シシリアと書いて高貴な血と読みますの
「そういえば、ティアンカ様にも王族の血が流れているのよね」
ふと、二人だけでお茶会をしている時にミリアが思い出したように呟いたので、当たり前だと頷きました。
お父様の血を引いている以上、平民の血に薄められたとはいえ、王族の血はティアンカにもしっかりと流れています。
母方のひいお爺様の前々国王と父方のひいお婆様は兄妹でいらっしゃいました。
わたくしが嫁いできたときに持ってきた持参金の一部である祖母の個人資産は、元々王家の所領であったものも含まれております。
わたくしの個人資産だけを見るのであれば、王子お二人よりも余程多いうえにルツァンド様とわたくしの采配により順調に資産は増えて行っておりますわ。
もっとも、利益の出る物ばかりが個人資産ではないのですが、それはまた別としておくべきでしょう。
そして、ある条件を満たした時にお母様の個人資産の残りを受け取ることが約束されている為、今からその資産を目当てにすり寄ってくる者も少なくありません。
考えがそれてしまいましたが、そう言う意味で、祖母の息子である父の娘であるティアンカにはしっかりと王族の血が流れています。
もっとも、父方の祖父も少しさかのぼれば王族に繋がります。
この国の高位貴族と言うものは、どこかしらに王族の血が流れているものなのです。
濃くなりすぎないように適度に薄め、熟成させ、飲みこんでいくのです。
「平民の血が強いのかもしれませんわね。でも、王家の血も綺麗なものではありませんから、その澱みが出たのかもしれませんわよ」
「貴女とお兄さんはそう考えれば濃い血よね。伯爵令嬢だった王妃様を母親に持つ王子達よりもある意味濃いんじゃないかしら」
「そうですわね。でもこの国の高位貴族なんて多かれ少なかれ、王族の血が混ざっているではありませんか」
「そうね。私にも流れているわ」
でも、とミリアはわたくしをじっと見てきます。
「王家は貴女の血を手に入れたかったのでしょうね」
「いずれそうなりますわ」
「そうね、いずれね」
わたくしの子供は、次の代のサラブレッドとして王家に取り込まれることが確定しております。
男女どちらであってもミリアとサフィール様の子供の伴侶となることが決まっているのです。
子供に拒否権はなく、婚姻式を行える程度の物心が付けばすぐに、それこそ異国から来た姫のように婚姻を義務付けられております。
「貴女のお兄様もお気の毒ね」
「お兄様が望んだ事ですもの。貴族としてはどうかと思いますけれども、仕方がないのではないでしょうか?」
「これも血筋と言うものなのかしら?」
「さあ? けれども男爵家の令嬢を愛し、正室にしたいというのであれば公爵家の跡取りにはなれませんわ」
初めて手紙で相談された時は流石に眩暈がしましたが、それに伴うレイバール公爵家の権限の譲渡や持っている爵位の譲渡、実際にお爺様が自分のわがままに課す低い爵位の相続や個人財産の移譲など、綿密に書かれていて本気なのだとわたくしも覚悟を決めましたわ。
「愛人にではなく、正室にねぇ。血筋だけならはとこなんでしょうけど」
「お爺様の愛人の娘、その娘が男爵の愛人になり娘を産んだ。そしてその娘がお兄様に見初められた。業が深すぎますわね」
空位の男爵家をお兄様が継いで、その少女を正室にする。
婚約にあたってお父様と相当揉めたそうですが、わたくしにレイバール公爵家や他の相続権を譲渡することでお母様がお兄様に味方し、お爺様もまたお兄様に味方してしまった事で今回の無理が通ったのです。
お兄様、運がいいですわよね。
「貴族の夫婦に愛は必要ない。だから愛人が成り立つ……か」
「公爵位であれば側室が認められておりますけれど、基本的には愛人のままにしておりますわよね」
側室は正式に公爵家の籍に入ることになりますので、公爵の子でない子供が居た場合縁を切ることになりますし、未亡人であれば前夫との縁ももちろん切れます。
愛人はもちろん愛し合う人と言う意味合いが一番強いですが、独り身や未亡人への資金援助や自立支援の意味もあるので、それまでの縁は続く形になります。
「まあ、例の未亡人もいる事だし?」
「ミレジアの事、お父様はまだ未練があるようですわ。本当に愛しているのでしょうね」
「よくバレないわよね」
「家からほとんど出しませんし、お父様が来るような場所には出しませんもの」
その言葉にミリアはじっとわたくしを見て、言いにくそうに口を開きます。
「シシリアは?」
「なんですの?」
「愛し合って結婚した?」
「さあ? 婚姻当初はどうでしょうね。でも今は旦那様はわたくしを愛してくれておりますわよ」
「……シシリア自身は?」
「愛しておりますわ。夫ですもの」
「そう。そうね、ごめんなさい。変なことを聞いたわね」
「構いませんわ。サフィール様との婚姻式を前にナーバスになっているのでしょう」
「そうなのかもしれないわね」
でも、とミリアは消え入りそうな声で呟く。
「愛には色々あるものよ、ね……」
メイドすら退室させた二人きりの部屋で、吹くはずのない冷たい風が部屋の空気を揺らした気がしました。




