第1話 古びた手紙
25歳の希美。
「希美ー!荷物これで終わりー?」
「まだー!もうちょっと待ってー」
「早くしなさいよー!」
お母さんの威勢のいい声が家の中で響く。
わたしの部屋中には山のように積み上げた段ボール。
ガムテープやゴミ袋が床に散乱している。
窓を全開にしても、もうもうとほこりが舞っていて、マスクを付けているのに喉が痛い。
目もしょぼしょぼしてる。
今日は引越し。
前もって片付けたつもりだったのに、引越し当日になって最後の荷物を詰めるのに追われている。
「あーもうっ!荷物多いっ!」
25年間溜め込んだ洋服や本、ちっちゃなガラクタ。
自分でも嫌になっちゃう。
お母さんが、いらないものは思い切って捨てなさいって言っていたけど、ホント、捨てればよかった…
えっと…化粧品はポーチに入れて、割れないようにクッションになるものは…っと…
キョロキョロ…
ぐちゃぐちゃになった机の周りを見回して、手ごろなタオルを見つける。
あ。
あのタオルで巻いちゃお!
ちょっと横着だけど、いいやっ
よいしょっと
かがめていた体を起こして、机のほうへ手を伸ばす。
「もうちょっと…」
段ボールの隙間を潜り抜けた手がなかなか届かない。
「ンーッ…」
体をひねって、限界まで手を伸ばした瞬間。
バサバサバサッ
ものすごい音を立てて、段ボールの横に積み上げていた本や雑誌が雪崩のように崩れ落ちた。
「あぁぁ…やっちゃった…」
わたしは一気に脱力。
無理して手を伸ばしたせいで、肩が段ボールに当たってしまったらしい。
仕方なく立ち上がって、本を片付けに行く。
「はぁぁぁっ」
ため息を吐きながら、空の段ボールを手繰り寄せて詰めていく。
もう疲れたぁー
誰か全部やってくれないかなぁ
腰痛くなっちゃった
窓からそよそよと風が吹いて。わたしの髪を揺らす。
外は快晴。
絶好の引越し日和。
天気いいなぁ。
早く終わらせてゆっくりしたい
そんなことを考えながら、手に取った本にA4サイズの本が混じっていることに気が付いて、
手を止める。
藍色のしっかりとした硬い表紙がはみ出ている。
わたしは本の束からその1冊を抜き取った。
「わぁ…懐かしい」
それは藍色の表紙の中、誇り高く金色で高校の名前が書かれている卒業アルバムだった。
笑みを浮かべながら、分厚いページをパラパラとめくっていく。
アルバムには、集合写真から個人写真、遠足や修学旅行、体育大会、文化祭などの思い出がくっきりと刻まれていて
「みんな若いなぁ」
ページをめくる度、鮮明に高校時代を思い出していく。
そして、自分のクラスに差し掛かった時に、次は黄色い封筒が見え隠れしていた。
「…?何だろ?」
ページをめくって、手紙を手に取る。
手紙はアルバムにはさまっていたとはいえ、7年の月日が経っていたためうっすらとだが黄色く変色していた。
ひっくり返して、表書きを見るとそこには『柴田君へ』と幼い字で書かれていた。
これ…この手紙…もしかして…
わたしは、手紙を持ったまま17才だった頃の自分を思い出していた。