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 アイツが死んでからもう一年か・・・。 




















 受験、ああアイツはいい奴だったよ、もう思い出すと辛いから忘れる事にしたんだ。

 

 正直どうでもいいことだな、この一年間の事とか特に高校進学を無難に決めて、特に問題なく受かってそれ以後も特に通学距離が長くなった程度の変化ぐらいしかねえし。

 登校は・・・まあ、中学の時と比べたら信じられないぐらい真面目に出席してるぜ。


 出席してるだけだが。


 基本的に教科書に漫画やらラノベ挟んで読みながらの受講って奴だな、だがちゃんと授業の内容は耳に入ってるから問題ねえ。

 単位の計算もキッチリしてサボる時はガッツリとサボってっけど問題ねえ。

 成績も別段問題ねえし、問題があるとすりゃクラスの連中とかが話しかけてくんのがウゼエぐらいだが、普通に村尾が周りをうろつくだけで潮が引けたかのように散るから問題ねえ。


 いや、問題ねえ、のか?


 どんだけ周りから引かれてんだよ村尾、お前、確かに相変わらずカクカク挙動不審だが、しかも以前よりもその動きにキレが増して余計に不気味になったが、目つきも更に危なくなったが、お前それでいいのか。

 気が付いたら階段やらがある方角に、真下やら近くでやってないだけマシなのかはわからんが上向きで視線向けてたり、高所から下を鋭い目つきで見降ろしてるが、お前何やってんの・・・いや、うん、聞くまい、正直色んな意味でどうでもいい。

 

 「見えそうで見えない時々見える絶対領域を侵し、高所より見下ろす山の谷間、谷間が小さいと頂きも望むことが可能、絶景」


 聞いてねえつってんだよボケが、お前ほんとに通報されても俺を巻き込むなよ?家宅捜索が俺の部屋に入ったりしねえだろうな、冗談じゃねえからな。

 

 「通報、前提、とか、厚い、信頼を、感じる」


 キショい、ネチャっとした笑いを俺に向けるな、俺の後ろの方で女子の小さい引き攣った悲鳴と椅子が倒れる音がしたじゃねえか。

 

 「・・・クヒッ、滾る。 ウス異本が、召喚、できそうな、いい、引き顔、リョナ展開、滴る」


 あー、触手が生えてきそうなウニョウニョした動きしてんだろうが俺はこの新刊読むのに忙しいからこれ以上は付き合ってらんねえ、だから失せろ。


 「オウフ、承知、トイレ、言って、スポット徘徊、してくる」


 一々俺に行き先を告げるんじゃねえよ気持ち悪い奴だな、トイレでナニすんのかとかスポットって何のスポットだボケがとか今更俺が突っ込むとでも思ってんのか、つか今更どころか一度もツッコミ入れたことはねえが。

 

 「・・・アイツ、やっぱヤベえって、なんであんなのが野放しなんだよ・・・」


 「だ、大丈夫・・・?」


 「・・・こ、怖かった、鳥、鳥肌が」


 「アイツ、なんかキメてんじゃねえの?」


 「キメてくれてたら喜んで通報するっての、そうじゃねえから困ってんだろうが・・・!」


 「て言うか、なんでアレ相手に平然としてられるんだ稲生の奴」


 外野の囀りが耳障りだが、まあ村尾の痴れ言よりはマシか。

 しかし、この巻に入ってからなんか超展開だなコレ、設定破綻してねえか?

