まずは少しの雪を
深呼吸をしてから、小雪のドアをノックした。返事が返る。もちろん居るのだ。
「お帰り、お兄ちゃん。遅かったね」
「ただいま戻りました」
「それで。私に何をしろって? あの人たちは」
う。
「知っていたのか」
「知ってた。面倒だから、認めたくなかっただけ」
言葉が、出て来なかった。強い拒絶に驚いたからだ。
考えてみたら僕は、この力を不満に思ったり持て余したりしたことはなかった。ただあの世界を楽しみ、遊んでいただけだ。
小雪の気持ちは難しい。わかってやろうと思うのに。
「お兄ちゃん、さっき見てたでしょ」
あぁ。そんなことまでバレてるのか。
「あいつね、変なんだよね。私のことがわかるんだって言うの」
「わかるって。何を」
「私の変な力を、理解できるって言うんだよ。普通は見えないものも見えるんだって」
「……なんで気付かれたんだろう」
「知らないよ」
疑問の答えは、僕の頭の中にきちんと用意されたものだった。予定されていた台詞のように。
小雪の投げやりな答えは、まったく不正解の解答以前だ。
「よし、ここで一つ大切な話をしよう」
非常に不愉快な顔をされても怯まない。小雪の欲しいものを、僕は知っているのだから。
「わかりたいと思ったら、いろいろなことがわかるんだ。見たいと思ったら、見えてくるんだよ」
そう思いたかったんじゃないか? おまえは。
「強く信じたら奇跡は起こるってこと。僕たちの力は僕たちだけのものじゃない」
『普通』の人だって、不思議を起こしている。その段階で『普通』はなくなるのだろうか。
そんな矛盾に、妹は気付いていないだろう。
道は曲がりもするのだ、どこでだって。考えを一本道で通そうとするから、壁にぶつかるんじゃないのか?
それは僕も、迷子になることはあるけれど。
この沈黙はいつまで続くだろうなんて心配をし始めた頃、小雪は右手の魔法の薬指を立てた。
異世界への扉を開く、小雪だけの合図。
周りの景色が、一瞬で変わる。まるで舞台をくるりと反転させたかのように。
待ち構えていた例の仲間にあいさつをすると、すうっと息を吸い込み、空へと手を伸ばす。
雲の色がだんだんと黒く染まり、やわらかな淡い淡い真白な、粉雪が舞い降り始めたのは、それから三秒後のことであった。




