表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

さん振り目 誘惑の、


 よし、決めた。これからチトセちゃんに言おう。


 考えてばかりでは進めません、言葉にしましょう。


「チトセちゃん」「イクタさん」

『!』


 意識しなくても声が重なって、二人は目を丸くした。


「えと、チトセちゃんから先にどうぞ」

「いえいえ、イクタさんがお先に……」


 想っている人の話は、先に聞きたい。考えていることが似ている男女であった。


「長い間、黙っていたじゃないですか。これから重要なことを言おうとしていたのでは……?」

「それは、チトセちゃんも、だよね?」

「重要かと訊かれましたら、はい、と答えます。でも、私にとって最も重要なことは……」

 イクタは、二の腕をさすった。困っている時にとる癖だ。

「僕は、チトセちゃんの話が大事だけどな……。うん、譲り合ってばかりもなんだから、僕の方から手短に言うよ」

 チトセはぶれなく静止した。

「なんで、僕の分だけなの?」

「え」

 想定を外れた質問に、チトセはショートしそうだった。

「手料理、とっても嬉しい。本当は熱いうちにいただきたかったんだ。だけど、さ……」

 ミスをしない彼女に、恥ずかしい思いをさせることは、イクタには許せなかった。だが、これだけは分かってほしい。

「一緒に食べたら、もっと嬉しいんだ」

 チトセは胸を押さえた。イクタと会って149回目、温泉に浸かったような、感覚。血の通わない、無機的な自分に熱を与える存在は、イクタだけ。

「私、大変な失敗をしました」

 初めての、ミス。計算はずれ。しかし、お互いに笑える「うっかり」であった。

「冷めてしまいましたね。二人分にして作り直します」

「待って!」

 皿を下げようとするチトセに、イクタはめずらしく大声を出した。

「次からでいいよ。だから……」

 散蓮華を取り、イクタは彼女の手料理をすくった。

「……分けっこしよう」

 チトセは、自分の体温が正常でないことを感知した。

「もう一本、蓮華を持ってきましょうか」

「それは後」

 イクタが、蓮華を持つようにすすめる。チトセは、慎重にもらい受けた。

「食べさせてよ、チトセちゃん」

「……!」

 彼の声がうわずっていた。また、勇気をふりしぼったのだろう。それならば、応えよう。

「はい、どうぞ」

 できたてはとうに過ぎていたが、真心は熱いままだ。思い出のアルバムに、新しいページが加わった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 企画からお邪魔しました。 間違いなく、熱々のチャーハンですね。作りたてではなく冷めてしまったとしても、とっても美味しいアツアツのチャーハン。 ご馳走様でした。
[一言] 更新お疲れ様です。 炒飯は冷めてしまって熱々ですね。 足りないものはオリーブオイルだと思っていたら... なんだか、自分がとてつもなくしょうもないやつだと思えてきました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