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第六話







 旅順の守備を担っていたに等しいコンドラチェンコ少将が戦死した事でロシヤ軍の士気は低下し、第三軍の士気は向上した。

 そして12月、旅順要塞東北面突破のため第三軍の各師団は再配置を完了させた。


「司令官、いつでも行えます」

「……ご苦労」


 伊知地の報告に乃木はゆっくりと頷き、命令を発した。


「12月18日を以て東鶏冠山北堡塁を爆破、それ以降の要塞も順次爆破していく」


 18日、日本軍工兵隊は東鶏冠山北堡塁の胸壁までたどり着き、25トンの爆薬を取り付け爆破した。それに基づき、各野砲や野戦重砲群は次々と砲撃を開始したのである。


「28サンチ榴弾砲で旅順を耕せ!!」


 26門にまで移送された28サンチ榴弾砲はその威力を発揮した。観測砲撃により破壊された堡塁の穴の中に砲弾が飛び込んで堡塁を破壊、次々と平らげていく。それを確認した乃木司令官は突撃を発令させた。


「訣別!! この二文字の他に言うべき言葉はない!! 骨の捨て場所は……戦場いくさばじゃあ!! 突撃ィィィィィィィィィ!!」

「第一小隊ごとより小隊ごと躍進!! 進めェ!!」

「目標!! 鉄条網前方爆破口まで躍進距離50!! 突撃ィィィ!! 前ェ!!」


 各指揮官が突撃命令を出す。その命令を待ってましたとばかりに兵士達は塹壕から飛び出し、雄叫びをあげて突撃を開始した。


『ウワアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』


 第三軍はこの一戦に全てをかけたのである。そして第三軍はその賭けに成功するのであった。


「突撃ィィィ!!」

『ウワアアアアアァァァァァァァァァ!!』


 爆破後に最初に突撃を開始したのは第十一師団であった。


「ヤポンスキーが来るぞォ!!」

「機関銃で撃ちまくれェ!!」


 爆破で多くの将兵を吹き飛ばされたロシヤ軍だがそれでも生き残った者達は果敢に突撃してくる第十一師団の将兵に向けて反撃を開始する。

 ロシヤ軍が放つマキシム機関銃の.303ブリティッシュ弾は容赦なく突撃してくる第十一師団の将兵に降り注ぐが第十一師団の将兵は倒れる戦友に顧みず突撃をした。

 結果として第十一師団は死傷者700名弱を出すも夜半には東鶏冠山北堡塁の占領に成功し山頂には日の丸が翻るのである。

 東鶏冠山北堡塁を占領したに続き、22日には二竜山要塞の爆破が開始された。胸壁には20トンの爆薬が仕掛けられ爆破されロシヤ守備兵の大半が生き埋めとなるが残存ロシヤ将兵とロシヤ太平洋艦隊の艦船から降ろされ陸戦隊を編成した水兵隊の増援が来た事で、突撃してきた第九師団は激しい銃撃戦を展開するのである。


「突っ込めェ!!」

「九市、弾をくれ!!」

「寅さん、弾です!!」


 だが、状況を打破しようと歩兵第36連隊が後方に回り込んだ。その様子を確認したロシヤ守備隊は後方からの攻撃を恐れて撤退をした。これにより二竜山堡塁も23日0300までに占領されるのである。

 二日後の25日、第一師団は松樹山堡塁を19トンの爆薬で爆破し突撃した。この突撃には先に占領した二竜山堡塁からの援護射撃もあった事で後方を遮断する事に成功、1100には降伏したのである。

 31日には重要拠点である虎頭山や望台の要塞を爆破して突撃、これを占領したのである。ロシヤ軍は各要塞を奪取しようにも203高地等の攻防で予備兵力は枯渇し、要のコンドラチェンコ少将も戦死した中でも抗戦意思は捨てていなかった。

 しかし東北面の主要堡塁(望台)が陥落した事で旅順要塞司令官のステッセリは抗戦を断念し31日2200に第三軍に降伏を申し入れたのである。乃木は降伏を受諾し4日までの休戦(遺体収容等)とし5日にはステッセリと乃木は旅順近郊の水師営にて会見を行うのであった。

 こうして旅順攻囲戦は終わりを告げるのである。日本軍はこの攻囲戦に延べ16万の兵力を投入し死傷者は約1万だった。


(前回や史実に比べたら少ない死傷者……これが鬼と出るか蛇と出るか……それとも……)


