姉妹のお茶会
「お姉様!」
「あら、ティアンカ。わたくしに何か用かしら?」
「姉妹なんですから、話がしたくて来ちゃ悪いんですか?」
「別に悪いとは言いませんわよ。ただ、珍しいとは思いますけれど。……まあ、どうぞお入りになって」
部屋の前の廊下で呼び止められて振り返れば、予想通りティアンカがおりまして、話がしたいと言われてしまえば特に理由もないのに断ることも難しく、とりあえず部屋に入ってもらうことに致しました。
実の所、ティアンカをこの部屋に入れるのは初めてでございます。
「なにこれ、すごい……」
部屋に入った瞬間ティアンカがそんな言葉をつぶやきます。
わたくし用にあてがわれた部屋の調度品はどれも一級品で、最近ではさらに豪奢になったソファーの上には沢山のクッションが置かれております。
わたくしがいつも座っているソファーに先に座ると、ハッと我に返ったように向かいのソファーにティアンカが座ったので、メイドに視線を向けてお茶を準備させました。
「それで、話と言うのは何でしょうか?」
「別に、ただの世間話ですよ。将来の第二王子妃として、侯爵夫人になるお姉様と交流を深めておこうと思っただけです」
「……そうですか」
まだ第二王子妃になれると思っているのですね、教師の方々の苦労が思いやられますわ。
「それにしても聞いてくださいよ。教師の人が、マレウス様が北の領地に行くとしたら私もついていかなくちゃいけないなんて言うんですよ。信じられないと思いませんか。なんで第二王子妃になる私がわざわざ北の領地まで行かなくちゃいけないんですかね」
「夫に付き従うのも正室の役目だと思いますわよ」
「それは普通の正室の場合でしょう? 私は第二王子妃なんですよ。他の人とは格が違うんです」
「そう……」
「それにしても、この部屋ってすごいですねぇ。私の部屋よりもすごいかも。私の部屋なんて後宮エリアにあるんですけど、人気が無くってつまらないんですよ。私も客人エリアに引っ越したいです」
「貴女はマレウス様の婚約者なのですから、後宮エリアに部屋があって当たり前でしょう」
「でもぉ、客人エリアの方が賑やかじゃないですか。オベロン様の部屋もあるし、私はこっちがいいです」
「また無理な事を言って……」
「あっ! お姉様からお義父様に言ってくださいよ! お姉様の言葉ならお義父様も聞いてくれますって、なんたって寵愛を受けてるんでしょう」
「わたくしが叔父様に寵愛を受けているのは確かですが、そのような下らないことを進言するつもりはありませんわ」
「くだらないって、ひどい! 私達は姉妹じゃないですか! 少しぐらい妹のお願いを聞いてくれてもいいでしょう」
「部屋の移動が少し、の範疇に入るとは思えませんわ。ここは実家ではなく王宮ですのよ」
「使えないですね」
その言葉にわたくしはピクリと眉を動かしましたが、ちょうど紅茶がテーブルに置かれましたのでそれを手に取って一口飲むことで反応を押し殺しました。
「あーあ、それにしてもお姉様が羨ましいです。子供の頃は遊び歩いてて、今は侯爵子息夫人なんかになっちゃったけど、それなりに幸せそうで、王宮ではこんな風に丁重にもてなされて、何様って感じですよね」
「何様といわれましたら、わたくし様ですわね」
「はあ? 意味わかんない」
「そうでしょうね」
ティアンカがわたくしの価値を知る事等、今後一生ないのでしょうね。
「それにしても、本当に不公平ですよね。私もお姉様も同じなのに、なんでこんなに」
「同じ?」
「そうですよ。同じ公爵家の娘で、お姉様は遊び歩いてましたけど、同じ教師に教わって成長してるのに、私ばっかり苦労して、お姉様はずるいですよね」
「わたくしと、お前が、同じ、ね」
随分と、思いあがっているようですわね。
このわたくしとこの娘が同じだなんて、いつからそんな勘違いをしているのでしょうか?
初めからそのように思っていたのでしょうか?
だとしたら愚かしいですわね。
平民の娘が、このわたくしと同じはずがないというのに。
現実を見ずに、自分の都合のいい世界に閉じこもってばかりのこんな娘とわたくしが同じだなんて、馬鹿にするのもいい加減にして欲しいですわね。
……ああ、駄目ですわね。
いつもでしたらもしかしたら流せていたかもしれませんが、生憎今のわたくしは神経過敏になっておりますので、些細なことも気になってしまいますのよね。
「申し訳ないけれど、用事を思い出しましたの。お帰り頂けるかしら」
「え? でもせっかくお茶も来たし、話したいことが山のようにあるんですよ」
「聞こえなかったの? 帰れ、と言いましたのよ」
「なっ、私に命令するんですか! たかが侯爵子息夫人のくせに!」
「ああ、では王位継承権第三位を持つ王姪として命じます。出て行きなさい」
「そもそもお姉様が王位継承権を持っていること自体がおかしいんです! そんなの嘘に決まってます!」
「疑うのでしたら叔父様に確認してきたらどうですか?」
「わかりました! 嘘だったら承知しませんからね!」
「どうぞ」
テーブルを蹴る勢いで立ち上がって部屋を出て行って乱暴に閉められた扉を見て、わたくしは扇子をパチリと開いて眉間にしわを寄せました。
「シシリア様」
「二度と、二度とあの娘をこの部屋に入れないようになさい」
「かしこまりました」
深々と頭を下げて茶器を片付けるのを見て、新しくハーブティーが淹れられるのを見ながら、わたくしは不機嫌な状態が直ることなく、お仕事が終わり迎えにいらした旦那様に必死に宥めていただき、やっと不機嫌を抑えることが出来ました。
それにしてもあの娘、いりませんわね。




