにかく食材を冷蔵庫に叩き込み、あとは何時も通りにトレーニング機器に跨りダンベルお手玉しながらアニメ鑑賞ってな。
何時も通りのそれを初めて暫くすると、背後から誰かが入ってくる気配がする。
「・・・・・・相変わらず狂ってるでござるなあ」
「・・・どういう鍛錬なんだ貴様」
今日はお前らの方が先か、えっと、ウィンナーにハムだったか。
「いやいやいや、いい加減に某の名前覚えようで御座るよ、湊斉次で御座るからね某の名前は!」
「誰がハムだ誰が!俺の名は千畳敷穂村だ!」
あーはいはい、俺アニメの鑑賞に忙しいから勝手に寛いでいてくれ精子ハム。
「その略し方はあんまりでござろうヒロ氏ぃ・・・」
オイコラ、その呼び名で呼ぶなつったろうがソウ・・・ソレガシーなんちゃらとハム村太郎、じゃないヒムラー太郎?
「いい加減、ハムから離れろ!俺の名は穂村、ホムラだ!ハムラでもヒムラーでも木村でもない!」
「ソレガシーなんちゃら!?某一体どんな名前に改名されたで御座るか。というかなんだかんだでノリいいですなヒロ氏」
喧しい、黙って漫画なりラノベなり適当に読んでろ、それか出ていけ、ダンベルぶつけっぞ阿呆が。
「それは勘弁してほしいで御座るなあ、先日ようやく退院したばかりだというに再び病院送りはご勘弁を。 留年してしまうのは某も流石に困るで御座る」
「ふん、力で俺を屈服させられると思うなよ!」
あーあー、おいちょっとそこの長篠、このなんか変な病気抉らせたヒムラーをちと強制的に黙らせろ。
「畏まって御座りますっと、ヒムラー氏少し拙者的に強制収容させていただくで御座るよ」
「・・・ヒムラー、なのに、ホロ、コース、トされ、る側と、はこれ、如何に」
出たな怪人蜘蛛男、とりあえず気配が相変わらず掴みづらい奴だな。
「うひぃ!?ムラムラ氏相変わらず神出鬼没の挙動で御座るな、収監は何時で御座るか?」
「・・・それでも、僕は、やって、ない・・・・・・!!」
「「なんて説得力のない台詞!!」」
意気がぴったりだな芸人コンビ、それと説得力はあるだろうが、アイツならそう言った嫌疑をかけられそうと言った意味で。
とりあえず長篠ヒムラーのパイナップル野郎コンビはそこの蜘蛛男と仲良くエロゲでもやってろ、俺の邪魔すんな。
「だ、か、ら、俺をパイナップル野郎と、ヒムラーと呼ぶなと言っている!」
ソックリなんだから仕方ねえだろ、なあ長篠?
「某を相方的なポジションにして欲しくはないので御座るが・・・確かにソックリで御座るよねヒムラー氏、双子かと見紛う有様」
「・・・マッシュ、ルーム、は、お嫌、い、ですか?」
そういや、マタンゴにも似てるような気もしてくるな、どうでもいいが。
つか、ほんとグッダグダとうるせえ奴らだなオイ、ここはマンションの一室だから・・・アパートだったか?まあどっちにしろもう少し静かにしやがれ、防音はしっかりされてるらしいが限度があるだろうが。
「大音量でアニメを複数視聴している変人には言われたくないんで御座るが・・・」
「アニメ見ながらペダルを漕ぎつつダンベルお手玉とかしてる奇人の癖に何をほざくか貴様」
「・・・どう、見ても、お前、が、首魁・・・悪の、首領、全、ては、偉、大なる、ワイ、ルド、ファイ、ヤ・ヒ、ロ氏の、為、に・・・!!」
誰が首魁だ、寝言ほざいてんじゃねえぞ起きたままいい夢見てんのか奇人変人どもが。
「「「ところがぎっちょん!!」」」
「夢じゃ・・・あり、ま、せん・・・!!」
「現実で御座る・・・!」
「これが現実・・・!」
なんだこの唐突に始まった寸劇は、馬鹿なの?死ぬの?
「逃げ、ちゃ、駄目よ・・・お、父さ、んから、何、より、現実、か、ら・・・!」
「おおっと、ここで危険球で御座るよ、ってかミサ〇さん!?」
「家庭環境を揶揄するネタは俺としては普通にちょっとどうかと思うんだが・・・。
ローンとか税金の話をするような場面でもないとは思うが」
お前らねえ・・・頭のネジが緩んでんじゃねえのか?スパナはねえがダンベルならあるぜ、叩いて閉めなおしてやろうか?ん?