 旅順陥落の報を聞いた将和は旅順方向へ頭を下げるのである。

 しかし、旅順を落としたのにも関わらず満州軍はそれを全て台無しにしてしまうのである。


「井口さん、ロシヤ軍は前線の動きを活発化しとる。何度も報告を入れとる通り敵は奉天の西南20キロの地点に集合しとるんじゃ!! 奴等は何か大規模な作戦を企図しておる筈じゃ!! 早急に対策を立てんとえらい事になるぞ!!」

「分かっておる……分かっておるんじゃ秋山さん……」


 満州軍総司令部の一室で第一騎兵旅団長の秋山少将は総司令部の第三課参謀の井口少将と話をしていた。


「松川さんには何度もそう報告はしてるんじゃ……だが松川さんは……」

「あいつは「ロシヤ軍は冬季には活動しない」とあのアホは何度警告してもそう返して一点張りじゃ。ロシヤ軍は極地の大国だということを忘れとる。ナポレオンの大軍を撃ち破ったのも冬将軍の時期じゃったじゃないか」

「分かっているよ秋山さん。じゃがその情報を受けて司令部にどんな対策がとれると言うんじゃ? 第三軍が旅順を攻略するために満州軍が備蓄していた砲弾を第三軍に分けたのじゃ。打つ手は……何も無いぞ」

「ぐっ……」


 井口少将の言葉は正確だった。満州軍は旅順攻略のために備蓄していた砲弾を第三軍に分けていたのだ。だが秋山もめげなかった。


「だがそれでいいのか井口さん? ないない尽くしで澄ましこんでいりゃあロシヤ軍が今にも押し寄せて我が軍は大壊滅となってこの戦争は敗けるぞ!! それでいいのか!! 陛下や国民に満蒙の地に果てた幾多の将兵達に何と申し開きが出来るんじゃ!?」


 秋山はそう言って話は終わったとばかりに席を立つ。


「松川のクソッタレに言うておけ!! 総司令部のストーブに当たっている暇があるなら外に出て敵の動きに耳を澄ませ!! 参謀肩章の分だけでも働けとな!!」


 言いたい事を言った秋山はバンと扉を閉めるのであった。そして外で待っていた副官と黒溝台に帰るのである。


「旅団長、司令部は……」

「駄目じゃ、司令部は動かん。貧すれば鈍す。総司令部の馬鹿どもは考える事を停止してしまった……新興宗教のようにロシヤ軍は動かんと信じ込んじょる」

「旅団長……」

「いや、そうであってほしいと思って願い込もうとしとるんじゃ。帝国陸軍はここまで墜ちてしもうた。この満州平原が帝国陸軍の墓場となるのだ……」


 そして秋山は馬を走らせる。


「クソッタレ!! 日本が亡びようとしてるのに何も出来んのか!? 何のために軍人となったのだ!!」

「クソ、秋山さんめ……言いたい事を言って行きおってからに……こんな事になればワシも前線に行けば良かった……」


 井口少将は走り去る秋山らを窓から見つつそう呟くのであった。

 その様子を別の窓から松川敏胤高級参謀が見ていた。そして児玉に書類報告をした。松川はうんざりした表情を見せていた。


「総参謀長、また秋山支隊からですよ」

「………」

「騎兵は敏感なのでしょうか? いくらロシヤ軍でもこの冬では動かないと思いますが……」


 そう喋る松川だったが児玉は違っていた。


「(……やはりこれが前回と同じく黒溝台会戦に繋がる……か)念のためだ。秋山支隊には予備の二個連隊と一個砲兵中隊を送ろう」

「は、はぁ。宜しいので?」

「誤報ならそれで構わない。いないなら回れ右をして帰ってくればいい」


 児玉はそう言って秋山支隊に予備部隊を送った。そしてこれが功を成したのである。


「秋山司令官、何故総司令部はガトリング砲を送ったのでしょうか?」


 ガトリング砲を設置している兵達を見ながら秋山支隊の豊辺大作は秋山少将にそう言った。


「いや……児玉さんは中々の事をしてくれた」

「どういう意味ですか旅団長?」

「機関銃の威力は旅順で証明されとる。我々が拠点防御方式の戦術を採用しておるからガトリング砲やロシヤ軍から捕獲したマキシム機関銃は絶大な威力を発揮するだろう」


 この入れ知恵は前回同様に将和の一計だった。児玉は内地の倉庫に埃を被って眠っていたガトリング砲十門とこれまでの会戦で捕獲したマキシム機関銃を予め秋山支隊に配備していたのである。


「……児玉さんも来ると思っとるな。陣地の構築を急がせろ。ロシヤは来るぞ」

「は!!」


 そして一月二五日、彼等は来たのであった。







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