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第十七話








 『遣欧軍先遣隊壊滅』その報は直ぐに伊藤博文の元へ送られた。


「それは真か!?」

「はい……先遣隊二個師団はヴェルダンで壊滅的打撃を与えられ……第二次遣欧軍が来援しなかったら要塞で全滅していたと思われます」


 秘書の言葉に伊藤は椅子に深く座り頭を抱えた。


「……(前回の反省から送っておいたのは間違いなかったが……)それで国内への報道は?」

「まだ情報は開示していませんので国内には出回ってません」

「まだするな。今は発表するな」


 伊藤はそう言って直ぐに大山等の元老達を集める。


「クソ、前回の事を考えての対策だったが……やはり由々しき事態だな」


 山縣は溜め息を吐く。第二師団、第六師団は常備師団であると共に精鋭師団だった。それが失われたのに等しい壊滅的打撃はとても痛い事である。


「だが今回は助かった者達がいる。それを好機に捉えよう」

「うむ。それで主力の派遣軍は?」

「今はシンガポールに到着しているはずだ」

「確か第四、第十一、第十六師団の約六万か……」

「三好君は?」

「彼も何とかしようとしたが……やはり前回同様で間に合わなかったみたいだ……だが秋山のおかげで全滅は避けられた」

「ふむ、そうなるでごわす……」


 そう話していた伊藤達だが驚愕する報告が入り込んだ。


「フランスが壊滅した三個歩兵連隊の賠償をしろだと!?」

「は、はい。賠償をしなければ航空隊は退去せよと……」


 前回の事もあり予想していた伊藤達も改めて驚愕の色を隠せなかった。三個歩兵連隊――特に第一戦列歩兵連隊が壊滅した事によりフランスは日本に責任転嫁したのだ。

 フランス側は日本のせいにしてヴェルダンの戦いを事実とは違う報道をして国民の目を日本に向け指したのだ。この偽りの報道にフランス国民は激怒して日本を非難するがドイツは逆に違う報道を展開した。

 ドイツ――皇太子ヴィルヘルム中将は壊滅した日本軍将兵の遺体が重なり合って日本の国旗を守ろうとした先遣隊に敬意を表していた。


「黄色人種と思っていたが、彼等は人間であり彼等は古の勇者だった」


 皇太子の言葉はドイツ国民問わずにイギリスやフランスにも伝わる。しかも先走ったとはいえ最期の発した電文と共にである。これによりイギリスは「お前の報道と違うじゃねーか」とフランスに文句をつける事態に発展。日本も先遣隊が壊滅した事を国内に報道して国民はフランスの所業に激怒。ユダヤ自治政府もフランス政府に抗議する発展になった。

 そして五月には伊藤は「フランス政府より謝罪及び独自指揮権が無ければ連合国より脱退し中立を表明する」と発表した。

 この発表にフランス政府は日本に猛抗議したが外相の加藤高明は鼻で笑い「一昨日来やがれ馬鹿野郎」とフランス語で返す有り様だった。これにより日仏の仲は急速に悪くなり慌てたのがイギリスだった。


「話半分に聞いていたが結局はフランスが悪いじゃねーか」


 日本の連合離脱を阻止したいイギリスはフランスに猛抗議をした。そのため結局フランスは日本に謝罪した。ニヴェル中将は脱出命令が寸断されていたので減俸半年となる。

 また一連の責任によりジョゼフ・ジョフルフランス陸軍総司令官を辞任しまたフランス首相のアリスティード・ブリアンも辞任する出来事となる。だがこの一連の事件で日仏の仲が悪くなったのは決定的であり後に日ソ紛争でソ連に武器、義勇軍を送っていた事で国交断絶という処置になる。

