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第十二話








 ポーツマス条約の内容に反対する集会も二年を過ぎれば流石に下火になる。桂は改めて年が明けた1907年一月に国民に対して説明をした。


「残念ながらあの時、軍があれ以上の進撃する事は不可能であった。あの時にアメリカが講和への仲介をしてくれなかったら日本軍は……半島からも叩き出されていた」

『……………ッ』


 桂がゆっくりと淡々と語る事実に記者達は知らず知らず息を飲む。


「ユダヤ人に樺太への入植を許可したのもユダヤ人のおかげだからこその恩返し……と聞いていますが?」

「左様。所謂恩返しの意味でもある」


 樺太は日・ユの人々が住み着き始めていた。入植初期にはユダヤ人の入植は百万だったが、二年も経てば百五十万にも膨れていた。(日本人は三十万人)

 樺太でも北緯五十度以南は1907年に誕生したユダヤ自治政府が治めていた。

 北ではなく『南樺太』である。これには理由がある。北樺太は史実のオハ油田があるからだ。史実でも1880年には石油の露頭が発見されていたので日本としては国内で採れる油田が欲しかったのだ。

 最初は変な自治政府にアメリカ等は首を傾げていたが、後にオハ油田の生産が開始されると成る程と頷いたほどである。

 また日本は国内開発にも力を入れていた。日露戦争が終わり軍にあまり力を入れなくて済んだからだ。

 東北の開発も方針に入れらていた。史実の東北地方を襲った昭和東北大飢饉や昭和三陸地震とそれによる津波等を考慮すれば開発は当然だった。特にイネの研究が進められて水稲農林一号が史実より早くに登場する事になる。また工場にも

 資金等は軍の軍縮(兵器更新は別。主に一般兵の削減)とユダヤ自治政府に格安で売却した元バルチック艦隊の戦艦と旧式艦艇である。


「まぁ持っていても仕方ない」


 将和の発言はその通りでユダヤ自治政府には『肥前』(元『アリヨール』)を除いた戦艦が売却された。また、海軍の旧式艦艇も売却していた。

 物を大切にするのは分かるがいつまでも保有していると維持するにも費用は掛かるのであえて第三国へ売却していた。

 特に新興国は他では古くても自分のところでは新しいのだ。

 さて、日露戦争を終えた桂は首相の座を西園寺公望に譲っていた。所謂桂園時代なのだ。また、特に政治的に安定した時期とされ期間中に行われた二回連続の総選挙はいずれも任期満了に伴うもので日本憲政史上において二回連続任期満了の総選挙が行われたのは桂園時代だけとされる。

 なお、第一次西園寺内閣のやり通した内容はほぼ史実通りだった。史実と違うのは『香取』型戦艦が建造されてなく少しは海軍でも余裕はあった。

 さて、将和はどうしていたかと言えば、『三笠』はまだ改装途中のため戦艦『敷島』乗組となっていた。だが二月で駆逐艦『不知火』乗組、九月に第十一駆逐艇隊長心得となり1908年九月に海軍大尉に任命され第十一駆逐艇隊長となった。1909年五月に海軍大学校学生となり十一月には海軍砲術学校の学生となる。

 そして1910年五月に海軍砲術学校修了となるが将和は改装が完了した特務艦『三笠』の分隊長に任命された。


「宜しいんですか? 『三笠』の分隊長で」

「構わんよ。それに君が『三笠』改装を提案したんだ。自分で見るべきではないかね?」

「それは確かにそうですが……」


 大臣室で将和は斎藤実海軍大臣と面会をしていた。


「同期は『浅間』の分隊長や『吾妻』の分隊長なのでどうかと思いまして……」

「そう心配するな。誰も気にしてはおらんよ。ましてや日本海海戦で一時期『三笠』艦長代理をしていたのだ。文句は出んよ」


 将和が『三笠』を指揮していたのは粗方の者は知っていた。(なお発生源は長谷川である)ちなみに斎藤実も山本権兵衛を通して将和の事を知っていた。


「……分かりました。改装された『三笠』を見てきます」

「うむ。それと予測される世界大戦前にやはり前回と同じく航空隊を創設したい。何か良い航空機はあるかね?」

「そうですね……水上偵察機ならイギリスのソッピースタブロイドが良いかもしれません。ただ初飛行が1913年十一月ですのでそこから購入するとなると……第一次世界大戦前ギリギリかもしれないのが難点です」

「ふむ……それなら君が前に具申したモーリス・ファルマンMF7とモラーヌ・ソルニエHの後に購入した方が良いな……」

「はい。その方が良いかと……」

「それと航空隊には君も配属してもらう」

「……やっぱ自分がですか?」

「前回を経験しているのだから当然だろうな。それは分かるだろう?」

「はぁ、まぁ一応は……」

「一応は前回よりかはマシになってきてはいるが……まだまだだな……」

「『ドレッドノート』の影響は凄まじいです」


 1906年に就役した英戦艦『ドレッドノート』は世界各国の戦艦に影響を与えていた。今まで保有していた戦艦は前弩級戦艦とされ日本としては早期に弩級戦艦を保有したかった。

 が、どうせ直ぐに超弩級が就役するので『河内』型だけになる予定である。

 なお、特務艦に改装された『三笠』はパーソンズ式タービン二基四軸を搭載したからによる。『三笠』の改装時、ブラウン・カーチス式直結タービンかパーソンズ式タービンのどちらを搭載するか悩んでいた。そこで捕獲して修理及び改装をしていた『肥前』に白羽の矢が立つのである。

