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第十八話

耐え難きを耐え、忍び難きを忍び








 1916年5月30日朝、ドイツ海軍司令長官のラインハルト・シェア中将は全艦の出撃を発令させた。最初の目的地はサンダーランドだったが天候の悪化や一部の艦艇の機関の不調に対する修理により出撃は遅れたので結局は目的地をスカゲラック海へ切り替えた。ドイツ海軍の出撃はイギリス海軍も午前中のうちにドイツ海軍の通信傍受・解読で潜水艦隊が北海で行動中や艦隊が出撃している事も把握した。

 軍令部は直ちに大艦隊司令官のジェリコー大将と巡洋戦艦部隊のビーティー中将に出撃を命じたのである。そしてこのビーティー中将の艦隊には日本から派遣された遣欧艦隊もいたのである。


「壮観な眺めだな」


 将和は『霧島』の艦橋から出撃する巡洋戦艦部隊等を見ていた。


(今回も前回と違い『扶桑』型二隻、『金剛』型四隻、『河内』型二隻の八隻がいるがどうなるかだな。とりあえず『金剛』型には防火シャッターに注水機能、隔壁の追加をしているからイギリス巡洋戦艦のように轟沈はしないと思うが……不安だなぁ。前回の件もあるから『金剛』以外の戦没は避けないとな……)


 そう思う将和を余所に艦隊はスカゲラク海を目指したのである。そして翌日の5月31日、霧の中でアレクザンダー・シンクレア代将率いる第一軽巡洋艦戦隊が国籍不明船(中立国デンマークの貨物船)を発見したので監視するために東方へ向かうがフランツ・フォン・ヒッパー中将の第二偵察群が遭遇して両艦とも『敵艦見ユ』の信号を発した。

 ビーティは北東にヒッパーは北西に経路をとり互いに増速して接近する。この時に霧のせいで第五戦艦戦隊は進路変更の信号を見落としてしまう。しかし遣欧分艦隊(『金剛』型四隻で『扶桑』型と『河内』型はジェリコーの大艦隊に組み込まれていた)はビーティに付いてきていた。


「ほぅ、東洋のサムライも中々ではないか」

「我が英国海軍の弟子と自称するのも納得出来ますな」


 旗艦巡洋戦艦『ライオン』の艦橋でビーティはそう呟いた。ツシマ沖のサムライとは聞いていたが中々どうして、やれるではないか。ビューティはそう思った。

 1548時、ヒッパーは砲撃開始を指示してその一分後にはビーティの艦隊も砲撃を開始したのである。そして巡洋戦艦同士の「南への逃走」の戦闘が始まるのであった。


「撃ちぃ方始めェ!!」


 将和の号令と共に『霧島』の35.6サンチ連装砲8門が交互射撃を行う。僚艦である『金剛』達も交互射撃を開始しており霧島が狙ったのは『モルトケ』級巡洋戦艦の一番艦『モルトケ』である。しかし、偵察部隊の照準は全て(駆逐艦は別)ビーティ中将が座乗するライオンに合わせていた。


「水柱多数!?」

「長官!?」

「こ、これは――」


 『ライオン』付近に着弾する水柱の多さにビューティは驚愕した。まさか駆逐艦以上の艦艇に狙われると思っていなかったビーティである。


「ビーティ長官!?」

「一旦を回避をされては!?」

「敵弾、来ます!!」

「か、回避――」


 回避を言おうとした時、『ライオン』の艦橋に『デアフリンガー』が放った二斉射目の305ミリ砲弾が直撃して砲弾ーーしかも徹甲榴弾ーーはその力を解放して爆発、ビーティ以下幕僚達を一片も残らせない戦死とさせたのである。

 何故偵察部隊は旗艦『ライオン』に集中的に砲撃したのか? それは遣欧艦隊の存在があったからである。


「ヤーパンはツシマ沖海戦にてバルチック艦隊の第一戦艦隊旗艦『クニャージ・スヴォーロフ』と第二戦艦隊『オスリャービャ』に集中砲撃している。しかも砲弾は徹甲弾ではなく、人的損耗を狙った徹甲榴弾であり敵の旗艦を倒して混乱に貶める戦法だ。我が海軍はイギリスより戦艦は少ない……なら集中的に旗艦を砲撃して敵を混乱させるしかないな。そのためには訓練、訓練また訓練だな」


 シェア中将はそう判断していた。ヒッパーはシェアの命令に的確に従い『ライオン』を集中砲撃したのである。

 集中砲撃を浴びた『ライオン』は僅か十二分で弾薬庫の誘爆により轟沈したのである。


「『ライオン』撃沈!! 更にビーティー中将も戦死!!」

「何だと!?」

「直ちにジェリコー大将のイギリス大艦隊に打電を急げ!!」


 遣欧艦隊の『金剛』型戦隊を指揮する斎藤半六少将は『比叡』の艦橋でそう叫ぶ。その間にもヒッパー艦隊は砲撃を続けていた。

 1605時、『インディファティガブル』の船尾に『フォン・デア・タン』から放たれた砲弾三発が命中して戦線を離脱する。しかし『フォン・デア・タン』は最大射程から一斉射撃を行い砲弾は『インディファティガブル』の装甲を貫通して弾倉の爆発によって轟沈した。