 それは兎も角、イギリスの必死の説得により連合国側から離脱する事はないが今大戦中はフランスとギスギスとした関係になる。

 そしてヴェルダンで先遣隊が壊滅してから四月二十日、将和の元に一通の辞令が届いた。


「……はい?」


 辞令には戦艦『霧島』艦長代理に命ずと書かれていた。将和は思わず山崎大佐に視線を移す。


「事実だ。それと戦時昇進の特進付きだ」


 山崎大佐はそう言って大佐の階級章を将和に渡す。渡された将和は困惑していた。


「いや確かに元艦艇乗組ですが艦長経験は駆逐艦だけですよ?」

「詳しい事は知らんが『霧島』艦長が階段から落ちて骨折したらしい。代役探しに日本海海戦で『三笠』艦長代理を務めた男がたまたま近くにいた、それだけだ。まぁ艦長代理だからすぐに手配はすると言っている」

「はぁ……(前回も思ったがそんな奇跡が起きてたまるかよ……)」


 将和はそう思うが艦長が骨折で倒れたのは事実である。何となく東郷と坂本翁がニヤニヤするのが脳裏に浮かんだ気のせいだと思った。


「まぁ、たまには潮の匂いでも嗅いでこい」


 山崎大佐にそう促され、将和はフランスからイギリスに行く事になる。


「気を付けてね貴方?」

「無論気を付けるよ。向こうに到着したら手紙も書くから」

「あらあら」


 将和の言葉に笑う夕夏であった。そしてフランスから一路イギリス――スカパフロー泊地へ向かう将和だった。スカパフロー泊地には欧州派遣艦隊が停泊していたのだ。


「『霧島』……か」


 接舷した『霧島』の舷梯を登る将和は久しぶりに乗艦する軍艦がまさかの最新鋭の巡洋戦艦である。


(前回はユトランド沖で活躍したな……今回も頼むぞ)


 そう思いながら艦体を撫でる将和だった。


「副長の高橋です」

「航海長の七田です」

「砲術長の湯地です」


 艦長室で将和は三人の佐官から挨拶を受ける。ちなみに高橋は中佐で七田と湯地は少佐である。


「急遽、艦長代理に命じられた三好です。皆さんより海兵は下ですが何卒宜しくお願いします」


 懐かしい三人に将和は涙を流しそうになったがグッと堪えそう言って帽子を脱いで頭を下げた。流石にその行動に三人は慌てた。


「い、いや艦長代理。そう畏まらなくて大丈夫ですよ」

「そうですよ。本来、艦長代理は航空隊を指揮して戦闘機を操縦しているんです」

「分からないところは我々も補佐しますので」

「助かります。あ、それとこれ皆で飲んで下さい。来る途中で購入したものですが……」


 三人の言葉に将和は少々緊張を解して土産のスコッチウイスキーを三人に渡した。


「あ、ありがとうございます」

「部下の皆と頂きます」

「申し訳ないです」


 とりあえずは幹部達との出会いは上々だった将和である。さて欧州派遣艦隊の陣容は以下の通りである。


 日本海軍欧州派遣艦隊

 司令官栃内曽次郎大将(戦時昇進)

 参謀長竹下勇少将

 巡洋戦艦隊司令官斎藤半六少将

 水雷戦隊司令官岡田啓介少将


 戦艦

 『扶桑』(旗艦)

 『山城』

 『金剛』

 『比叡』

 『榛名』

 『霧島』

 『河内』

 『摂津』


 装甲巡洋艦

 『八雲』

 『出雲』


 防護巡洋艦

 『平戸』

 『矢矧』


 駆逐艦


 18隻の陣容である。


 駆逐艦は『江風』型を元に設計、建造された一等駆逐艦である。ただし艦名は番号だった。当初は艦名の予定だったが喪失して名前を使えない事を恐れた上層部は番号で通す事にした。後に戦後で艦名が振り当てられる。また、『八雲』と『出雲』は機関を宮原式石炭・重油混焼水管缶とパーソンズ式タービン二基二軸としている。(『八雲』は24.6ノット、『出雲』は24.3ノットである)

 そして将和は五月二八日まで『霧島』で訓練するのであった。


「艦長代理、大丈夫ですか?」

「ハハハ、久しぶりに舵を握ると緊張するよ」


 後に航海長の七田は語る。「三好艦長代理は初期こそ舵は下手くそだったが徐々に上達していった」と……。









御意見や御感想等お待ちしていますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 三好にその気が無くとも、言い寄る女性はそうなっちゃうか……
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