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第八話

ぶっちゃけ日露戦争はあまり変化ないんですねはい









 大韓帝国が裏切った報告は直ぐに大陸にいる満州軍に伝えられた。


「クソッタレ!! 何という事だ!?」


 満州軍総司令部で児玉は大韓帝国のやり方に罵倒する。皇帝高宗を始めとする親露派はロシヤ軍と内通し日本と結んできた条約等を全て破棄を通告しロシヤ製や旧式の小銃等で武装した一個連隊が漢城府にて徹底抗戦の構えを見せたのである。

 しかもロシヤ軍と内通した事で満州軍総司令部ではある悪い予想が出ていた。

 『ウラジオストクから元山方面へロシヤ軍が侵入してくる可能性が極めて大』と……。

 事実、極東総督のクロパトキンは大韓帝国の内通に喜び攻勢を仕掛けようとしていた。更にウラジオストクでも約10万の兵力が編成され進軍を開始しようとしていたのだ。

 そのため、満州軍総司令部でも今後の決断を迫られていたのだ。


「何という……三好君からの助言があったのにも関わらず何と体たらくじゃ……」

「児玉さぁ」

「大山閣下」

「児玉さぁ、構わんたい。戦線を下げるでごわす。オハンの責任ではなか」

「……はっ」


 大山の言葉に児玉は頭を下げる。


「児玉さぁ。戦線に関しては『此処』と『此処』まで下げるでごわす」

「……そうなりましょうな」


 大山は鉛筆で地図に数ヶ所書き込みそれを見た児玉は頷く。その箇所は遼東半島ーー旅順と朝鮮半島ーー平壌と元山だった。


「この三ヶ所を……『絶対国防圏』とするでごわす」

「絶対……国防圏ですか……」

「そいでごわす。これを破られたら……」

「日本に勝ち目は無い……という事ですな」

「如何にも」


 児玉の言葉に大山は頷く。


「第四軍から先に撤退せよ。殿は第一軍が受け持つ」


 まだ戦力を保持していた第四軍を先に逃がす事で犠牲を最小限に留めようと大山はそう考えた。しかし、第四軍司令官の野津道貫大将は違っていた。


「我が第四軍はこれよりクロパトキンのロシヤ軍に突撃する」

「閣下!?」

「聞け上原。確かにこれまで第一軍はロシヤ軍と対峙していたので黒木もやりようは知っていよう。だがその戦力は三分の一まで減っている。これでは直ぐに破られる。だから……だからこそ我々が突撃するのだ!!」


 声を荒げる上原参謀長に野津はそう諭す。


「閣下……」

「ハハハ、心配なか上原。大山さんも児玉さんが生きていればこの戦争は負けん」


 野津はそう笑い、命令を下した。


「総司令部に打電。『我ガ第四軍、殿承ル』。さぁ往こかい!!」


 斯くして第四軍は進撃してくるクロパトキンのロシヤ軍に抵抗を開始する。その報告を受けた大山は第四軍の方向に頭を下げた。


「……済まんこってです」


 クロパトキンのロシヤ軍約25万と第四軍約6万は実に15日間も死闘を繰り広げた。後にこの戦いは『奉天の撤退』と呼ばれ、結果として第四軍は壊滅状態になり野津と上原も負傷するが、再編成が完了した秋山少将の混成騎兵旅団(残存の第一、第二騎兵旅団)が駆けつけた事で全滅は免れて後退に成功する。

 満州軍は第四軍の壊滅という代償の引き換えに撤退を完了させ再陣地構築に移行していた。そして児玉は歩兵一個旅団を漢城に向かわせた。この騒動を仕掛けた下手人である高宗を捕らえようとしたが、高宗は女官に変装して両班と共に漢城から行方を眩ませるという方法を取るのである。


「クソッタレがァ!!」


 高宗を取り逃がした報告に児玉は元より将和もキレていた。


「クソ……これが歴史というやつかよ……何の為の四回目なんだ……」


 将和は前回と前々回で体験していた筈なのに完全に失念していた。自分達が戦っているのは敵性国家ではなくそれ以上の妖だという事を……。

 そして内地ではある決断を迫られていた。


「駄目じゃ桂さん……。最早徴兵の底がついてきたわい」


 桂首相にそう報告するのは陸軍大臣の寺内正毅中将はそう告げるが桂はフンと鼻を鳴らした。


「寺内大臣、まだ底はついとらんぞ」

「で、ですがこれ以上は40以上の男や女性に……まさか総理!?」

「そうなるしかあるまいて……」


 驚愕する寺内中将に桂は苦虫を潰したかのような表情をする。

 黒溝台の敗退、奉天からの撤退で陸軍は多くの将兵が満州の地で倒れていた。(死傷者は約11万)


