第二十五話
「先に仕掛けるぞ!!」
先に動いたのはリヒトホーフェンだった。リヒトホーフェンは左フットバーを蹴飛ばし減速しながら横転、そのまま機首上げを同時平行で行うバレルロールを展開した。減速したおかげで将和は最大速度でそのままDr.1を追い抜いてしまう。
「チッ!?」
「もらったぞミヨシ!!」
前に出た将和機を見てリヒトホーフェンは素早く照準を合わせて射撃する。これに対して将和は右フットバーを蹴飛ばし操縦桿を逆方向に倒して右横滑りをする。Dr.1が放った機銃弾は虚しく将和がいた空域を通過するだけだった。
「ひぃ~……危ねぇ危ねぇ……」
「クク……それでこそ我が好敵手だな……」
避ける将和にリヒトホーフェンはニヤリと笑いながらも更に追従して機銃弾を叩き込む。
「舐めるなよ!!」
将和は左フットバーを蹴飛ばし左旋回しつつ横転しそのまま降下する。頑丈な機体であるからこそスパッドS.13がやれる技であった。
将和はそのまま下向きUターンのスプリットSを行いつつ速度を上げて一旦はリヒトホーフェンを引き離す。
そしてゆっくりと左旋回をしながら再度リヒトホーフェンを追う。対してリヒトホーフェンも真正面から当たる選択をした。
迫る2機、将和とリヒトホーフェンは互いに顔が見えてくる中でーー二人はニヤリと笑った。
『決着をつけるぞ!!』
互いに交差をするが交差をする直前に二人は機銃弾を叩き込みながら離脱する。
「グッ……」
将和は交差した時、機銃弾が左肩を掠めていた。削がれて出血するがそれでも将和は生きている。
勝ったとリヒトホーフェンは思っていた。だが刹那、フォッカーDr.1のオーバーウルゼル Ur.II空冷回転星型9気筒110馬力エンジンは急に息切れを起こしたと思ったらボフンと黒煙を上げ始めたのだ。
「何て事だ……」
リヒトホーフェンは舌打ちをしつつも機体を操り眼下に拡がる飼料ビート畑に不時着するのである。
「リヒトホーフェン!?」
それを見た将和も不時着をしようとしたが、後方から迫ってくる別のフォッカーDr.1があったので回避機動をしつつそのフォッカーDr.1の後方に回り込んでから機銃弾を叩き込み撃墜する。
再度不時着地点を見ると地上にいたオーストラリア軍の兵士達が集まっていた。
「………死ぬなよ……」
その為、やむを得ず将和は列機を率いて帰還するのであった。
「やったな!! 遂に落としたなマサカズ!!」
「えっと……?」
着陸して声をかけられた。空戦前に将和に敬礼してきたパイロットだった。
「ふむ、余とした事が……顔を出していなかったな」
パイロットはそう言って飛行眼鏡と飛行帽を取る。現れたパイロットーー女性に将和は驚きつつも面識は無かった。
「……どちらさん……?」
「むぅ……これでも分からないか?」
首を傾げる将和に業を煮やしたのか女性は髪を後ろで纏めて頭を下げ挨拶をする
「ごきげんようマサカズさん。シェリル・ウィルソン、久しぶりに出会えてとても嬉しいですわ」
「………な、何ィィィィィィィィ!?」
女性ーーシェリル・ウィルソンことグレイス・ハリソンの言葉に将和は目を見開くのであった。
「シェリルも来ていたのね、懐かしいわ」
「あぁ。気が付いたのはつい最近だがな」
「もしかしてあの時助けた……?」
「その通り。もう一人は余の姉上だ」
あの後、夕夏も誘って三人は将和の自室で紅茶を飲んでいた。
「ラッセルはいたけど……」
「分からん。本来の余はいるかもしれないが……余は余だ」
「そうね」
「まぁ戦争が終われば調べる」
グレイスはそう言って紅茶に一口を付ける。
「しかし……大分性格が変わってないか? 前はおしとやかというか……」
「この余は男勝りか関係しているのかもな、ハッハッハ」
(ギャップが凄いけどな)
言わぬが仏かもしれないと思った将和である。
「それとだなユーカ……一つ言いたい事があってな?」
「あら、何かしら?」
グレイスの言葉に夕夏が首を傾げる。そしてグレイスが席を立ち将和の元に歩み寄るとそのまま勢いよくキスをした。
「んんッ!?」
「ちゅるっ……じゅるりっ……ぷはァ……」
ちゃっかりDKまでするグレイスである。そして満足したのかキスを止めて夕夏に視線を向けるがグレイスの顔を真っ赤っかである。
「『今度』は私も負けない。私も参戦するからな、何せ私もマサカズの事が『I LOVE YOU』だからな」
「………」
「あらぁ♪」
いきなりの事に追い付いてない将和である。だが夕夏は微笑んでいた。
「良いわよシェリル……いえグレイス。私は貴女を受け入れるわ」
「……まだまだユーカには敵いそうにないな……けどTHANK YOUユーカ」
にこやに笑う夕夏にグレイスは苦笑しながらも夕夏に礼を言うのであった。
しかし、これで終わるかと思いきや、ツカツカと三人のところに歩み寄る一人の看護婦がいた。フローレンスであった。
「あ、フローレ……」
フローレンスに気付いた将和が何かを言う前にフローレンスは将和に抱きついたのである。
「んなッ!?」
「フフ……」
