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私の幸せはどこにあるの?

『かわいそうね、かわいそうね』

【馬鹿ね、馬鹿で可哀想な私】

『おねえさまはわるいまじょなの、だからいなくならなくちゃいけないのよ』

【よかったわね。お姉様のいない場所で大好きなマレウス様に守ってもらえるわよ】


 目の前に立つボロボロの服を着た幼い頃の私。

 私と同い年ぐらいの、綺麗なドレスを着た私。

 二人は私に向かって話しかけてくる。


『まじょがいなくなれば、しあわせになれるのよ』

【お姉様がいなければ幸せになれるんでしょう?】

「そうよ、お姉様が居なければ私は幸せなのよ」

【じゃあ問題ないじゃない。私はお姉様のいない北の領地に行くんだもの】

「追いかけてくるかもしれないわ。お姉様は私の幸せの邪魔をするから」

【追いかけてきて欲しい、の間違いでしょう?】

「そんなはずないじゃない!」

【大丈夫よ、お姉様は私になんか興味はないわ】

「嘘よ、嘘。お姉様はっ」

『どうしてわるいまじょをきにするの? むししちゃえばいいじゃない』

【気にかけて欲しいんでしょう? 他でもない、お姉様に】

「違う! そんなわけないわ!」

【じゃあ、どうしてそんなにお姉様を気にするの?】

「だってお姉様は私の幸せを邪魔するのよ!」

【だから、お姉様から離れた北の領地に行けば問題ないじゃない】

「なんでよ!」

【お姉様が居なければ幸せなんでしょう?】

「そうよ」

【北の領地にお姉様はいないわ】

『まじょがいないから、しあわせなのよ』

「わたしは! マレウス様の正室になってこの国の王妃になるはずだったのよ!」

【正室になれたじゃない。正室になれるように、マレウス様が身分を落としてくれたじゃない】

「王妃になるはずだったのよ!」

【そんなの、無理だって初めからわかってたでしょう?】

「知らない! そんなの知らない!」

【お姉様より上になる為に、王妃になる必要があるから、現実から目をそらしたのよね】

「違うっ!」

『おひめさまになるの』

【そうね、閉ざされた場所で、永遠のお姫様にならなれるわね】

『おひめさまは、みんなからあいされるのよ』

【よかったじゃない。望みが叶うわよ】

「私はっ私はっ!」


 髪をグシャグシャとかきむしる。

 頭が混乱する。

 全部この幻覚共のせい、全部お姉様のせいだわ。


【おめでとう。お姉様が居ない場所で幸せになれるのよ】

『おうじさまにまもられるのよ』

【よかったわね、王子様は貴女のものになったじゃない】

「マレウス様には愛人がいるのよっ。私だけのものじゃないわ!」

【それがどうかしたの? 王妃になったら側室が出来たのよ? 変わらないじゃない】

「側室なんて出来なかったわよ!」

【どうしてそんなこと思うの?】

「だってお義父様には側室はいないじゃない!」

【それはたまたまよ。歴代の王でも例外に近いわ。習ったでしょう?】

「知らないっ知らない!」


 手近にあるものを幻覚に向かって投げつけるけれども素通りして壁に当たって砕ける。


【大丈夫、私は私の味方よ。ずっと、ずーっと一緒なんだもの】

『だいじょうぶ、ひとりじゃないよ』

「お姉様は、私を認めてはくれないわ」

【そんなにお姉様に認めて欲しいの?】

「それはっ……」

【私、もう忘れちゃったの? 初めてちゃんと文字が書けた時、お姉様はちゃんと褒めてくれたじゃない。すごいって言ってくれたじゃない】

「嘘よ、そんなの嘘だわっ」

【お姉様に認められたくて、一生懸命勉強したのよね。でも、お姉様が家にほとんどいなくなって、意義を見出せなくなっちゃったのよね。貴女が認めて欲しかったのは、他でもないお姉様にだったんだもの】

「お姉様は、わたしの事をみすぼらしいっていったのよ!」

『だって、ほらみて。こんなわたしがきれいっていえる?』

「そんな目で私を見ないでよ! あんたなんか消えちゃえばいいのよ!」

『どうしてそんなこというの? わたしも、わたしなのに』

「違う! 私は、昔の事なんて知らない! もう関係ない!」

【じゃあ、お母さんのことも捨てるのね】


 その言葉にヒュっと喉が鳴った。


【可哀想なお母さん。お父様に一目ぼれして、お父様が訪れてくれた冬は帰って来てくれるって言ってお客も取らずに、少ない食料を私に分けて、自分は枯れ草を食べるために外に探しに出てそのまま凍死しちゃった可哀想なお母さん。そんなお母さんを、私は捨てるのね】

「そんなことないっ、私はそんなことしない」

『でもわたしはいらないんでしょう? じゃあ、おかあさんもいらないんでしょう?』

「違うっ!」

【もういいじゃない。全部ぜーんぶ忘れましょうよ。そうしてお姉様のいない土地で幸せになりましょう】

『わるいまじょは、おうじさまがおいはらってくれるのよ』

「幸せ……」

【そうよ。大丈夫よ、ちゃんと王子様が守ってくれるわ。私の王子様が、ね】

『おうじさまは、まじょをおいはらってくれるのよ』

「もう、お姉様は、いない、の?」

【そうよ、よかったわね】

『まじょがいないの。うれしいことなの』

「幸せになれる」

【そうよ。幸せになれるのよ】

『しあわせになれるのよ』

「ああ……」


 そうか、幸せになれるのね。

 マレウス様はお姉様から私を守ってくれるために色々考えてくれてるんだわ。

 私が寂しくないようにお友達だって一緒に連れて行ってくれるんだもの、幸せになれないわけないじゃない。

 そう、私は幸せになれる。

 お姉様の手が届かない場所で、お姉様が追いかけて来てもマレウス様が守ってくれる場所で幸せになれるんだわ。


【そう、幸せになれるのよ。ガラス細工の箱庭のまやかしの中でね】


 クスクスという笑い声が聞こえた気がするけれど、私の頭の中は幸せになれるという事でいっぱいだった。

 相変わらず渇きは消える事は無い、飢えが無くなるわけじゃない、でも幸せになれるなら、それでいい。

 だって、私が幸せになるっていう事は、お姉様に勝つっていう事でしょう。


『わるいまじょは、いなくなるのよ。そうして、おひめさまはずっとしあわせになるの』

【長い長い夢を見ましょう。大丈夫、私達はずっと私の味方よ。永遠に、一緒よ】

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