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何事もなく平穏無事な俺の街での素敵生活も彼是三年目に突入した。
相も変わらず殆ど学校に顔を出すことなく進学し、今日も今日とてアニメを鑑賞しつつ両手でダンベルをお手玉しながらエクササイズバイクを漕ぐ。
「・・・相、変わ、らず・・・・・・人外」
そうして振り返れば奴がいる。
村尾村住、通称キモコダマ。
階段から転落して流血、意識不明の重症から復帰し検査では異常が見られないものの、原因不明の体の動作不良によりリハビリなどを行ったせいで退院に半年ほどかかったらしいが現在は異常なく異常行動をしている不審者。
つーか、元々の動きがカクカクしてやがった不審者なんで退院が体の動作不良で伸びただの云々を担任から聞かされた時は、なんつーか思わず元々動作不良だったと思うんだがとか答えてしまい指導室に連れて行かれる羽目になった苦い思い出が。
何時の間にか復活して、何時の間にか俺の部屋に来ていて、何時も通りにカクカクしてた時には何一つ病状が改善してねえじゃねえか、と思ったもんだ。
「心外、な・・・死の淵から、生還し、新たな力に、め、ざめた、この、僕、に・・・」
とか、ほざいてやがるが、目覚めたのは新たな性癖だろうがこのクソ戯けが。
復帰早々にいきなり大量のエロゲを、病院を舞台にしたやつを大量に注文しやがってボケが。
むしろ色々と悪化してんじゃねえか、口数は若干多くなった気がするが、それも・・・。
「病、院での、リハ・・・ビ、リは地獄だ、った。 ま、さに監、獄。だ、が、リハ、ビリに・・・付、き添っ、てくれ・・・た、若、い看護、婦さ、ん達、と、そ、のおっ、おっぱ、ぱいが僕、を、はげ、まし、はげ、し、く、震い、立た、勃たせてく、れた。
だがババア、テメエは駄目だ」
ダメな方に雄弁になってやがる、悪化してんじゃねーか!
つか、ドモリながら虚空に向かって手をワキワキさせて穏やかな顔すんな、そして突然真顔で普通に喋ってんじゃねーよ、キモイわ。
再度出没するようになってからずっとこんな調子で俺にナース服と胸の大小それぞれの良さについて語り掛けてくるようになりやがった。
もういいから黙ってエロゲでもやってろよ、そんな積極性は求めてねえから。
というかお前に対して俺は何も求めてねえから。
いや、求めてたわ、ニッチ過ぎるジャンルのエロゲを俺に勧めて来るなってのを求めてたわ。
普通の、普通のなら別にいい、看護婦ものも別にいい、だが相変わらずなホモゲーとか獣姦系やらを積極的に勧めてくんな!
というか、俺に寄ってくんな蹴ったくるぞボケが。
「僕、の、この・・・黄金、体験、を、共、有、して、素晴らし、さを、分か、ち、合」
喧しいわ!お前のリハビリ中の若い看護婦に歩行補助してもらった時にどさくさ紛れに二の腕に触れた胸の感触の大小問わない感想やらは聞き飽きたわ!!
てか、最初はその年上受けするお綺麗な童顔と事故の後遺症で言葉と動作がアレなんだろうと同情されてチヤホヤされてたが、何時まで経っても改善しないうちに実は元々がどもった喋りと挙動不審だってバレて病院叩き出されたとか言うオチだったんだろうがこの変質者が!
「・・・・・・若、い看、護婦さ、んと・・・ババアに対する態度の違いで露見した、一生の不覚。 あのババアがどこまでも祟る、何時か呪い殺す」
なんでババアという単語が出て来るとどもらなくなるんだよわざとやってんのかコイツ。
もう喋り始めやら合間合間にババアという単語を入れればいいんじゃねえの?
「・・・そ、れは、無理。 に、憎し、みが、こ、もら、ないと。現、に、ロリ、ババ、ア、とか、だと、大好、物、なん、で、言、の葉、に、憎、しみ、が乗、らな、い・・・チッパイもいいよねロリババア美味しいです」
お前どんだけ憎んでんのそのオバちゃんの事!?ってか憎しみじゃなくても感情が強く乗るとどもらなくなるんじゃねえかオイ。
「・・・・・・お、ぉ、そう、な、のか?