 まあ深く考えずにノリで読むような話だし別に良いんだが、面白ければ、あと萌えられれば。


 「あの、稲生君・・・」


 なんか話しかけてきやがったな、とか考えて右目だけ視線を寄越す。

 左目は相変わらず手元のラノベ新刊の文字を追ったまま、ってか何時の間にかこの切り分けも可能になったが、正直使いどころが限られるんだよな。

 コレで二冊同時に読めるぜ、とか思ったが手は増えねえしページ捲るのがめんどいってか、なんかしっくりこなくってなあ。

 こう、アレだ、やっぱ手元に一冊置いてそれを捲りながらってのがしっくり来るというか、な。

 最近はラノベ原作のアニメを見ながら、そのラノベを読むってのに使ったりもするが、それすっと今度は複数画面で見るのが難しくなるし、中々上手く行かねえもんだ。

 まあ、こうして本を読みながら行動できるようになったってのは利点ではあるが。

 

 「えっと、稲生君?」


 あー、誰だっけこの女、確かクラスメイトの、名前はまあいいか、用件はなんだ一体。

 そう尋ねるとホッとしたような、それでいて顔を向けないことに不満そうな、それでいてこっちを凝視しつつなんかちと顔が赤い気がせんでもないがどうでもいいな。


 「あ、あのね、村尾・・・君の事なんだけど」


 君付けすら戸惑われるのかアイツ、大概だな、と言うかアレによって被った被害について俺に何か言われても知らんぞ。


 「えっ、あの、でも・・・」


 知らん、基本的に俺はアイツに大してハッキリと何かを求めたこともなけりゃ、何某かを求められたこともねえ、何か言いたい事があるなら直接言え。


 「そっ、それが出来たら! 苦労はしないよ!!」


 いや、アレに話しかけようともしてねえじゃんお前ら、その時点で苦労もクソもねえだろうが。

 ただ遠巻きにヒソヒソコソコソ囀ってるだけじゃねえか、俺も進んでアレに話しかけようとか思わねえから気持ちはわかるが。

 

 「だ、だったら・・・!」


 言わなかったか、俺も、進んで、アレに、話しかけようとは思ってねえ、つってんだよ。

 何勘違いしてやがる、アイツが俺が言えば行動が変わるとでも思ってんのかね頭沸いてんのか?

 ・・・まあ、強く言えば少しは考えるかアイツも、いや、ねえわ。

 そもそもそう言う間柄じゃねえし俺ら、と言うより俺が誰かから何か言われて何か変えるって事がそもそもねえのに、それが煩わしいとか思ってんのに、それを俺がわざわざアイツに言うのか?

 ハッ、ねーわ、断じてねーわ、つーわけで煩わしいから、俺は今この新刊を読み終わっても別のを読む予定があるんだから邪魔すんな。

 そもそもだ、俺はアイツと違って、お前ら含めて周りになんの興味もねえんだ、相談する相手が間違ってんだよ、見てりゃわかんだろうが。 

 そう言う相談は、先公や学校なり、警察なりにしろよ。


 「なっ・・・あ、貴方達友達なんでしょ」


 ハア?友達かどうかは兎も角として、それとコレに何の関係があるんだ?

 アレが俺にとって身内だろうがそうで無かろうが、俺に連座するような責任がなけりゃそもそも何か言う事なんざねえよ。

 これが明確に法に触れるっつーんなら俺も何か言うなり、近場から叩き出すが、存在そのものが犯罪みたいな奴ではあるが、なんか捕まるような事してんのかアイツ。

 確か、『何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑猥な言動をしてはならない』とか言う法律だか何だかあったが、それかね。

 アイツはそこまで踏み込んだことしてっか?興味ねえからどこまでやらかしてるかなんて全く把握してねえが、着替えとか露骨に覗いたり、誰かに襲い掛かったりしたんなら流石に俺も警察に突き出すぐらいはするが、何かあって俺の部屋に踏み込まれたりしても迷惑だしな。


 「えっ、あの、その、ほ、法律詳しいの・・・? って、そうじゃなくて、警察に突き出すとかその前にやる事が・・・!」


 詳しくねえよ法律なんざ、ただアレが捕まるとしたら一体何の罪状かってのがちと気になったから該当しそうなのをちょろっと調べただけだ。

 つーかよ、アレは基本ボソボソとしか喋らねえからお前らじゃ何言ってかわかんねーだろうからきっとアイツの行動っつーか挙動に不審っつーか不安を覚えるんだろうけどよ、だったら尚更お前らが直接言うなり通報するなりしたらどうよ?

