第四話
さてさて、閉塞作戦は無事に終われたが今度は将和にある事が降り注ぐ事になる。
「第三軍に旅順攻撃調整のための派遣……ですか?」
「うむ。まぁ用が終われば直ぐに此方に戻ってきてもらうがの」
「……その……やはり乱闘のが……?(三回目と同じく暴れたかんなぁ……)」
「そいは他の参謀が責任を取ったでごわす。心配無か」
乱闘事件は海軍内ではあるが大きく取り上げられており先に手を出した参謀数名が事実上の更迭をされて『三笠』から降りていた。そして被害者の将和にも矛先は向いてしまったが東郷は笑った。
「おはんには乃木さんとの調整を頼むでごわす。おはんの口から説明すれば向こうも分かるでごわす」
「成る程……分かりました。直ちに向かいましょう」
斯くして将和は東郷から託された物等も含めて新編されたばかりの第三軍へ出向する事になる。なお、第三軍の編成は4月10日に編成された。司令官には乃木大将が就任、参謀長に伊地知少将が就任した。
なお、第三軍の編成は以下の通りだった。
・第一師団
・第九師団
・第十一師団
・第十三師団
・第十六師団
・野戦砲兵第二旅団
・野戦砲兵第四旅団
各五個師団で第三軍は編成されていた。無論、それは第一軍、第二軍も同様の編成でされている。
編成動員された第三軍は宇品から船舶に乗り込み出港、5月下旬には旅順外延部まで進出しておりその中に将和はいたのである。
「立て籠る旅順艦隊を陸から砲撃して無理矢理出撃させて海軍が包囲か……」
「はっ、なるべく早期との東郷長官からの願いではありますが……旅順は予想以上の防御陣地を構築しているとの情報があります」
「その情報は我々も承知しているでごわす」
将和の言葉に聞いていた伊地知少将が反応する。
「はい。特に機関銃陣地が……との事です。そこで我が海軍は軍艦の艦載砲を降ろして重砲隊を編成して陸軍を支援するとの事です」
「ほぅ、海軍さんもですか」
ウラジオストク巡洋艦隊を撃滅させた事で余裕が出来た聯合艦隊は防護巡洋艦等旧式艦艇に搭載していた艦載砲を降ろして海軍陸戦重砲隊を編成させていた。
12サンチ砲×36門
15.2サンチ砲×24門
4.7サンチ砲×70門
これだけ揃えられたのも『浪速』型二隻、『秋津洲』型四隻、『吉野』型六隻を整備していたおかげであり砲の大半もこれらから含まれていたのだ。
「ところで……三好特務参謀は日本海海戦では『三笠』で戦ったのかな?」
「はい、自分は……って乃木司令官!?」
「ハハハ……私と伊地知も前回を経験しているのでね。今回も君に御世話になるよ。それに今回、私は西南戦争で三好家の者に大変御世話になってね……」
「確か……自分の叔父に当たる三好将光の三男、三好将典少尉が伊東隊の岩切正九郎と斬り合いに転じ自身の命と引き換えに乃木将軍の連隊旗が分捕られる事はなかったと聞いています」
「彼には大変感謝しています……故に私も全力で君を支援しますよ」
将和を引っ掻けた乃木はにこやかに笑う。隣の伊地知を見れば苦笑をしていた。
「おはんの事は大山さんや児玉さんから聞いているでごわす。前回は済まない事をしぎゃんしたな」
「い、いえ……伊地知参謀長は当然の事をしたまでです」
頭を下げる伊地知に将和は慌ててそう言う。
「今回の旅順……前回のようにはさせんよ」
「とすると……?」
「……フフ、爆破でごわす」
「まさか……」
ニヤリと笑う伊地知に将和は腰を浮かせる。第三軍は坑道作戦を前提に行う予定だと言うことを暗に示したのである。
「今回は……失敗する事は許されません……」
乃木は覚悟を決めていた。いざとなれば自身が部隊を率いて旅順に突っ込む事は任命された時から決めていたのだ。
「三好特務参謀……東郷さんに是非とも宜しくと伝えてくれ」
「はいっ、必ず……」
