表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/33

第九話

明けましておめでとうございます

本年も宜しくお願いします

という事で新年最初は此処から投下。








 さて我等が聯合艦隊はどうなっていたか? 東郷長官率いる聨合艦隊は既に2月21日には朝鮮半島の鎮海湾に入り、同地を拠点に聨合艦隊は対馬海峡で訓練を繰り返していた。

 そして5月14日、バルチック艦隊は停泊していたカムラン湾を出港した。そしてバルチック艦隊が19日にはバシー海峡を通過したと情報を得たがそれ以降は所在が掴めなかった。


「……では前回通りであれば26日午前零時過ぎにバルチック艦隊随伴の石炭運搬船6隻が25日夕方に上海へ入港するのでごわすな?」

「はい。大本営に入り込んでくる情報が前回通りであれば……の話です」


 将和は東郷と長官室で話をしていた。勿論バルチック艦隊の動向である。


「……石炭運搬船が上海に入港するという事は……」

「太平洋ルートを通らないという事でごわすな」

「ですが万が一もあります。情報が入るまでは動かない事だと思います」

「……艦隊を分割に割けるべきでごわすか?」

「それをやれば日本は終わりです」

「分かりもうした」


 東郷はそれから大本営に電報を送らない事にした。業を煮やした秋山参謀と加藤参謀長が「大本営に北海道へ移動する旨の電報を送りましょう」と具申しても聞き入れなかった。


「まだ早か。焦らずどっしりと構えるでごわす」


 東郷は焦る二人にそう諭すのである。そして26日午前零時過ぎ、大本営から電報が届いた。


「長官!? 朗報です!!」

「ん?」

「石炭運搬船が上海に25日夕方に入港したとの事です。長官!!」

「うむ」


 喜びの表情をする秋山に東郷はゆっくりと頷いたのであった。既に日本側も準備は万全だった。

 海軍は旅順が陥落すると、艦艇を全てドック入りをさせており更に入念な射撃訓練を行いバルチック艦隊の迎撃に専念出来るようになっていた。

 そして運命の1905年5月27日0245時、九州西方海域203地点付近において特務艦隊の仮装巡洋艦『信濃丸』が汽船の灯火を視認した。


「艦長、もしかすると……」

「……近づこう。機関微速前進」

「微速前進ヨーソロー」


 艦長成川揆大佐の命令の元、近づいた『信濃丸』はバルチック艦隊の病院船『オリョール』を発見した。


「艦長、敵の病院船です!!」

「うむ……急ぎ「ネ」連打を発信。『敵艦ラシキモノ見ユ』だ!!」


 電文は各地を経由して旗艦『三笠』に舞い込んでくる。接敵していた『信濃丸』は第三艦隊第六戦隊巡洋艦『和泉』と交代したが、『和泉』は六時に引き継いでから七時間に渡りバルチック艦隊の位置や方向を無線で通報し続けた。


