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なにぶんわがままなものでして(旧題:わがままでごめんあそばせ)★  作者: 茄子
子供の時からわたくしはわたくしですわよ
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使えるものは何でも使います

 まあ、結論から言いますと、大問題になりました。

 二十四歳の次期侯爵と六歳前の公爵令嬢では爵位はともかく年齢が開きすぎている、もっと年をとってのことであればここまで騒ぎが大きくならなかったかもしれませんが、仕方がありませんわよね。

 けれども、ここで驚きの味方が現れました。

 モストロム侯爵夫妻です。

 なんでも、息子にどんなに婚約者候補を紹介してもこれっぽっちも興味を示さないので、今夜は強硬手段に出ようかと思っていたそうなのです。


「五歳児と結婚しろと言うのですか!」

「もうすぐ六歳ですわ」

「そう言う問題じゃなく! 私がロリコンだと評判を流したいんですか!?」

「わたくし、大人になるまでしろいけっこんでも大丈夫ですわよ」

「そう言う問題でもないから!」

「いいではありませんか、あと十年もすれば問題はありませんわよ」

「その時の私の年齢は三十四歳です!」

「問題ないではありませんか」

「……ぐっ。で、でも世間体が」

「同性愛者と言われるよりよほどましですわね」


 モストロム侯爵夫人の一言に部屋の空気が固まりました。

 実際にそのような噂が流れているのかもしれません。


「お誕生日プレゼントに旦那様が欲しいのです。わたくしを大切にしてくれて甘やかしてくれて、愛してくれる旦那様が欲しいとお願いしたのですわ」

「君は王子の婚約者になるはずだろう」

「嫌ですわ、面倒くさい」

「まったくじゃな、王妃に夢を見るのは良いが、そのようなもの子供か下位貴族か庶民だけじゃ」

「そうですわね、監視される日々に見返りのない重責を背負わされるばかりで……」


 お婆様と王妃様の背中に黒い霞が立ち上がった気がしましたのですっと視線をそらしました。


「ルツァンド様、わたくしの旦那様になってくださいませ」

「な、なれるかぁぁぁぁぁぁっ!」


 ルツァンド様の叫び声が応接室に響き渡りましたが、わたくしにはわかっています。

 わたくしがわがままを言ってルツァンド様の膝の上に乗りっぱなしですが、わたくしを落とさないように気を使ってくださっておりますもの、脈はありますわ。


「せめて婚約者に」

「いやですわ」

「成人するまでは」

「お断りですわ」

「婚約者」

「六歳の誕生日までなら婚約者でもいいですわ。六歳の誕生日に婚姻をいたしましょう」

「そのようなもの、認められるわけが」

「ひいお婆様が隣国から嫁いでいらしたのは五歳の時でした。婚約期間などなくご婚姻なさったと聞いています」


 わたくし、ちゃんとお勉強致しましたわ。

 例外であったとしても、前例がある以上認められないという事は無いのです。


「陛下! わたくしはルツァンド様と婚姻いたしますわ! それ以外の誕生日プレゼントは今年はいりませんわ!」

「しかしな、シシリア。そなたはうちの息子と……」

「ホワイトアンジー」


 ぼそりとその単語をつぶやいた瞬間、陛下だけでなくお父様やモストロム侯爵も慌てだしました。

 わかりやすく言えば上位貴族や王族御用達のお忍び用の高級娼館でございます。

 お母様達は涼しい顔をなさっておいでです。

 流石ですわね、夫の浮気や遊びは把握済みと言う所なのでしょう。


「わたくし、旦那様が遊ぶのも仕方がないという、心の広い妻になりますわ!」

「どこでそんな言葉を覚えた! 誰に教わった!」

「……ティアンカが」

「旦那様ぁぁぁ! あの娘はいったいどういう教育を受けていたのですか! わたくしのかわいいシシリアに何という事を吹き込んでいるのですか!」


(ティアンカが会話をしていたメイドが話しているのを聞いたのですが……)


 まあ、これでティアンカの教育に熱が入るのであればいい事でございましょう。

 五歳と言う同い年なのに、下町ならではと言うか、随分とおませというか、イタイ発言が多い気がしておりましたので、いい機会になるかもしれませんわね。


「シシリア様、幼子がそのような話をするものではないよ。むしろ知らなくていい」

「はあ、そうなのですか。それで、旦那様」

「いや、まず話し合おうか」

「わかりましたわ。婚姻してもわたくしではお相手が務まりませんので、しろいけっこんをするとしても、月の物が来ましたら」

「ストップ、待って、落ち着け、私」

「旦那様、額に汗が」


 ハンカチーフを取り出して、ルツァンド様の額に浮かんだ汗を拭いて差し上げてにっこりと微笑みました。


「まだ私は婚姻するとは言っていない」

「……モストロム侯爵様、侯爵夫人。わたくし、ルツァンド様に求婚いたしますわ」

「「受け入れましょう」」

「本人の意思は!?」

「私はまだシシリアに婚姻させると言ってはいないぞ!」

「ミレジア」


 ぼそりとお父様の愛人の名前をつぶやきます。


「んん。すまないがうちの娘はわがままでな。しかしながらよく考えてみれば悪い話でもないだろうし、如何だろうか?」

「わたくしからもお願い致しますわ。わがまま娘ですが、かわいいものですし、成績も優秀です。礼儀作法や勉強についてはまだ途中ですが中々に優秀な成績を出しております。ところで旦那様、先月お買い求めになった香水が同じものが二本だったことは知っておりましてよ」


 お母様の言葉にお父様の顔色がとても悪くなっております。

 まあ、公認された愛人とはいえ、妻と同じ香水を送るなんて言う真似はマナー違反と言うか、どちらに対しても失礼ですわよね。


「旦那様、これにて婚姻の約束は成立しましたわ。末永くよろしくお願いいたします」

「ちょっ! だから私は納得していない!」

「世の中、自分の思い通りの婚姻を出来る人はほとんどいないのですよ」

「君はしているだろう!」

「はい、旦那様に認めていただけて嬉しいですわ」

「認めていないぞ!」

「だってわたくしが『している』と仰ってくださいましたもの」


 ぽっと顔を赤らめて、頬を押さえて照れたように顔を俯かせますと、その瞬間ルツァンド様が困ったように天井を仰ぎ見ました。

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