お別れのパーティー(前編)
全ての手続きが終わったのはサフィール様のおっしゃったように学期が終わるギリギリになってしまいまして、わたくし共は別の理由で今年度で学園を去る方をお見送りするという意味も兼ねてパーティーを開くことに致しました。
下位貴族の方々は家の事情などで早期退学をなさる方もいますので昨年も一応開いてはいましたので、特に怪しまれることはございませんでした。
学園卒業の際のパーティーには各役職のお偉方や高位貴族の当主なども出席いたしますが、今回は生徒と給仕係の職員のみで行われるものとなっております。
パーティーが開始されるのは午前十時半ですが、マレウス様とあの子の周辺には一時間遅れの十一時半に開催すると招待状を送っております。
マレウス様は昨年は十時半に開催されたことを覚えておいでのようで、訝しんでいらっしゃったようですし、何かに気が付いているようだと報告を受けましたが、予定に支障はないでしょう。
とりあえず、本日のある意味主役の方々がいらっしゃるまでは普通にパーティーを楽しんでおります。
わたくしとミリアの懐妊をきっかけに婚姻を早めた令嬢も多く、今年度で早期退学をなさる方は結構な数がいらっしゃるようで、あちらこちらで言葉が交わされております。
すでにご懐妊なさっている方もいらっしゃるようで、生憎わたくし達の子供とは同じ学年にはなれないと嘆いておいででございました。
そうしてパーティーはそろそろ昼食の時間になろうかという頃、マレウス様達が会場に入っていらっしゃって、既に大勢がパーティーを楽しんでいる姿を見て驚いていらっしゃいますが、マレウス様だけは「やはり」というような顔をなさっておいでです。
そんなマレウス様の手にはいくつかの封書があり、余興が増えそうだとわたくしは扇子の下で密かに口の端を持ち上げました。
「御機嫌よう、皆様。遅かったですわね」
「ああ、なぜか俺達の招待状だけ時間が間違って記載されていたようだな」
「まあ、そのような事ございますのね」
空々しい挨拶をして、近づいていらっしゃるマレウス様達を迎え撃ちます。
わたくしとミリアの周囲には密かに武装している男子生徒が待機しております。
「そうそう、この度は、グレイバーン男爵家への養子縁組が整ったとのことで、おめでとうございますと言った方がよろしいのでしょうか?」
「ああ、誰の差し金かは知らないが、父上に一日でも早く手続きを終わらせるように言われたからな。まあ、他にもいろいろあって最終的な調整が終わったのは先週だが」
「そうでしたの。ご苦労な事ですわね」
「まったくだ。しかし丁度良かったともいえるな。もうお前の顔を見なくて済む」
「然様でございますか」
「あの、マレウス様。お姉様と何の話をしているんですか? 養子とか、手続きとか」
「前から言っていただろう。シシリアとミリア様の子供が生まれたら俺は王籍を抜けて北の辺境伯の親戚の養子になると」
「はぁ!? そんなのお姉様達が居なくなればしなくて済むことじゃないですか! そうよ、いい機会です、お姉様、ミリア様! 子供共々死んでくださいよ!」
あまりにも早い自爆に思わず声を上げて笑いそうになってしまうのをすんでのところでこらえました。
「随分な事を言いますわね。なぜお前にそのような事を言われなくてはいけないのかしら?」
「私が第二王子妃だからです!」
「わたくし、今言いませんでしたかしら。マレウス様は王籍を抜けて、グレイバーン男爵家への養子縁組をしたと」
「そんなの何かの間違いです! そうですよね、マレウス様!」
「いいや、事実だ。今のおれはマレウス=グレイバーン男爵子息だ」
「そんなっ。撤回してください! 今すぐに! 今ならなかったことに出来ますよ! すぐに撤回して来てください!」
「無理だな」
「そんな……」
「それに、ティアンカはちゃんと知っているはずだが?」
「え?」
「婚姻届けにサインをしただろう。そこにちゃんと、マレウス=グレイバーンの名前がサインされていたはずだ」
「そんな書類知りません!」
「これがその控えだ」
マレウス様はそう言って封書を一通開くとしっかりと見せるように顔の前に差し出しています。
その書類を奪うようにしてまじまじとみて、わなわなと口を震わせたかと思うと、「こんなの覚えてない」と言って婚姻届けの控えを真っ二つに引き裂きました。
婚姻届けは王宮で保管するもの、教会に提出するもの、そしてもう一枚控えの三枚にサインをする必要があります。
マレウス様が持ってきたのはその控えでしょう。
所詮は控えですので破棄したところで何の意味もありません。
「それは控えだ、他の二通はもうすでに王宮と教会に提出済みだからそれを破り捨てたところで意味はない。それに俺はちゃんと言ったはずだ。俺との婚姻届けだからサインをしてくれ、と」
「それは、でもっ、名前が変わってるなんて言ってなかったじゃないですか!」
「俺は先にサインをしていた。確認をしなかったティアンカの確認不足だ」
「私が悪いっていうんですか!」
「今の状況に納得がいっていないのならそうなるな」
「酷い!」
「安心しろ、ティアンカの仲のいいお友達もちゃんと一緒に北の領地に行くことになっているからな」