「長官、無電です」

「………」

「『信濃丸』からです」

「『信濃丸』……」

「読みます。『敵艦見ユ。敵ハ東水道ニ向カウモノノ如シ』です」

「………」


 東郷は無言で立ち上がりゆっくりと口を開いた。


「全艦……出動ッ」


 その短い言葉にはどれ程の感慨があったかは分からない。しかし、東郷の言葉に全艦艇乗員の士気が向上したのは間違いない。



 第一艦隊

 第一戦隊

 戦艦

 『三笠』『敷島』『朝日』『初瀬』『富士』『八島』『薩摩』『安芸』

 装甲巡洋艦

 『春日』『日進』

 通報艦

 『龍田』

 第三戦隊

 防護巡洋艦

 『音羽』『新高』『対馬』『千歳』

 第一駆逐隊

 駆逐艦

 『春雨』『吹雪』『有明』『霰』『暁』

 第二駆逐隊

 駆逐艦

 『朧』『電』『雷』『曙』

 第三駆逐隊

 駆逐艦

 『東雲』『薄雲』『霞』『漣』

 第十四艇隊

 水雷艇

 『千鳥』『隼』『真鶴』『鵲』



 第二艦隊

 第二戦隊

 装甲巡洋艦

 『筑波』『生駒』『出雲』『磐手』『吾妻』『八雲』『浅間』『常磐』

 通報艦

 『千早』

 第四戦隊

 防護巡洋艦

 『吉野』『高砂』『須磨』『明石』

 以下多数




 第三艦隊

 第五戦隊

 防護巡洋艦

 『秋津洲』『松島』『厳島』『橋立』

 戦艦『鎮遠』

 第六戦隊

 防護巡洋艦

 『和泉』『千代田』『浪速』『高千穂』

 第七戦隊

『扶桑』

 以下多数(すみません、力尽きました……)



 0535時、聨合艦隊に出港用意が下令された。そして準備が出来た艦艇は順次出撃していく。

 0621時、聨合艦隊は大本営に向けて後に伝説と化する電文を打電した。


「旗艦『三笠』より発信!!『敵艦隊見ユトノ警報ニ接シ聨合艦隊ハ直チニ出動、コレヲ撃滅セントス。本日天気晴朗ナレドモ波高シ』」

(……頼むぞ東郷……三好……)


 皇居で伊東軍令部総長からの報告を聞いた陛下はそう思うのであった。電文を発した『三笠』は0710時には加徳水道を抜けて鎮海湾から外洋に出るのであった。


「……いよいよか」

「三好特務参謀、脚が震えてますよ」

「馬鹿、武者震いだよ(ちぇっ、結局この戦いの時は震えるな……)」

『ハハハハハハッ』


 三好は右舷副砲群で水兵達とそう話していた。何かと参謀達から煙たがられる三好だったが乗員達からは「親しみやすい若将軍参謀」という印象であった。

 1339時、南西の経路を単縦陣で航行する第一、第二戦隊は北東の経路を航行するバルチック艦隊をほぼ艦首方向に視認した。


「バルチック艦隊発見!!」


 バルチック艦隊を視認した『三笠』はすかさず戦闘旗を掲揚して戦闘開始を命令した。

 1355時には『三笠』は経路を西にとり、バルチック艦隊への反航路接近に転じた。


「距離一万二千!!」

「Z旗を掲げよ!!」


 東郷は距離一万二千でZ旗を掲揚させた。


「皇国ノ興廃、コノ一戦ニ在リ。各員一層奮励努力セヨ……か」


 掲揚されるZ旗を見つつ将和はそう呟いた。1402時、『三笠』は経路を南西にとり第一戦隊はバルチック艦隊に対して完全な反航路となる。


「長官、このままでは反航戦となります」

「………」


 加藤の言葉に東郷は無言で右手を上げた。あっと誰かが言う。東郷の右手を見て誰かは息を飲む。将和は東郷の右手を見てニヤリと笑う。そして東郷は自身の右手を左に降ろしたのである。

 それを見て加藤は腹を決めて伊知地艦長に視線を向けた。


「……艦長、取舵だ」

「はっ? 取舵をするのですか?」

「そうだ、取舵だ!!」

「ハッ!! とぉーりかぁーじ……一杯!!」

『とぉーりかぁーじ、一杯!!』


 1405時、東郷はほぼ同航かつバルチック艦隊先頭を圧迫する隊形に変更するよう第一戦隊に左舷取舵約百五十度の逐次回頭を指示した。後に言われる敵前大回頭――『トーゴー・ターン』――である。


「トーゴーは気でも狂ったのか?」

「ですが司令、これを見逃す手はありません。奴等の艦艇が全て回頭するまでに速度を16ノットとしても約10分は掛かると見込まれます。その間の回頭点は我が艦隊にとっては静止目標となります!!」

「ウム、直ちに砲撃開始せよ!! 黄金の10分間を無駄にするな!!」


 ロジェストヴェンスキー中将は直ちに砲撃を命令、バルチック艦隊は照準を『三笠』に合わせて砲撃を開始した。


「右舷戦闘!!」

「何!?」

「右舷に集まれ!!」


 砲員達が右舷に集まり砲撃の準備をする。『三笠』の付近に砲弾が落ちて至近弾となり水柱を上げていく。


(バルチック艦隊の射撃は相当落ちてたけど、『三笠』も損傷している。問題は無いはず……)