驚くグレイスを他所に夕夏は決断した親友に笑みを浮かべる。ちなみに将和は抱きしめられて固まっていた。
十分に抱きしめたフローレンスは顔を真っ赤にしながら将和から離れた。
「……これが覚悟です。宜しいですかユーカ?」
「えぇ、勿論よフローレンス。まぁ及第点にしておくわ。私としてはそこからキスをしてほしかったわね」
「……ならしましょう」
「は?」
遅まきながら覚醒した将和だったがそのままフローレンスにキスをされた。
「ちゅるっ……じゅるりっ……ちゅるっ……じゅるりっ……ぷはァ……」
DKまでして顔を離すフローレンスだが真っ赤なのは言うまでもない。
「……そこのパイロットと同等です。どうです?」
「合格点を出すわ♪」
フローレンスの言葉に夕夏は満面の笑みを浮かべる……が、どう見てもこの状況を一番楽しんでいるのは言うまでもない。なお、フローレンスの宣戦布告は元よりグレイスが若干いじけてそれを慰める将和がいたりする。そしてかなーり離れたところから見守る一団があった。
「さぁさぁよってらっしゃい見てらっしゃい!! 我等が隊長である三好隊長と風原さんの恋路に現れたるはまさかのまさかのまさかのまさかの二人のパツキンのイギリス人ときたもんだ!! 此処は一つ、皆さんで見守りつつ賭けて参りましょう!!」
テーブルを中心に胴元らしきパイロットーー新たに配属された吉良俊一少尉(前回の記憶有り)はハリセンでテーブルを叩きながらそう叫んでいる。
「一つ目甲案!! 風原さんが勝つ。二つ目乙案!! ハリソン少尉が勝つ!! 三つ目丙案!! 看護婦フローレンスが勝つ。四つ目丁案!! 隊長が三人とも食べてしまう!! さぁお前達、張った張った!!」
「甲案に一円!!」
「なら俺は丙案に三円!!」
「俺は乙案かなぁ……」
「てめ、ボディーナイスしてるからってよぉ……」
パイロット達はワイワイと騒ぐ中、甲案に賭けた大西瀧治郎少尉は同じく配属されたばかりの山口多聞少尉に声をかけた。
「多聞丸はどうするんだ?」
「そうだなぁ……俺は四つとも賭けはしないな」
山口の言葉に周りにいたパイロット達はざわつく。
「おいおいどうした多聞丸?」
「カネが無いのか?」
「いや……俺は五つ目の戊案に賭けようかな」
「五つ目?」
「あぁ……三人とも食べたけど実は更に数人食べて戦争が終われば両手に花以上の展開に50円賭ける!!」
『何ィィィ!?』
山口の言葉にパイロット達は目を輝き出す。胴元である筈の吉良までもが目を輝かせていた。
「そいつは素敵だ、面白くなってきやがった!!」(塚原)
「そうか……それがあったか……」(小沢)
「俺、戊案に賭けるわ」(桑原)
「俺もだな」(草鹿仁一)
「あ、自分も」(草鹿龍之介)
「おいおい、それじゃあ賭けにならないだろうが!!」
そう怒る胴元の吉良であった。そして数日後、オーストラリア軍の尉官が将和を訪ねてきた。
「これを渡してほしいと……」
「これは……」
白い布に包まれていたのは一つの勲章と一枚の手紙だった。勲章については将和も見覚えがあった勲章である。
「これは……プール・ル・メリット勲章じゃないか!?」
「亡くなったリヒトホーフェン騎兵大尉の物です」
「亡くなった!? リヒトホーフェンが亡くなったというのか!!」
リヒトホーフェンはオーストラリア軍の捕虜となっていたのを将和は聞いていた。それが亡くなったとは聞いていなかったのだ。
「昨夜の事です……銃創からの破傷風により……」
「……そうか……」
「亡くなる前、リヒトホーフェン大尉は手紙を認めて貴方に渡してほしいと……」
そして将和は手紙を一読する。それはリヒトホーフェンから最期の手紙だった。
『親愛なるパイロットであるマサカズ・ミヨシ。貴殿は私との空戦で私に勝った。故に私は貴殿に対し私に勝利した証としてプール・ル・メリット勲章を授ける。誇ってほしい、さらばだ友よ』
「リヒトホーフェン……………」
短い文章だった。だがそれでも将和は嬉しかった、漸く前回の事を払拭する事が出来たのだから……。将和は勲章を握り締める。
(リヒトホーフェン……ありがとう。お前の気持ちは確かに受け取ったぞ)
それから将和は貰った勲章を肌身離す事なく生涯を共にする事になるのであった。
6月15日、この日に第一航空隊に新型機が導入された。それは日本がエンジン以外はほぼ日本の三好航空会社が作成した戦闘機であった。
「来たか……六式戦闘機……」
将和は滑走路の脇で翼を休める六式戦闘機ーー史実では一○式艦上戦闘機と呼ばれていたーーである。六式戦闘機は将和の情報等を下に三好航空会社で作られこの程制式採用されたのである。第一航空隊には量産された18機が何とか用意されパイロット達も日本の国産戦闘機に目を輝かすのである。
そして六式戦闘機は7月15日から開始される第二次マルヌ会戦に連合軍の上空援護として第一航空隊と共に投入されるのであった。
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