諦めればよろしいのに
「オベロン様、こんな所で会うなんて偶然ですね」
「……ここは私の教室の前なのですが?」
「えぇ、でも廊下ですし、運命的な出会いですよ」
聞こえてきた声にわたくしは思わずため息を吐き出してしまいます。
接待役を外されたというのに、何かにつけてティアンカはこうしてオベロン様の所にやってくるのです。
偶然だという割には自分のクラスから遠いこのクラスに来るあたり、どういう偶然が働いているというのでしょうね。
わたくしは次第に暑くなってきている風を感じる、けれども日の当たらない場所に座りながら廊下を眺めています。
この学園ではクラスは決まっていますが席は自由なので、わたくしは最近はこの席をお気に入りにしているのです。
それにしても、オベロン様も大変ですわね。
「ティアンカ、こんな所でどうしたんだ?」
「あ、マレウス様。偶然オベロン様に会ったからお話ししようかなって思って」
「偶然、ね。ティアンカは移動教室かなにかだったのかい?」
「違いますけど、それがなにか?」
語るに落ちていますわ。
移動教室もないのにどうして校舎の端と端にあるクラスの前で偶然会うというのですか。
我がAクラスとティアンカのEクラスはだいぶ場所が離れておりますわよ。
「シシリア様、果実水をお持ちしました」
「ありがとうございます、シャリーア様」
最近、シャリーア様はこうして細かい氷の入った果実水をよく差し入れしてくださいます。
暑くなってくる時期でございますので嬉しいのですが、果実水よりも氷の量が多いように感じるのは気のせいでしょうか?
まあ、最近は氷を食べるのも癖のようになっておりますのでいいのですけれどもね。
「果物もございますが、召し上がりますか?」
「まだ昼食の時間ではありませんわよ?」
「食べれる時に食べた方がよろしいかと思いまして」
「そうですか? では、そうですわね、そのイチジクをいただきますわ」
「はい」
シャリーア様は保冷庫の中からイチジクを取り出すと切り込みを入れて器用に皮をむくと器に盛り付けてフォークを添えて渡してくれましたので、それを小さくフォークで切り分けて口に運びます。
うん、おいしいですわ。
まあ、確かに最近食欲が落ちておりますのでシャリーア様の言うように食べることが出来るうちに食べておいた方がいいのですよね。
これでも大分食べることが出来るようになったのですけれどもね。
一時期は体調を崩してしまいまして、サラダは何とかいただけていたのですがそれ以外を食べることが難しく、家の者も苦心しておりましたし、皆様にも心配をかけてしまいました。
シャリーア様が過保護になっているのもそのせいでしょうね。
「ティアンカ様も飽きないわよねえ」
「そうですわね。いい加減諦めて自分のクラスで大人しくしてくれればよろしいのですけれども」
「この前みたいにティアンカ様が騒いだせいでシシリアの具合が悪くなって保健室行きなんて騒ぎはごめんだわ」
「あれはわたくしも想定外でしたわよ」
キャンキャンと甲高く騒ぐティアンカの声に具合が悪くなってしまってシャリーア様に付き添われて保健室に行くことになってしまったのですよね。
まったく、ティアンカは騒ぎしか起こさないのですから困ったものですわ。
まあ、最近は体調も幾分落ち着いてきましたし、もうあのような事にはならないと思いますが、気を付けるに越したことはありませんわよね。
イチジクを半分ほど食べると胸がいっぱいになってしまいましたので器をミリアに押し付けました。
「これしか食べてないじゃない。まったく、ダイエットじゃあるまいし、ちゃんと食べないとだめよ」
「わかってますわよ」
そう言いながらも残った分をしっかりと食べてくれるミリアが大好きですわ。
「そういえば、来月の夜会には参加する予定はあるの?」
「ええ」
「そうなの。なら私も行こうかしら」
でもドレスをどうしよう、といいながらイチジクを食べているミリアから視線を廊下に戻しますと、まだティアンカがいてマレウス様に何か言い訳のようなものをしておりました。
「いいじゃないですか、オベロン様はお友達なんですよ! 少しぐらいおしゃべりをするのは当たり前です!」
「この間もそう言っていたじゃないか。俺はティアンカが他の男と仲良くするのが気に入らないと言っているはずだ」
「それは、いわれましたけど、マレウス様がこんなに束縛の強い人だなんて思いませんでした!」
「それが嬉しいと言っていたのはどこの誰だった?」
「はあ? 私はそんな事言っていませんよ!」
完全に痴話喧嘩ですわね。
「参りました」
「あら、オベロン様」
「他のクラスの友人に借りた本を返していただけなのにまさか捕まるとは思いませんでした」
「でも今回は早めに解放されましたわね」
「マレウス様が早く動きましたからね」
「よろしい事ですわ」
「ミリア様はどうなさったのですか?」
「ご心配なさらずに。ちょっとハツカネズミになっているだけですわ」
「ハツカネズミ?」
首を傾げるオベロン様にわたくしは笑うと、コップに入った氷を一粒食べてガリっとかみ砕きました。