「稲のん・・・が・・・キレ、た・・・」
むぅぅぅらおクゥゥゥゥン、なんだその呼び方は、虫唾が走るんだが。
「ああ、真っ二つになってしまうで御座るなムラ/ムラ氏、超お可哀そォに」
「ここは危ない、巻き込まれないうちに早くお逃げなさい、俺」
逃げられるとでも思ってんですかねェ、悪ノリし過ぎだよお前ら、ブチノメシ確定だ。
「なんと、謂れなき罪で超冤罪なんで御座るが」
「いや、お前に限って言えば結局の所は日ごろの行いによる自業自得な訳だが」
ふう、丁度アニメ視聴も筋トレも一段落したな、お前らとの寸劇も飽きたんで後は勝手にやって勝手に帰れ、俺は風呂に入って来る。
「ここまでノッっておいて最後雑いで御座るな!?」
「・・・新作、の、イン、スコ、完了し、てい、る。 ・・・いざ、仕、る」
「なんだろうな、一瞬だが仕るが捕まるって聞こえたんだが毒され過ぎたか」
実際、捕まるような不審者だししゃーあんめえよ、とか思いつつ馬鹿三匹を放置したまま風呂場へと向かった。
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しかし、なんだ、俺の部屋もなんか騒がしくなったもんだ。
中学の時に村尾が増えた時はアイツほとんど喋らねーから空気みたいなもんだったんだが、高校に入って変なのが二匹増えやがったせいで無駄に賑やかになりやがって。
湊斉次と千畳敷穂村。
高校に入学して初っ端から既に近隣に割と名の通ったアレな生き物として有名だった村尾と、それが近くをうろつく俺の近くには基本誰も寄ってこなかった。
そう言う意味では実に村尾はいい虫除けというか弾除けというか、この場合は人除けと言うべきか。
奇行に目をつぶれば、というかその奇行で実にいい仕事をしたと個人的に満足して校内で堂々と漫画やラノベを読んでいたわけだが、そんな俺らに近づいてきた物好きの二人組。
湊は兎に角初対面から濃ゆかった、初っ端から一人称が拙者・某・小生・拙僧などと抜かして語尾が御座るで辺りかまわず台詞にネタを混ぜてデュフフと笑う典型的な、露骨なまでのステレオタイプの秋葉系。
普通にしてりゃ恐らく誰もが認める美形、イケメンというよりは美形と言っていいだろう顔立ちでありながら絶妙に自身をキモく魅せる洗練された無駄技術を持った変な奴だった。
この魅せ方の無駄な旨さから明らかにわざとキモがられようとしているのが分かるが、それを理解したうえで実にキモい立ち振る舞いと、絶対に性格が悪いとわかる言葉のチョイス。
ステレオタイプなキモさによってオブラートに包んだ中に悪意に塗れたドス黒い何かがちょくちょく口から出て来るんだが、コイツがこうなるまでに一体何があったのかと思わんでもない。
一方、もう片方の千畳敷は、なんというか、ホムラという厨二的感性をくすぐる名前で在りながら、いやそれに相応しくと言うべきか、端的に言って痛々しい奴だった。
まず周りからハムラだのヒムラーだのと仇名される、実に普遍的な意味での小太りというかぽっちゃりと言うか、そんなナリ。
それでありながら口から出る言葉はカッコつけた言い回しの厨二病、変なところで我を通そうとして周りから失笑される典型的な虐められて変に抉れた痛い奴、普通に見ていてイタタタタとか言いたくなる、顔を背けたくなる男だった。
TVによく出演している芸人コンビの片方に実にソックリというのも相まって、色々な意味で不遇と言うか、悲惨と言うか、せめて本人がそれをネタに出来ていたならば、道化役というものになれれば逆に人気者になれたかもしれないが、実に救われないことに当人はどっちかと言うとヒーロー願望の抜けない素の厨二病。
アニメだの漫画だのの台詞をネタとして口にする事もあるが、基本奴は素面で真面目にオリジナルの厨二ワードを口から吐く、これが実に痛々しい。
外見と釣り合っていない、アイツの現状の立場というかヒエラルキーでの位置に釣り合っていない、間違ってはいないが万人にそうだと認められるか微妙な価値観のアイツなりの正義感、筋の通し方、全てが絶妙なまでに噛み合っていない。
いや、悪い方向へと噛み合っている、絶妙に空回っている、と言うべきか。
ドン・キホーテっぽいっつーのかね、もちろん悪い意味でだ。
侮られ、馬鹿にされ、それを笑い飛ばすメンタルの強さがなく、意地になって抗う言葉は身の丈に合っていない厨二的発言、それに返ってくる失笑、嘲笑、それにムキになって顔を真っ赤にして口を開けば開くほどに更に馬鹿にされる。
最終的には拳を握りしめたまま俯く事しか出来なくなる、殴りかかるには心根が微妙に善良というか小心というか、両方なんだろうとは思うが。
腕っぷしに訴えるだけの胆力を小学、中学時代に折られたような事をちょろっと湊の奴が口にしていた気もするが、割と適当に聞き流していたからよく覚えていねえ。
そのくせ結局意地を張って反抗するもんだから常に体よく精神的サンドバックにされている。
まあ、手ごろな、実に手ごろな相手なんだろう馬鹿にする方としては。
で、そんな奴らが高校生活で近寄ってきて、実にアレな感じの集まりが形成され、こうして俺の部屋が溜り場になっちまった。
別にちっとぐらい騒がしくても今の俺には特に邪魔にならんから別にいいんだが、ほんと変なのが寄って来たもんだ。




