馬鹿げた噂と父娘の確執
「ミリアの子供の父親がサフィール様じゃない、ですって?」
「ええ、そのような噂がありますのよ」
「馬鹿々々しい。ミリアが浮気などするわけがありませんわ。わたくしが保証いたします、ミリアの子供の父親はサフィール様ですわ」
「けれどもサフィール様はご病弱、子供が出来る可能性も低いのでは?」
「なぜそのように決めつけますの? それでいったら先代の国王も病弱でいらっしゃったでしょう。けれどもお母様と叔父様がちゃんと生まれておりますわ」
「それは、そうですね」
「くだらない噂の出どころはどこなのでしょうか」
「ティアンカ様の周辺だと聞いておりますわ」
またあの子ですか。
どうせくだらない妄想に捕らわれているのでしょうけれども、こちらに被害が来るような妄想は遠慮したいところですわね。
「あの子は最近少し情緒不安定だと聞いていますわ。そのせいでくだらない思い込みをしているのでしょう」
「そうですわね。シシリア様のおっしゃる通りですわね」
まったく、こんな噂がミリアの耳に入ったらあの子がまたハツカネズミになってしまうかもしれませんわね。
他の方から耳に入る前にわたくしの方から知らせておいた方がいいかもしれませんわね。
◇ ◇ ◇
シシリアからの手紙で私に関する噂に、お腹の子供がサフィール様の子供じゃないかもしれないというものがあると知って、少なからずショックを受けてしまったけれど、出所がティアンカ様だと知って少しだけ落ち着くことが出来た。
サフィール様からも、シシリアからもティアンカ様に関わらないように言われているからそうしているけれど、あの二人は何を抱えているのかしら?
ろくでもない事なのは確かだろうけれど、こうなってしまった今となっては聞いておいた方がよかったかもしれないわね。
私が聞いても何かできるかと言われれば、何もできないだろうけど、やっぱり状況がわからないというのは不安になってしまうわね。
「やはり、ミリアの産む子供は男児でなくてはならないな」
「そればかりは天の采配です、お父様」
「何を言う。気合を入れればどうにかなるかもしれないじゃないか。それと、ちゃんとシシリア様と違う性別の子供を産むんだぞ。お前に出来るのはそのぐらいしかないのだからな」
「……はい」
「全く、お前は昔から可愛げのない子供だったが、運よく第一王子の婚姻相手となれて子供までできたのだから、今後も我が家の為に励むように」
「……はい」
様子伺いという事で私の部屋にいらっしゃったお父様に私は暗い声で返事を返す。
お父様は別に私の事を愛してくれていないわけじゃないとは思うけれども、子供の事よりも家の繁栄を考えている方なので、子供は家の繁栄のための道具としての考えが強い。
前世の記憶を持つ私は物心ついた時から大人しく聞き分けのいい子供だったけど、成熟した精神は周囲から浮いてしまい、もしシシリアと出会っていなかったら私の心が壊れていたかもしれないわ。
『世界は美しいのですわよ』
そう言って、私の顔を上げさせて世界に色を付けてくれたのは他でもないシシリアで、あの時から私の中でシシリアは特別な存在。
サフィール様の婚約者になったのだって、シシリアの役に立てるかもしれないと思ったから。
私もシシリアの見ている世界に色を足すことが出来ればと、そう思ったから。
でも、心はままならない物ね。
私にとっての特別は確かにシシリアだけど、サフィール様には同志として以上の感情を抱いているんじゃないかって思ってしまう時がある。
肌を重ねると情が湧くっていうけど、本当にその通りだと思う。
子供までできたんだし、家族としての愛が芽生えるのも当然だってシシリアなら笑うかしら?
「それと、サフィール様がお亡くなりになったら王宮に迷惑をかけないように直ぐに帰って来て領地でサフィール様を供養して過ごすように」
「え?」
「何を不思議そうな顔をしている。王族でもないお前が夫であるサフィール様を亡くしていつまでも居座っていていい場所なわけがないだろう。王妃になるのならともかく、お前はただの第一王子の正室でしかないのだからな」
「そんなっ」
そんなことがこの世界の常識なの?
私は、王宮に残って子供達の成長を見守ることすら許されないの?
「お父様、私は王宮に残って子供の成長を見守りたいと」
「何を馬鹿な事を言っている。王宮には穀潰しを養う義理などないのだぞ」
「っ!」
はっきり言われた言葉に、目の前が真っ暗になり、意識が遠のいていってしまった。




