ゴリラが馬車でやってくる
ここは西部の行き止まり
開拓農民もいない場所
乾いた風にくるくると
まあるい草が転がり走る
男は荒野の風来坊
拳銃一丁腰に差し
賞金首を捕らえて回る
相棒さえもいない奴
こんな何にもない場所に
馬車がカラカラやってくる
デコボコ荒野の草を越え
小石も跳ねてやってくる
男はちっと舌打ちひとつ
真昼の太陽を呪ってみても
馬車はどんどん近づいて
御者の姿が見えてくる
西部で見慣れた幌馬車の
力強い馬二頭
操る影は大柄な
黒々毛深い大男
おおい、ここには誰もいないよ
徒歩の男は叫んで告げる
俺も今から町に戻るさ
馬車はカラカラやってくる
無言でどんどん近づいて
馭者台の男が目に入る
はっきりくっきり目に入る
人ではないその黒々とした毛むくじゃらの生き物は深く静かな瞳を向けて、賞金稼ぎの男に頷く
テンガロンハットのツバの陰から
思慮深く覗くのは黒い顔
皺さえも黒く荒野に映えて
寡黙な巨体を柔らかに揺する
あんた
言葉がわかるのかい
話せなくても
わかるのかい
黒い生き物の口元は微かに緩み
わかってくれたかと目を細める
町に戻るならのせてくれ
これから俺と組まないか?
いくらわかると言ったって
話せなくては不便だろ
やがて止まった幌馬車の
幌に書かれた文字を読む
ご、り、ら
あんた、ごりらさんて言うのかい
ゴリラは満足そうに手綱を離し
深く優しい声を出す
ぐふーむ
それがゴリラの挨拶
賞金稼ぎは得心し
真似して低い声を出す
グフーム
ちょっぴり違うが仕方ない
かれらは違ういきものだ
それから2人は西部の町を
悪い奴らを懲らしめて
仲良く楽しく旅していった
賞金稼ぎは奥さん見つけて
ゴリラも可愛い妻を得た
暑くて暑くて水もなく
乾いた荒野を当てもなく
賞金首を探して彷徨う
2人の男が出会った空は
白く愉快な雲が走って
ギラつく太陽なんかからかって
真っ直ぐ明日へ
開いて歌う
お読みいただきありがとうございました