いかなる時もわたくしらしく
今日は貴族としての義務の一つ、孤児院への慰問をする日になっております。
「だめですわ。そんな地味なドレスではわたくしの魅力を引き立てることが出来ませんわ」
「けれどお嬢様」
「わたくしはルツァンド様の妻ですわよ」
先日新しく入ったメイドが用意したドレスを見て信じられないと顔を歪め、わたくしはドレスを替えるように提案しましたが、食い下がられてしまったのでじろりと睨みつけたところ、口を閉ざしてしまいました。
「若奥様、孤児院の慰問に行くのに華美なドレスはいささか問題があるのではないでしょうか?」
「何を言っておりますの? どこに行こうと関係ありませんわ。ああほら、そんな装飾のないドレスでは華やかさが足りませんわ。そっち、そちらの刺繍が沢山あるドレスに致しましょう」
子供らしく可愛いけれども、膨らんだスカートにはふんだんに刺繍がされており、レースで彩られている。
控えめに言っても貴族令嬢を集めたお茶会などに着ていく自分の権威を示すためのドレスであり、孤児院を慰問するようなドレスではない。
別のメイドが戸惑いながらもドレスの準備をしてわたくしに着せ終わると、今度は髪を結うために鏡台の前に誘導して座らせる。
様々な髪飾りを取り出すのを見てわたくしは手を横に振ってその準備を止める。
「髪は簡単にまとめるだけでいいですわ」
「え」
通常ならドレスを地味にして目立つ髪飾りを付けない分、編み込んだりと髪形を複雑に、そして豪華にするのだが、わたくしはことごとく逆の命令を出す。
「簡単にまとめて、その花の髪飾りとベールの帽子がいいですわね。ああ、手袋はその刺繍のされたものがいいですわ」
「若奥様、けれどこちらは若様から贈られたものでございます。もし汚れてしまっては……」
「汚れたらまた買っていただけばよろしいではありませんか」
メイド達は視線を交わし合い、わたくしの言うとおりに髪を結って飾り付けをしていき、せめて髪が簡素にまとめてあるように見えないように長めのベールのついた帽子で髪を隠しました。
準備が終わり、ゾロゾロとメイドを連れて廊下を歩いて階段を下りて玄関に行く途中、あからさまに眉を寄せた表情を向けてくるメイドや侍従が居たので顔を記憶しておきました。
「あら、シシリアさん。これから孤児院の慰問に行くのかしら?」
「はい、お義母様。これから向かう所ですわ」
「そう。……とても似合っているけれども、孤児院に慰問に行くにはドレスが少し派手かもしれないですね」
「問題ありませんわ。孤児達にわたくしの美しさを見せつけてあげなくてはいけませんもの。美しいものを見る機会のない孤児に、このわたくしの美しさを教えてあげるのですわ」
「そう。……そちらの大荷物は何かしら?」
「もちろん貴族として孤児に施しを与えるためのものですわ」
「服か何かを?」
「いいえ、ただの布ですわお義母様。他にも糸などですわね」
「食料品はないのかしら?」
「今回はありませんわ。今年は豊作だそうですから、わたくしがわざわざ用意する必要はありませんもの」
「そう。わかりました、気を付けて行ってらっしゃいませ」
「いってまいります」
お義母様に見送られながら馬車に乗って孤児院に行きます。
この孤児院はわたくしが個人的に所有しているもので、いわば経営者と言う所でしょうか。
婚姻するにあたって、実家から財産分け、持参金ではなくわたくしの個人財産を貰っておりますのでその一部ですわね。
もちろん、持参金もモスロトム侯爵家に支払われております。
旦那様は、その品物や持参金、領地の把握で忙しくしておりますので、もう少し少なくてもよかったかもしれませんわね。