わたくしは悪くありません
「最近、随分とお茶会を開いているそうだね」
「いけないでしょうか? わたくし、旦那様の妻としてお友達をお呼びしておりますの」
「それは構わないが、その度に屋敷の外から花を購入しているらしいじゃないか。普通は家に咲いたものを用意するんだが」
「まあ、この家の花ではだめですわ。わたくしは贔屓にしている所から購入しておりますのよ」
「茶菓子もそこから購入しているとか」
「ええ、この家の料理人はお茶会の茶菓子を作るのには向いておりませんもの」
ルツァンド様の妻として各家の奥様方はもちろん、ご令嬢をお招きしてのお茶会や装飾品の購入、外部からの食事の仕入れを行うのは当然の事なのですが、ルツァンド様はどうやらよく思っていらっしゃらないようです。
これもわたくしのわがままだと思われているのでしょうけれども、この家の料理人のお菓子ではお茶会にふさわしくないので仕方がありませんし、お花だってわたくしの好みとは言えないものなのですから、これも仕方がありませんわ。
「話は変わるが、君が気に入らないと言って庭師のトムを解雇したそうだな」
「ええ、あのような年老いた庭師でなくとも他に腕のいい庭師は居りますもの」
「料理人も辞めさせたんだったな」
「ええ、あのように仕事の遅い者はこの家に必要ございませんもの」
つーんと顔をそらして口元を扇子で隠します。
我ながらこの仕草は様になって来たと思いますのよ。
この家の次期当主の妻として、この家にふさわしくない者は今から排除しておかなければなりませんもの。
「シシリア。君はどれだけの使用人を解雇したり職場を変更させれば気がすむんだい? それを認める母上もどうかと思うが、いい加減わがままが過ぎるんじゃないか?」
「あら、わたくしは間違ったことはしておりませんわ。それにこの程度の事で目くじらを立てるなんて、意外と心の狭い方でしたのね」
「シシリア! 君は子供だからってわがままを言っていいというわけじゃないんだ」
「わがままを言って何が悪いんですの? わたくしはルツァンド様の妻ですもの」
「君が解雇した庭師は長年我が家に務めてくれていた腕のいい職人だ! 料理人だって入って数年だがまじめな青年だったんだ。それをいきなり解雇するなんて!」
ルツァンド様が随分と怒っておりますので、視線をそらしたまま扇子をパタパタと動かしているとその扇子を取り上げられてしまいました。
「何をなさいますの」
「君が話を聞き流しているからだ。子供だからと言っていつまでもわがままを言って!」
「わたくしはなにも悪くありませんわっ!」
そう言ってルツァンド様をドンと押して、体勢を崩した隙にわたくしは部屋から逃げ出すことに成功いたしました。
実家に居た時と同様に、庭に出て見つけた隠れ場所に行くと、小さくうずくまってルツァンド様のご機嫌が直るのを待つしかないのですわ。