「三好君は悪くない。むしろ、ようやってくれとる。三好君に頼りきっていたワシらに落ち度があるわい」


 桂は汚名を全て引き受ける覚悟を決めていたのだ。桂の覚悟に寺内も頭を下げた。寺内自身も陸軍大臣としての職務を全うしようとするのである。そして2月20日、桂は徴兵の引き上げと拡大を発表した。

 即ち、『40~50歳までの男性と20~30歳までの女性の徴兵』である。だが老年のは何とかなった。何せ男であるからだ。問題は女性である。


「男なら下着とか色々判るが女性とかは判らんぞ……」


 徴兵担当者が思わず根を上げる程であった。この徴兵により約60万の兵力が付く事になる。だが、徴兵したからと言って彼等彼女達が最前線に行く事はなかった。彼等彼女達の任務は内地防衛だったからだ。それまで内地防衛をしていたのは留守部隊であり彼等の代わりに内地防衛をする任となっていたからだ。

 また、軍需工場にも女性が工員として働く事が法改正を行った事により可能となり日本という国家は総力戦という事を理解していくのである。

 3月3日、日本では桃の節句であるがクロパトキンのロシヤ軍は兵力の約40万を分けて一つは旅順へもう一つは朝鮮半島に迫ろうとしていた。

 旅順には先の黒溝台会戦をロシヤ軍の勝利にさせたグリッペンベルク大将率いるロシヤ第二軍が大連まで到着していたが斥候からの報告にグリッペンベルクは唸りをあげた。


「マカーキめ……粗方の防御陣地を築いたか……」


 ミシチェンコ中将の大機動軍からの報告では旅順にいる日本軍ーー第三軍は東鶏冠山等の破壊した堡塁を修復させており更には防御陣地も築いていたからだ。だがこの修復と言っても破壊されたコンクリート等はまだ完全修復はされておらず堅牢ではなかった。

 それでもグリッペンベルクは安易に旅順を攻める事に躊躇した。が、朝鮮半島に向かったクロパトキンのロシヤ軍が平壌の第二軍に攻撃した事でグリッペンベルクは攻撃を決断した。


『ypaaaaaaa!!』


 総勢20万の兵力は203高地等には目もくれずに東北正面の堡塁群に突撃を開始する。だが、彼等を待ち受けていたのは機関銃の雨だった。


「機関銃だ、伏せろ!!」

「馬鹿、こんなところで伏せたって……」


 ロシヤ軍兵士は銃撃に伏せたが上から降ってくる砲弾に吹き飛ばされた。

 第三軍は鹵獲したマキシム機関銃等を大量に配備させており更には陸軍が採用していた保式機関砲等も使用していた。しかも第三軍は海軍から余剰砲や機関砲等を大量に陸揚げしてもらい配備させていたのだ。


「もう少しだ……もう少しで敵の堡塁は突破出来る……」


 そう願うグリッペンベルクだったが伝令からの報告は非情だった。


「突撃した二個師団はほぼ全滅!!」

「更に大機動軍司令官のミシチェンコ中将も戦死!!」

「……おのれマカーキィィィッ………!!」


 グリッペンベルクは死傷者が5万との報告が来た時には攻撃を中止した。そして彼は旅順を包囲する事にしたのだ。

 彼も総力戦というのを文字通り痛感したのである。同じ頃、クロパトキンも平壌攻撃に失敗し撤退していた。側面から元山方面から駆けつけた梅沢旅団等の二個師団相当に突かれてしまい総崩れとなったのだ。

 こうなってはクロパトキンも対陣する他なく、気付けば陸の戦線は膠着してしまったのである。 

 そして舞台は海に移る事になる。


「大丈夫かの俊輔?」

「さ、坂本さん……」


 前回と違う戦争に頭を抱える伊藤だったが伊藤に訪れた坂本商会の会長である坂本龍馬はケラケラと笑っていた。


「坂本さん、今回は違う戦争になっているんです。こうなっては……」

「落ち着かんかい俊輔。おまんが慌てたら下の者も慌てる事になるわい」

「それは……」

「むしろ土俵が整ったと言うべきじゃが……」

「坂本さん、何を……」

「儂らの丁半博打はこれからじゃき。『三好の最後の将軍を動かしたあの時』も博打じゃったじゃき」

「……そうですね」


 ケラケラと笑う龍馬に伊藤も苦笑する。


「輸送に関しては坂本商会に任せるきに」

「勿論です」


 斯くして彼等も動き出す。全ては一か八かの賭けに勝つためにである。






御意見や御感想等お待ちしていますm(_ _)m

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[一言] 坂本商会が動く、か。
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