 キッチリ、ハッキリとよ、


 お前が気持ち悪いからその動きを止めろ。


 とか、


 先生、お巡りさん、この人です。


 って、よ。


 「そ、そんな酷い事・・・私・・・っ!」


 ん?なんかめっちゃ狼狽えてるが、酷い事?

 何言ってんだコイツ、アイツの現状の方がよっぽど酷い様だろ。

 ザ・不審人物、キングオブ挙動不審、アウトオブ健常、錆び付いた呪いの絡繰り人形、カマキリ怪人、キモコダマ、糸の切れた凧、糸の絡まった傀儡、人間クラゲ、変態挙動・・・


 「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って、そんな仇名というか陰口聞いたことないんだけど!?」


 ハァ?何言ってんのお前、俺がアイツに言ったというか付けたんだから聞いたことないのは当然だろうが、お前らが陰で言ってたのはなんだ、薬中とか、ゴキブリとか・・・


 「待って、ねえちょっと待って、さっきの本人に直接言ったの!?」


 ハアー?言ったに決まってんじゃねーか、お前らが陰で囀ってた内容も含めて全部言った事あるぞ俺ァ、通報されても逮捕されても俺はモザイク有のインタビューすら拒否るって事も含めて言ったぞ。

 言ったらネチャァっとした笑顔でいつも以上の痴れ言ほざきだしたんで、そん時は流石にキモ過ぎて蠅のように叩き潰して外に捨てたが。

 あの後は流石に気持ち悪くて除菌効果ありの消臭スプレーを買いに走ったもんだ。

 ってか、意外と俺ってアイツに色々話しかけてんじゃねえか、何時だ?俺は何時何度何刻アレに対して無駄な時間を使った・・・?

 

 「あの、ねえ、貴方達は友達・・・なんだよね?」


 俺が不毛な行為によって失われた貴重な時間と労力に愕然としていると、なんか同じく愕然とした様子でそんな事を話しかけてくるが、なんだよまだ居たのか。

 さっきからトモダチー、トモダチーって念仏か何かかよ、知らんがな。

 

 「えっと、稲生君、何を言ってるの・・・?」


 お前こそ何言ってんだ。

 ・・・んー、その、なんだ・・・そう、俺はさあ、巣を張る蜘蛛ってのは鬱陶しくって大嫌いでな、見つけ次第巣を払って部屋から叩き出すんだがよ。


 「えっ、蜘蛛?何、言ってるの?」


 けどよお、茶色い巣を張らないデカい蜘蛛、アシダカグモってんだっけか?アレは別にデカくてちとキモいと思うが近寄ってこなけりゃ別にわざわざ部屋から叩き出そうとか考えねえんだよ。

 んで、ちっせえ指の先っぽ位の蜘蛛ってのも居るじゃねえか、ハエトリグモっつーの?ああ言うのはむしろ近寄ろうが手に乗ろうが全然気にもならねえし、むしろ指先にアレの出す糸使ってぶら下げてヨーヨーみたいにして手遊びとかすっこともあるぐらいだ。

 

 で、聞きたいんだけどよ、お前らにとっちゃ俺の部屋に居るだろうアシダカグモとかハエトリグモってのはペットだったり家族だったりするわけ?


 「い、意味・・・わからない・・・よ」


 さよか、ならお前と話すことはこれ以上ねえな、ってかきっと最初っからなかったんだろうが、な。

 っと、丁度読み終わったから次を・・・あら、あと読んでねえのは鞄の中か。

 席を立ち俺の鞄を漁くって読んでないラノベと漫画を取り出し、読み終わった物を入れてから戻ると、さっきまで呆然と立ちすくんでたクラスの女が肩を落として教室から出ていく姿が見えた。

 名前結局なんつったっけかねアレは、ってか昼休みはもうすぐ終わりだと思うんだが、まあいいか。

 


 

 

 

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