第4話 決心
あの日から学校に来る度、いつも柴田君を探してる。
わたしの日課になった。
今日も柴田君元気そう。
よかった…
窓でじっと白い息を吐きながら、柴田君を見つめる。
一人で物思いにふけっていたら
「希美…熱心なのはいいんだけど…寒い」
麗ちゃんが、参考書を片手に震えていた。
「あっ、ごめんっ」
急いでカラカラ窓を閉める。
「ごめんね。麗ちゃん」
大事な試験前なのにわたしってば。
しゅんっと椅子に座る。
「いいじゃん、いいじゃん。わたしと希美はもう卒業待つだけなんだしっ!高校生活楽しまなきゃ」
3つ目のパンを食べながらカナちゃんが笑いかける。
「カナは楽観的なんだから。希美は結果発表いつなの?」
「えっと…来週」
「そっか。早く合格通知届くといいね」
「うん」
こくんっとうなずく。
麗ちやんはいつも気遣ってくれて優しい。
「ねっねっ!そういえば希美はバレンタインチョコ、どうするの?柴田にあげるの?」
カナちゃんがぐいっと身を乗り出す。
「チョ…チョコ?」
「うんうん、チョコ」
「渡したいけど、それって告白するってことだよね?」
「当たり前でしょー?チョコだけ渡してどうすんの」
「う…うん…」
カナちゃんの勢いにたじろぐ。
「卒業式まであと一ヶ月!最後のチャンスだって言って告白しようとしてる子多いんだよ」
「あーもう。カナっ!希美が困ってるでしょ」
割ってはいる麗ちゃん。
「だってー希美見てるとさ、このまま卒業しちゃうんじゃないかって思って…」
「……」
わたしは黙り込んで何も言えない。
そうだよね…
卒業まであと一ヶ月。
女子大に行くわたしは、もう柴田君と会うことはない…
わかってるけど…
柴田君はきっとわたしのことを知らない。
話したことがあるのは、あの校庭でボールを投げた時だけ。
いつも見てるだけで、何もしてこなかった。
廊下ですれ違っても恥ずかしくて顔を隠しちゃう。
「もし、チョコ買いに行くんだったら早めに行かないと可愛いハートのチョコとか売り切れちゃうよ?わたしも彼氏の買いに行くし…」
両手の人差し指を合わせるカナちゃん。
「カナ…単に付いてきて欲しいだけでしょ…」
呆れ顔の麗ちゃん。
「だからっ、そんなんじゃなくって、わたしは希美のためを思って!って麗ちゃん聞いてる?」
「聞いてるわよ。耳にタコが出来るくらいねっ」
わかってる…
バレンタインが…告白するチャンスなんだって…
窓の外をもう一度眺めて、柴田君を探す。
楽しそうにボールと遊んで、笑い声がここまで聞こえてきそうなくらい笑ってる。
うん…
カナちゃんの言うとおり。
わたしは柴田君が好き。
ドキン…ドキン…
胸いっぱいでもう溢れそうなんだもん。
付き合うとか考えたことないけど、何も言わずに卒業したら後悔する…
「カナちゃん…」
小さな声で話しかける。
「あーもー希美。カナが言ったことは気にしないの。ねっ」
背中をさすさす撫でてくれる麗ちゃん。
「わたし…」
「うん?」
2人がわたしをじっと見る。
「柴田君に告白する…」
わたしの言葉に。
「うそっ!ホントに?希美ー!よく決心したー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶカナちやん。
「本気なの?大丈夫?カナに合わせることないんだよ?」
お母さんみたいに心配する麗ちゃん。
でも…わたし…
「麗ちゃん。告白したいの。大丈夫だよ」
はっきりと告白宣言をした。