乃木の言葉に将和は頷くのであった。その後、日露は南山、得利寺と戦闘をするがどちらも日本の勝利に終わり第三軍は旅順を徐々に包囲を行い8月7日に黒井中佐率いる海軍陸戦重砲隊が大孤山に観測所を設置し保有する15.2サンチ砲と12サンチ砲を旅順港に向けて砲撃を開始したのである。
「撃ちぃ方始めェ!!」
合計60門の両砲は三日間昼夜を問わず絶えず砲撃を続けた。この砲撃で戦艦『ペトロパブロフスク』が被弾炎上。防護巡洋艦『パラーダ』『ノヴィーク』が大破炎上、砲艦一隻撃沈という記録を叩き出す事に成功する。
この攻撃でロシヤ太平洋艦隊に被害が出始めた事で極東総督のエヴゲーニイ・アレクセーエフ大将は太平洋艦隊を旅順からウラジオストクへ回航する事を艦隊司令であるヴィトゲフト少将に再度通告した。
ヴィトゲフト少将は無視しようとしていたが更に砲艦二隻が撃沈した事でウラジオストクへの回航を決断し8月10日早朝に艦隊は順次旅順を出港したのである。
無論、この行動は日本側の哨戒艦に察知されており直ちにGF司令部に通報、GF司令部も艦隊を率いて出動するのである。
両艦隊が衝突したのは史実と同じく1258過ぎである。此処で東郷は1300には発令した。
「一戦隊、左八点一斉回頭ォ!!」
『三笠』以下の一戦隊は一斉回頭を行いロシヤ太平洋艦隊を外洋に誘おうとした。しかし、ヴィトゲフトはこれに乗らずそのままウラジオストク方面へ向かおうとした。誘いに乗らなかったので一戦隊は再度左八点一斉回頭を展開、ロシヤ太平洋艦隊の頭を抑えようとした。
「砲撃始めェ!!」
「砲撃始めェ!!」
1315、此処で一戦隊は砲撃を開始したのである。だがロシヤ太平洋艦隊はこれにも乗らずヴィトゲフトは面舵ーー南へ変針をし一戦隊の後尾を抜けようとしたのだ。だが一戦隊は1336に右十六点一斉回頭を行い、再度『三笠』が先頭に立ち、丁字を描くような形となり敵先頭艦『ツェサレーヴィチ』に一戦隊は砲撃を集中した。『ツェサレーヴィチ』は集中砲撃され炎上、艦橋にいたヴィトゲフト少将は砲弾の破片を胸に食らい大量出血で後に戦死する。
それでも太平洋艦隊は一戦隊の後尾に付いて逃れようとしたが南から新たな増援が来たのである。
「水平線上にマストを確認!! 来ました、二戦隊です!!」
「間に合ったでごわすな」
「はい、ですがこれで勝てます」
東郷の言葉に秋山参謀はニヤリと笑う。南から来たのは『八雲』を旗艦とする上村中将の二戦隊だった。ただし、この二戦隊は『八雲』『出雲』『磐手』『筑波』『生駒』とタービン搭載の高速艦艇でありその速度を活かして太平洋艦隊の左舷に展開して砲撃を敢行したのである。
「砲撃準備良し!!」
「撃ちまくれェ!! 奴等を生かして帰すな!!」
二戦隊はまだ炎上してない『ポルタヴァ』に砲撃を集中、瞬く間に炎上させる事に成功した。結局、『ペトロパブロフスク』等は再び旅順に戻ったが炎上を続ける『ツェサレーヴィチ』は一戦隊と二戦隊に包囲され2021に発光信号で降伏の文を送り停船するのである。
そんな中、将和は他の水兵達と共に負傷者を担いで医務室への搬送を繰り返していた。
「しっかりせぇや!!」
「さ……さん……ぼ……」
「死んだらアカンぞ!! お前はまだ生きているんだ!!」
片足を吹き飛ばされた水兵をおんぶしつつ転ばない程度の早足で将和は医務室へ向かい水兵を降ろす。
「看護兵!! 渡すぞ!!」
「お任せください参謀!!」
将和の服は全身が負傷者達の血が付着するが将和は気にする事なく次の負傷者を探しに甲板へ向かうのであった。
「負傷者は何処だァ!?」
「此方に二人います参謀!!」
「よっしゃ、今行くぞ!!」
なお、この一件から将和は水兵達から「三好の若大将」と呼ばれる事になる。
この海戦でロシヤ太平洋艦隊は壊滅的打撃を被りそれ以降は旅順が第三軍に占領されるまで修理は出来ずに停泊する羽目になるのであった。
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