 『三笠』にはパーソンズ式二基四軸を、『肥前』にブラウン・カーチス式二基四軸を搭載する事にしたのだ。その代償として『肥前』の改装期間は1909年まで増えたがその代わり高速化を得て二三.一ノットの速度を発揮するのであった。ちなみに三笠は二三.三ノットである。

 そして弩級戦艦であるが『河内』型が既に起工して建造中であった。


「やはり前回を考えると弩級は『河内』型二隻だけでしょう。その後の超弩級に切り替えるしかないですし……」

「うむ……やむを得んだろうな」


 斎藤とそう話す将和だった。その後将和は『三笠』分隊長乗組となる。

 そんなある日、最近は滅多に家に帰ってない本家から電報が届いたのだ。


『タマニハ帰レ』


 恐らくは和盛だろうが、将和は素直に帰る事にした。


「全く、たまには顔を出さんかい」

「戻ったら縁談を進めるだろ爺ちゃん……」


 実家に戻ったその日の夕刻、将和は母親のとも、祖父の和盛と久しぶりの夕食を共にしていた。


「お前が日本海海戦で活躍したのを貴族院の華族どもが嗅ぎ付けて毎回会議が行われる度に縁談を薦められるんじゃよ」


 今の和盛は貴族院の研究会に所属しており近衛等の者達とよく親睦会をしていた。そのため、よく縁談を薦められるのだ。


「儂はお前が決めた者が誰であろうと応援するぞ」

「私もよ将和」

「ん……ありがとう」


 前回は母親や祖父等タイムスリップした時はいなかったので新鮮味があった将和である。


「それと坂本商会の龍馬がお前に会いたがっていたぞ」

「坂本龍馬が……?」


 日露戦争中、坂本商会は自社が保有する全ての船を陸海軍に供与し輸送を円滑に進める事が出来たのだ。

 それに坂本龍馬は史実であれば維新の立役者とも言える一人であった。会うとすれば是非とも将和も会いたかったのだ。


「分かった。御主も会いたがっていると伝えておこう」


 数日後、将和と和盛は坂本商会の本部がある東京の築地を訪れた。小ぢんまりとした旅館風の建物であるがアポは取っていたのでスンナリと二人は会長室に通された。


「ちゃちゃ、よく来てくれたきに」


 白の長髪を後ろで纏めた老人ーー坂本龍馬はカラカラと笑いながらソファーを薦める。


「おまんとは一度……話をしてみたかったんじゃ」

「ほぅ……しがない元幕府の血筋だけの本職に……ですか?」


 確かに龍馬は幕府を倒そうとした維新志士であり方や将和は血筋だけ言えば幕府側の者である。


「ちゃちゃ……確かに此処ではの……じゃが一回目はどうじゃな?」

「ーーッ!?」


 坂本の言葉に将和は驚愕した。まさかこの老人はーー。


「ワシはの……東郷から聞いた」

「東郷長官が……?」

「未来の日ノ本から一人、神隠しに追うて日ノ本の未来が変えるために戦ったのが……おまんがという事じゃな」


 龍馬はそう言って茶を啜る。将和は和盛を見ると笑みを浮かべて頷く。和盛も将和の正体を知っていたのだ。


「ワシは陛下からじゃな」

「陛下……」

「陛下とは江戸城開城前にコッソリと会ってな。その時の面子がこれまた面白いのじゃよ。今や元老の俊輔や狂介、児玉等もおったからのぅ」

「あの人達は……」


 何も言わない博文達に将和は苦笑する。


「本来はワシ一人で和盛殿を説得しようとしたんじゃ。博打も大博打じゃったのじゃが……まさか話を聞き付けた陛下らがコッソリと乗り込むとは思わなんだ」

「そら……そうだわな」

「陛下らの説得でワシは幕府を返上する事にしたんじゃよ。気付いたら坂本龍馬が一人で江戸城に乗り込んでワシを説得させて幕府を返上させたと歴史の定説になってしもうたわい」


 カッカッカと笑う二人である。確かに陛下自ら説得したと言っても誰も信じないだろう。だからこそ、そのスケープゴートという形で龍馬が選ばれたのである。


「じゃがまさか近江屋で襲われるとはなぁ」

「拳銃を三丁もあげといて良かったわい」


 史実では近江屋に宿泊していた坂本龍馬は京都見廻組に襲われ暗殺されている。しかし、和盛が龍馬に拳銃を三丁も譲っていた事で難を逃れたのである。

 その一件から龍馬は政界はコリゴリと言って商売に逃げて太平洋という海に出たのである。


「よし、今日は昔話を肴に飲もうか」


 龍馬はそう言ってドンと一升瓶の日本酒を出す。


「ヨッシャ、飲もうか。ほら、飲むぞ将和」

「へいへい……」


 溜め息を吐く将和だが二人から語られる歴史の裏話をシッカリと聞くのであった。






「ほぅ、それでイスパノ・スイザ、ニューポール、ブリストル、ソッピース社、スパッド社、BMWと接触を図って航空機のライセンス生産等を行い知識及び技術力を習得をした方が良いと?」

「どうせ航空機は台頭してくるから世界大戦までに自国生産可能まではしたいかなって……一応桂さん達が動いてはいるけどやはり世界を回ってる坂本翁にも口添えがあったら面白いなってね」

「成る程のぅ……」

「ちゃっちゃっちゃっ。任せちゃり、顔が広いから話はしてみるわい」


 なお、坂本の商会で各社と接触が取れるようになったのである。







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