 そう思う将和だったが、その時に『三笠』が震えた。


「前部主砲被弾!! されど跳ね返した!!」


 伝令の報告に将和は直ぐに最上艦橋に登る。


「おぉ三好参謀、水兵達はどうかね?」

「は、皆意気揚々と励んでおります。それよりも前部主砲は大丈夫ですか?」

「敵さんのが当たったが角度的に跳ねたよ」


 三好は秋山とそう話す。しかし――。


「うわァ!?」


 バルチック艦隊から放たれた一弾が『三笠』の右舷信号探照灯付近に命中。爆風と破片が容赦なく将和や東郷達に襲い掛かる。


「……ッ…」


 将和は何が起きたか分からなかった。気付いたら目の前には床があったのだ。少しぼうっとしたが次第に意識が回復してきて自分が倒れていた事に気付いた。


(……あの時と……同じく倒れていたのか)


 将和は起き上がろうとした。しかし、腹に誰かが倒れていた。


「……秋山参謀!?」


 倒れていたのは秋山参謀であり、秋山参謀は頭から血を流していた。将和が周囲を見渡すと伊地知艦長、加藤参謀長も倒れていたが無傷の東郷長官はゆっくりと立ち上がっていた。


「長官!! お怪我は!?」

「おいどんは大丈夫でごわす……」


 将和が見た限りでは東郷にそれらしい傷は見受けられなかった。


「看護兵ェ!!」


 将和は下に向かって叫び、その声を聞き付けた数人の看護兵が慌てて艦橋に登る。


「急いで医務室へ送れ!!」

「はいッ!!」


 看護兵達が参謀長達を担いで艦橋を降りていく。無傷に近かったのは東郷の他に測距儀係の長谷川少尉だろう。将和は破片が左腕を切り裂いていたが看護兵の手当てで済ませた。


「三好参謀……『三笠』は……『三笠』は沈むのですか?」


 手当てをしていた看護兵は顔を青ざめながら将和にそう聞いてきた。参謀長達が負傷したのでパニックになっているのかもしれない。


「馬鹿野郎!! 『三笠』が簡単に沈むか!!」


 将和はそう怒鳴り返した。なお、後にこの言葉も将和を有名にさせる言葉になる。


「三好参謀、『三笠』の艦長代理として『三笠』の指揮を取れ。長谷川少尉は引き続き測距儀で距離を測れ。反撃するでごわす!!」


 東郷の言葉に二人は即座に動いたのであった。あの時と同じく長谷川も距離を測定していたのだ。


「ハッハッハ、あの時と同じだな将和!!」

「そうだな清!!」

「距離……六千四百!!」

「うむ、砲撃開始せよ!!」

「距離六千四百、右舷六インチ砲試し撃ちぃ方始めェ!!」


 将和が伝声管に向かって叫ぶ。その命令に副砲の十五.二サンチ砲員が砲を操作して照準を合わせる。


「準備良し!!」

「用ぉ意……撃ェ!!」


 右舷の十五.二サンチ砲七門が一斉に射撃を開始する。試射一射目、七つの砲弾は目標の『クニャージ・スヴォーロフ』を飛び越えてその先の海面で炸裂した。


「何だあの砲弾は!?」


 海面を見ていたロシア海軍士官はそう叫ぶ。日本海軍は徹甲弾ではなく榴弾をも使用していた。更に二射目は『クニャージ・スヴォーロフ』の手前の海面で炸裂する。これは近弾となり命中するのも時間の問題であった。


「距離六千二百!!」

「距離六千二百に修正!! 主砲十二インチ砲撃ちぃ方始めェ!!」


 三射目からは主砲の三十.五サンチ砲も射撃を開始する。そして数秒の時を越えて『三笠』が放った砲弾は『クニャージ・スヴォーロフ』の前部煙突に命中して前部煙突を吹き飛ばしたのである


「命中命中!! 」


 聨合艦隊の反撃が始まった。








御意見や御感想等お待ちしていますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