「敵巡戦轟沈!!」

「今日の砲術の腕は最高じゃないか!!」


 『インディファティガブル』轟沈を見ていたヒッパーはそう呟く。ヒッパーに運が傾いてきたと思ったが『クイーン・エリザベス』級戦艦四隻の第五戦艦戦隊が漸く到着してヒッパー艦隊に砲撃を加える。


「来ました!! 増援の第五戦艦戦隊です!!」

「来るのが遅いわ!! それよりも日本海軍の存在を知らしめろ!! 次は当てろよ砲術長!!」

『勿論です!!』


 将和の『霧島』は『モルトケ』に砲撃を続けて『モルトケ』は六発の35.6サンチ砲弾が命中して『モルトケ』は炎上した。巡洋戦艦同士の戦闘は激しさを増していき、1625時には『クイーン・メリー』が『デアフリンガー』と『ザイドリッツ』からの命中弾で弾薬庫が爆発して轟沈したのである。


「三好艦長代理、『クイーン・メリー』轟沈!!」

「畜生!! 今日のドイツ艦隊の射撃の腕は何かおかしいんじゃないか!!」

「奴らの腕は見間違えるように上物ですな」

「あぁ!! まるで日本海海戦のバルチック艦隊の気分だよ!!」


 前回同様に将和はそう吐き捨てたのであった。1630頃、ビーティ指揮下の第二軽巡洋艦戦隊(司令官ウィリアム・グットイナフ少将)の軽巡『サザンプトン』がシェアの大洋艦隊本隊を発見して全艦に通報する。


「全艦北上せよ!! ジェリコー大将の艦隊にドイツ艦隊を引き寄せるんだ!!」


 斎藤少将は臨時に指揮を取りつつ残存ビーティ艦隊にも指示を出す。遣欧分艦隊は一斉回頭したのに残存ビーティ艦隊は情報伝達のミスで逐次回頭をしてしまう。

 そのおかげでヒッパー艦隊は照準をしやすくなり第二巡洋戦艦戦隊旗艦『ニュージーランド』に砲撃が集中。先の『インディファティガブル』や『クイーン・メリー』同様に『ニュージーランド』は弾薬庫の誘爆で戦隊司令のW・ペケナム少将を乗せたまま轟沈する。


「『ニュージーランド』轟沈!!」

「クソッタレ!! 撃ち返せ!!」


 将和は叫び、『霧島』と『榛名』は『ザイドリッツ』を砲撃し『ザイドリッツ』は主砲が全て破壊され砲撃機能を喪失するのである。

 1800時頃、戦艦『アイアンデューク』艦上にてジェリコーはボロボロになった残存ビーティ艦隊と遣欧分艦隊を視界に捉えた。


「ジェリコー長官、残存ビーティ艦隊と遣欧分艦隊です!!」

「ふむ……ビーティが戦死とはな。やむを得ん、作戦変更だ。残存ビーティ艦隊と合流後、艦隊は北方にて陣形を変更する」


 ジェリコー大将はそう判断して陣形変更を行うのであった。1830時、『フッド』と残存ビーティ艦隊に遣欧艦隊を前衛にエヴァン・トマスの部隊を後衛につけたジェリコーの部隊が砲撃を開始する。


「目標敵旗艦だ!!」

「撃ちぃ方始めェ!!」


 『霧島』は35.6サンチ砲を斉射して『リュッツオウ』に砲弾を叩きつける。『リュッツオウ』の周囲に断続的に砲弾が落下し水柱を吹き上げている。至近弾も含めて『リュッツオウ』は浸水しており艦首を大きく沈めてた。


「よし、止め――」

「『モルトケ』が『リュッツオウ』の前に出ます!!」


 止めを刺そうとしたがまだ炎上していた『モルトケ』が『リュッツオウ』を庇うように前に出る。


「チッ。『モルトケ』の野郎、『リュッツオウ』を庇う気か。……砲術長、『リュッツオウ』は狙えるか?」

『あれは……駄目ですね。『モルトケ』が完全に邪魔をしています』

「……やむを得ないか、砲術長、『モルトケ』に照準。『モルトケ』に止めを刺せ!!」

『了解。『モルトケ』に照準します!!』


 そして『霧島』は『モルトケ』に照準を合わせて砲撃、炎上していた『モルトケ』にはこれが致命傷となり小規模の爆発後、『モルトケ』は波間に消えていったのである。偵察部隊は『リュッツオウ』が戦列から脱落、『フォン・デア・タン』は『金剛』と『比叡』の砲撃で主砲塔の殆どが破壊、『デアフリンガー』は中破となりイギリス側が優勢になりかけるが『デアフリンガー』が第三巡洋戦艦戦隊旗艦『インヴィンシブル』を真っ二つに割る轟沈をさせるのであった。








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