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なにぶんわがままなものでして(旧題:わがままでごめんあそばせ)★  作者: 茄子
芽吹くものと枯れていくもの

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シシリアの子守歌

 ミリアが無事に男女の双子を出産したという報告は、早馬よりも祝砲の数で知ることが出来ました。

 男児ならば三発、女児ならば一発の祝砲が四発撃たれたのですから、生まれた子供は男女という事になりますわ。

 その後、早馬での知らせで母子ともに問題ないとの事にほっと安堵の息を吐き出しました。

 わたくしは自分の大きくなったお腹に手を当てて声をかけます。


「良かったですわね。伴侶になる方も、生涯の友人になるであろう方も同時に生まれましたわよ」


 そう言ってさらに撫でるとポコンとお腹を蹴られた感覚があり、わたくしは笑みを深くいたしました。


「ひとつ ふたつ 数えてく

 みいつ よおつ 数えてく

 風の音色は 涼やかに

 温かい日差しは 柔らかに

 ねんねや ねんね

 よいこよ ねんね

 いつつ むうつ 数えてく

 ななつ やあつ 数えてく

 夢の中は 甘い菓子

 眠りの中は 柔らかく

 ねんねや ねんね

 よいこよ ねんね

 ここのつ とおと 数えては

 なにもが優しく 守るから

 ねんねや ねんね

 よいこよ ねんね」


 いつからか口ずさむようになった子守唄。

 お母様に聞いても乳母だったものに聞いても知らないという子守唄。

 もしかしたらわたくしの前世で聞いたことがあるのかもしれませんわね。

 嫌いではないですわ、それどころか歌っているだけで心が安らぐような不思議な気持ちになります。

 まあ、もう一つ思い浮かんでいる子守唄があるのですが、そちらは少々物騒なものでございますので、歌うのは控えております。

 いえ、あれは子守唄なのでしょうか?

 どちらかと言えば死出の旅路を謳ったような、そんな数え歌でございますね。

 どちらにせよ子供に聞かせるようなものではございませんでしょう。

 ポコン、ポコンと蹴っていた動きが止まったのを感じて、お腹の中の子供も眠ったのだと思い、わたくしもなんだか眠くなってしまい、瞼が重くなってきてしまいました。


「若奥様、お眠りになりますか?」

「ん、そうですわね。旦那様がお帰りになるまで少し眠りますわ」

「御手を」


 差し出された手に自分の手を乗せて、すっと立ち上がります。

 最近ではこうしたちょっとした動きも一苦労で、こういった補助のない世の中の妊婦の方々はどうしているのだろうかと不思議でなりません。

 今は腹帯というミリアが開発したものを着用して、そのうえにこれもまたミリアがデザインしたシュミーズドレスと言うものを着ておりますので、寝るためにわざわざ着替える手間がかからないのがいいですわね。

 薄手の生地ですので、ショールやガウンを羽織ってはいますが、寝る時はそれを取ってしまえばいいだけですもの。

 それにしても、わたくしの子供もこんな寒い時期に生まれるとは思っていないでしょうね。

 ミリアの話ではお腹の中はとても暖かく快適なのだそうで、生まれてすぐに子供が大声で泣くのは、今までの心地いい世界から引き出されてしまった嘆きなのかもしれないと冗談交じりに言っておりましたが、こんな寒い時期に生まれてしまったのならより一層驚いて大声を出してしまうのではないでしょうか?

 流石に王都には雪は滅多に降りませんが、この子が生まれる日は良い天気でしょうか、曇りでしょうか、雨でしょうか、それとも珍しい雪の日でしょうか?

 予定では後一ヵ月後にわたくしは出産を迎えますので、今はとにかく静養をする事にしております。

 階段の上り下りも禁止されておりますので、出来る運動と言えば二階の廊下を行ったり来たりするぐらいなのですよね。

 まあ、お腹が大きくなって足元が見えないので階段の上り下りとか恐ろしくてしたくはありませんけれど。

 手を借りてベッドに仰向けになって横になり目を閉じると、自然と眠気が襲ってきて、夢の中に入っていきます。


◇ ◇ ◇


「一つ 一夜の夢を見て

 二つ 二人の指絡め

 三つ 皆を見殺しに

 四つ 黄泉へと逃げていく

 五つ いくら走っても

 六つ 骸が追いかける

 七つ 涙も枯れていき

 八つ 闇に落ちていく

 九つ 今宵は赤い月

 十で 吐息が朱に染まる」

「おかあさん、それはどんなおうたなの?」

「恋人が二人で必死に逃げて、でも逃げ切れなかったという歌よ」

「かわいそうなおうたなの?」

「そうね、可哀想な歌よ」

「でもおかあさんはよくうたってるね」

「そうね、この歌は嫌いじゃないから、つい口ずさんでしまうのよね」

「そうなの。―――もうたっていい?」

「貴女がこの歌のように何もかもを捨てて、命を懸けて何かを得たいと思う時に歌うといいわ」

「んっと、よくわからないけど、わかった」

「いい子ね、―――」


◇ ◇ ◇


 ……夢、ですわね。

 何もかもを捨てて、命をかけて何かを得たいときに歌うべき歌、ですか。

 残念ながら一生歌う事は無いでしょうね。

 わたくしが何もかもを捨てるなどという事をするわけがありませんもの。

 命を懸けて得たいものはありますけれども、それで命を失ってしまったら台無しですわ。

 わたくしの最期はもう決めておりますもの。

 それまでわたくしは幸せになる為に、幸せであるために一生懸命生きますの。

 生きて、生きて、生き抜いて、そうして望む最期を迎えるのですわ。

 独善的で傲慢で、自分勝手で強欲な、わたくしにお似合いの人生。

 わたくしはそれを貫き通しますわ。

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