第2話 休憩時間
17才、高校3年生2月初旬の思い出。
8年前。
わたしが17才のとき…
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが校舎に鳴り響く。
やっとお昼休憩。
ざわざわとおしゃべが始まって、みんなが移動しだす。
わたしもいそいそとカバンからお弁当箱を取り出す。
苺のハンカチに包んだ小さなお弁当を持って、仲良しの麗ちゃんとと加奈のところへ移動。
わたしの名前は木下希美。
高校3年生。
背が低くて、147cmしかないちびっこ。
童顔で、いつも美容師さんにボブが似合うって言われるから小さい頃からずっとボブのまま。
特に取り柄もなくて、内気なわたし。
「麗ちゃんっ、今日はお弁当?」
「うん。受験前なんだからスタミナつけろってウナギ入れてくれて」
「えーウナギ?そんなお弁当食べたことないよー」
「でしょ?うちの親はやる事が単純なんだから」
呆れた顔をしつつ、ちょっと恥ずかしそうにお弁当のフタを開ける開ける麗ちゃん。
照れくさいのかな。
でも嬉しそう。
「あははっ。でも麗ちゃんは国公立受けるからこれからが本番だもん。力つけなきゃね」
「そうだね、ありがと」
わたしの友達の麗ちゃん、北林麗華。
才色兼備って言葉がこれほどまでに当てはまる子いないんじゃないかって思うくらい綺麗な子。
シャープな顔つき。
透き通った肌。
目はおっきいし、マスカラをつけなくてもまつ毛は長くてふさふさしてる。
背も高くて、165cmはある。
それに付け加えて、成績優秀。
特に英語が得意で、既に推薦で外国語大学に受かっている。
でも私学は学費がかかるからって、国公立も受けるんだって。
ほんとに親孝行。
尊敬しちゃう。
わたしなんて安全圏の私学を受験して、結果を待つばかり。
もう受験勉強はしてない。
「あれ?そういえばカナちゃんは?」
ウインナーを食べながら、教室をぐるっと見回す。
「あぁ、カナね。ベルが鳴った瞬間飛び出して行ったよ」
「食堂かな?」
「また高カロリーなパン買いに行ってるんじゃない?」
「…ダイエットは?」
「んーやめたのか、忘れてるのかどっちか」
お箸をくるくる顔の前で動かす麗ちゃん。
「ぷっ」
「あははっ」
2人で目を見合わせて笑い出す。
「カナは懲りないねー」
「もう何度目だろー」
「あんなに絶対やせるんだって言ってたのに…」
「カナちゃん、甘いものに目がないから…」
2人で噂をしてたら、
「麗ちゃーん!希美ー!」
カナちゃんが、顔を真っ赤にして帰ってきた。
「カナ…」
「うわっ、いっぱい!カナちゃん…」
一体いくつあるのってびっくりするくらいのパンの量を両手に抱えてる。
「お待たせーっ!」
机にバラバラとパンを広げる。
うひゃぁぁぁ!
1…2…3…4…5…
えっ!
5個っ?
「今日はねっ、新商品が入ったっておばちゃんに勧められちゃって…クリームパンははずせないしっ、このチョコパンも諦めれなくって」
パンを片手に興奮気味で話すカナちゃん。
麗ちゃんがため息ついてる。
わたしの不安をよそにカナちゃんは満面の笑みで
「おいしそうでしょー!」
って、ペリペリ。
袋を開けだした。
「カナーこんなに食べる気?」
わたしと麗ちゃんは、見てるだけでお腹いっぱい。
「んー余ったらバイトの前に食べるから大丈夫」
もうすっかりダイエット宣言を忘れてるらしい。
わたしのもう一人の友達、カナちゃん。
栗原香夏子 156cm。
くるくるパーマに茶髪。
メイクもバッチリしていて、雑誌から飛び出してきたようなオシャレさん。
甘いものとか可愛いものに目がない。
推薦で短大の服飾科への進学を決めている。
「あぁ、こわいっ。また彼氏に太ったって言われるよ」
麗ちゃんの痛恨の一言。
それにはグサッときたのか、ほっぺをぷくっと膨らませる。
「カナが甘いもの好きなのは知ってるし、わたしはカナが太ってると思わないからいいよ」
淡々と麗ちゃんのお説教が始まる。
「でもね、彼氏に太ったって言われる度、毎回電話して来られるわたしの身になってよ…はぁぁ」
麗ちゃんのため息に、カナちゃんのぽっぺたが、ぷぅぅぅってますます膨れる。
「あっ、でもカナちゃんはバイトもしてるし、夕方にお腹すいちゃうんだよね。運動量も多いだろうし…」
慌ててわたしがフォローすると
「んーっ!希美っ!大好きー!」
両手を広げてカナちゃんが抱きついてくる。
「希美は甘いんだから…」
がっくりした様子で、食べ終わったお弁当を片付けだす麗ちゃん。
そんな麗ちゃんをよそに、
「希美っ、校庭に柴田がいるよっ」
「えっ」
条件反射。
くるっと窓から覗き込む。
今はまだ2月。
外はビュービュー木枯らしが吹いていている。
校庭に植えている桜の木々は裸になっていて、余計寒さを誘う。
ただ花壇にサザンカが咲いているだけ。
寒さゆえ、休憩時間になっても外に出て行く子は少ない。
「寒いのにバカだねー柴田は」
カナちゃんは呆れた様子。
「ほんと…風邪ひいたらどうするんだろ…」
そんなことを呟きながら、わたしはカラカラと窓を開ける。
ヒューっとひんやりした風が髪をなびかせる。
柴田君だぁ…
ドキドキしながら、窓にそっと手を載せて、食い入るように見つめる。
校庭の端からゴールに向かって走りまくって、ボールを取り合いながら、クラスメイトとサッカーをしている。
ドキン…ドキン…
胸が高鳴る。