届かない距離
ああもうっわけがわからない。
直々にだかなんだかわけがわからないけど、長ったらしい講釈を垂れ流されるこっちの身にもなって欲しいものだわ。
私にはオベロン様の接待という大切なお役目があるっていうのに、前王妃って言ってももう耄碌してるんじゃないかしら?
うん、そうに違いないわ。
それにしてもマレウス様は最近執務ばっかりで私の事を本当に構ってくれなくなってつまらないわよね。
なんかよくわからないけど、北の領地を任されるのよね。
流石は第二王子様っていう感じだけど、そのせいで私の事を放っておくとか、順番が逆じゃない?
普通は婚約者である私の事を最優先に考えるべきなのに、どうして皆その事がわからないのかしら。
このイライラをオベロン様に会って解消しようと思ったところで、オベロン様と仲良く歩いているお姉様の姿を見つけてしまってさらにイライラしてしまう。
なんでお姉様がオベロン様と一緒に居るの?
そこは私の場所なのに、なんで邪魔をするの?
「オベロン様!」
私の声にオベロン様がゆっくりと振り返って微笑んでくれるのを見て、やっぱりお姉様じゃなく私の方が好かれているんだって自信が湧いてくる。
「これからオベロン様のお部屋に行こうと思ってたんです。こんなところで会えるなんて嬉しいです。オベロン様のお部屋でお茶をしましょう? 私、さっきまで沢山お勉強してたせいでくたくたなんですよ」
「御機嫌よう、ティアンカ様。お茶にするには少し時間が遅いんじゃないですか? あと一時間半もすれば夕食の時間になってしまいますよ」
「そんなの、夕食の時間をずらせばいいじゃないですか」
「ティアンカ、そんなにお茶をしたいのなら一人でなさい。オベロン様を巻き込むものではなくってよ」
「お姉様は誘ってないんですから口を出さないでください」
「ミリアから聞いていますわよ。貴女一人の都合で予定が変わっていて困っていると。貴女の行動には多くの人が関わっているのですよ、それをわきまえて行動なさい。オベロン様だってこれからお部屋でお仕事があるのですから、それを邪魔するような真似をするものではありませんわ」
「仕事? だってオベロン様はただの大使じゃないですか。仕事なんてすぐ終わりますよね」
なによ、私の方がオベロン様の事をわかっているのに、お姉様ってば口うるさいわね。
「申し訳ないのですが、シシリア様の言うようにこの後仕事がありますので、やはりお茶はご遠慮させていただきます」
「そんな! 私すっごくオベロン様とお茶をしたい気分なのに、酷いです!」
「そういわれましても」
困ったように笑うオベロン様の腕を掴もうとして、パシン、とお姉様が持っていた扇子で手を打たれてしまう。
「何するんですか!」
「お前こそ何をしようとしていましたの? まさかとは思いますけれども、無作法にもオベロン様の腕を掴もうとしたなんてことはありませんわよね?」
「そんなのお姉様には関係ないじゃないですか」
「関係ありますわよ。わたくしはオベロン様の歓待役なのですからね」
「それならわたしだってそうです! オベロン様のお接待役です!」
「それでしたら、オベロン様にご迷惑をかけないようになさいませ。お接待役がお接待をされてどうしますの?」
「なっ、ひどい! お姉様はどうしていつもそんな風に私の事を虐めるんですか!」
私の言葉にお姉様は大きくため息を吐き出してオベロン様の方を向いてしまう。
「ティアンカが申し訳ありません。ここはわたくしが対処いたしますので、オベロン様はお部屋にお戻りください」
「そうですか? ではよろしくお願いします。また機会がありましたら散歩に誘ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、それがわたくしのお仕事ですもの」
その言葉に思わずこぶしを握り締めてしまう。
私はオベロン様に散歩になんて誘われた事なんてないのに、どうしてお姉様が誘われてるの?
もちろん、オベロン様との散歩は何回もしているけど、それは私が誘ってばっかり。
オベロン様から誘ってくれてもいいじゃない。
離れて行くオベロン様の背中を追いかけようとしたらその間にお姉様が立ちふさがって睨みつけられてしまう。
「な、なんですか」
「ティアンカ、いい加減になさい」
「私はお役目を全うしているだけです」
「現実を見ろと言っているのですよ。専属の教師をつけてまで教育を施されているというのに、貴女はいつまでたっても成長する気配がないのですもの。ついにはお婆様まで貴女の相手をする羽目になって」
「そうです! おかしいじゃないですか! なんで今更私に王族の慣習なんかを教えられなくちゃいけないんですか? もう一杯勉強しました!」
「そうですの? でしたらなぜ先日は暁の薔薇を盗んだ挙句に使用したのですか?」
「それは、たまたま知らなかっただけです」
「たまたま、ね。随分都合のいいたまたまですわね」
細められたお姉様の視線が私を捕らえて、パチリと開かれた扇子で隠された口元がどうなっているのかわからずに、心臓がどくどくと早鐘を打つ。
「まあいいでしょう。今後の行動次第では、国王陛下にわたくしから進言することもございます。自分の役割を正しく理解し、現実を見てしっかりと行動なさい」
「わかってますわ」
私はちゃんとしてるのに、どうしてこんなことを言われなくちゃいけないの。
お姉様はやっぱり意地悪なんだわ。
私は一生懸命やってるのに、どうしてわかってくれないの?
そうよ、わたしは一生懸命やってるわ。
お姉様と私は違うもの、遊んでばかりのお姉様と違って、私はちゃんと貴族令嬢としてちゃんとしてるわ。