・・・・・・・小さくても大きくてもオッパイはいい文明、貴賤はなく全てにおいて尊い。
お、おぉ・・・た、しか、に、やは、り、おっぱいは偉大、おおパイなり!」
キリッとした顔で痴れた事ほざいてんじゃねえよ、もう黙ってエロゲでもしてろ。
「おぉ!・・・パイなり!!」
それ、返事のつもりか?次やったら叩き出す。
腕を上下に振るな、なんでそんな動きだけキレッキレなんだよアホが、それも禁止だ。
そう言った趣向のエロゲは・・・別に構わん。
だがグロとかスカとかトロとか俺の積みゲ棚に混ぜたらブッ飛ばす、器具系も要らん。
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「・・・そ、う、言え、ば、三年、生に、な、ったし、高、校、受験、どこ、に・・・する? 制服は重要、妥協は出来ない。 と、言う、よ、り・・・進、学す、るの?」
ある日、突然そんな事を言い出した村尾に思わず白い目を向けた俺は間違ってないはずだ。
この野郎、真面目な事ほざいたかと思えば口調で丸わかりじゃねえか、高校の女子制服にのみ関心があって俺の進路とか実は心の底からどうでもいいと思ってんだろ。
しかし、進学ねえ・・・流石にしないって訳にも行くまいよ、めんどくせーけど。
そんな風に答えつつ、でもどうせ登校しないんだろう的な事を行ってくるが流石に少しは真面目に出る・・・かもしれん、いや、わからん。
どういう変化だとか聞いてきやがったが、粗方見たい漫画やラノベ、あとアニメも消化したし、ゲームも同じようなもんで、そろそろある程度は学業ってもんに精を出す頃合いだと少しだけ思ったんだけだ。
まあ、実際通ってみて微妙だったり、そこまで熱心にやらんでもなんとかなりそうならそこまで真面目に通わねえかもしらんが。
「・・・や、はり、だが、勿体、なし。 わり、と、モテる、のに、リア充、生、活に、キャッ、キャ、ウフ、フの、ス、クール、ライフ、に興、味な、しとは」
いや、リアルに求める充実ってのは喰いモンと漫画やラノベ、アニメやゲームで十分だっつの。
お前らみたいな平たい顔族とのリアルでのにゃんにゃんとか別に求めちゃいねえなあ。
喰いモンの事やら平たい顔がどうたらってのは口には出さんが、兎に角そこらへんはどうでもいいんだよ。
とりえず高校は進学するとして、こっから一番近えとこでいいだろ、何高だか忘れたが。
「・・・そこ、結構・・・偏差値高、め、だった、筈。 だが、制服がいいし校則は結構緩いんでスカートとか短かったし着崩した着用もしていた。 階段もいい角度、僕も、そ、こへ」
お前なあ、いや、校則が緩いってのは有り難いとして、着崩れ云々もまあいい、階段の角度ってお前、一体何を求めて学校選んでんだよ。
「エロ、ス、を・・・迸るエロスを、チラリズムも素晴らしい、絶対領域も含めて、あと一部生徒の着崩しにビッチ臭がするのも美味しいです。走れ、エロ―――」
ス、トップだこの野郎、もういいから黙ろうか変質者。
つか、何故そんなに詳しいのか、いや、いい、理由は聞きたくない、どんなリサーチしたとかどうせ吐き気を催す粘っこい話を聞かされるだけだから黙れ。
しかし、偏差値高めねえ・・・もちっと勉強はしておくべきか。
「参考、書、等は、任せ、ろ・・・ばり、ばり・・・」
そう言えば、成績はいいんだったなコイツ・・・内申とやらがどうなってんのかは知らんが、それ言ったら俺の方がアレなんだろうし。
取り敢えず萌え参考書を各種取り寄せるところから始めるか。
「真面目、に、やれ」
お前が言うな。




