表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/467

輪ゴム鉄砲

ブクマ登録、評価、感想ありがとうございます!!寒いのでみなさん気を付けて!




誰も彼もが冷めた目で村上と鹿野を見る。


「たくまは悪くない!噂を流したのも全部うちだから!うちが悪いの!」

「やめろ、もうやめてくれ、鹿野」


陳腐な劇を見せられているかのようだな。こいつらを追い込む俺らは悪役ってところか。いいね、悪役上等だ。


「そこの男のスマホから「愛羽カンナがとある男子生徒に振られたらしい」「愛羽カンナが告白したMは2年A組の御子柴智夏らしい」の2つが投稿されたのはもうわかってるわ」


村上の名前すら呼ぶのを(いと)い、もはやそこの男と呼ぶようになったカンナ。仁王立ちといい目力といい、悪役っぽいな。後ろで香織が「素敵・・・」みたいな顔してカンナを見てるのがよくわからないが。女子はそういうのが好きなのだろうか。


「村上があの噂流したやつだったのかよ」

「なんでそんな噂流したの?」

「ほんとに性根の腐ったヤツだな」


周りで聞いていたクラスメイト達が村上達にぎりぎり聞こえるくらいの小声で囁き合う。この、相手にわざと聞かせるための声量って学生生活で無意識のうちに身につくスキルの一つな気がする。


鹿野は味方が誰もいないことに焦っているようだが、村上は黙って俯いたままだった。


「村上、なんで噂を流したんだ?」


今ならこの質問に答えてくれる気がした。自分の弱さに直面している今ならきっと。数秒の沈黙の後、村上がかすれる声で答えた。


「・・・最初に「とある男子生徒が愛羽カンナに振られたらしい」って裏掲示板で見て、愛羽、さんに振られた時のこと思い出した。それで、噂の中だけでも振られればいいんだ、って思って、」

「「愛羽カンナがとある男子生徒に振られたらしい」と投稿した、と?」


首を縦に振り、肯定する村上。なんと身勝手な理由だろうか。想像の百倍くらいしょうもない理由だった。


「・・・思ったよりも噂になって、すっきりした。このまま苦しめばいいと思った。そのときに、」


言葉を途中で切り、俺を見る村上。


「御子柴が、街ですっげぇ美人と歩いてたって聞いて、今まで溜まってきた御子柴への恨みが噴き出してきた」

「うん!?」


おおっと?火の粉がこちらにも飛んで来たぞ?街中で美人と歩いてたってなに?いつの話だよ!


「なるほどつまり美人と歩いてたしばちゃんに腹が立って、2つ目の投稿「愛羽カンナが告白したMは2年A組の御子柴智夏らしい」を流したわけか」

「奇しくもその噂が真実だったわけね。腹の立つことこの上ないわ」


なぜか俺までしら~っとした目で見られるのは不服すぎる。


「ねえ、それじゃあ告白したのがMってわかったのはなんで?」


・・・あ、確かに。噂を流した理由がしょうもなさすぎて忘れていたが、なんでMってわかったんだ?そもそも告白した相手がMっていうのを最初に言い出したのはネットニュースだったような。


「とうとう虎子の出番だねー!!」


教室の横のベランダの窓をスパーンと開け放ち、赤い鼻をしながら登場したのは学校祭で組んだバンドグループ『ヒストグラマー』でドラムを担当していた1年生の為澤虎子である。しかもその横からぞろぞろと陽菜乃先輩、ザキさん、新藤さんが出てきた。それと、知らない男子生徒が一人。


「みなさんなぜそこに」

「タイミングを見計らってた~。グッドタイミングだったっしょ~?」


褒めて褒めてと虎子が頭を差し出してくるのでとりあえず撫でる。教室は新たな乱入者に混乱。俺たちも混乱。陽菜乃先輩が嬉々として状況説明に入る。


「虎子ちゃんが面白い子見つけたって連絡してくれたから話を聞いてみたの。そしたら「自分はこの噂を陰から操っている真の指揮者である、ふっ」て言ってるクラスメイトがいるって聞いてね」


待って待って内容以前にそいつキャラ濃いよ~話が頭に入ってこなかったよ~厨二病かよ~


「で?その真の指揮者(笑)さんは何したんだ?」


笑われてるぞ・・・顔笑ってないのに文字だけで笑われてるぞ・・・


「よくぞ聞いてくれました田中先輩!自分は何を隠そう、あのネットニュースを書いたライター本人であります!」


まさかの関係者全員集合。真の指揮者(半笑)よりカンナの方が身長が高いので、眼圧増し増しで言った。


「正座」

「へ?」

「そこに正座なさい」

「・・・はい」


村上の横に正座した半泣きの指揮者(´;ω;`)。


「あなた達には言いたいことが山のようにあるけど、とりあえずこれだけは言わせて」


すぅ~っと息を吸い込むと、校舎中に響いたのではないかと思うほどの大きい声、ではなく、とてもか細い今にも消えてしまいそうな声で言った。


「失恋くらい、普通にさせてよバカ・・・泣きたいのはこっちよ。なんで私が失恋したことを日本中に知られなきゃいけないのよ。傷心中に何してくれちゃってんのよ。傷口に塩どころか岩塩ぶち込まれた気分だわ」


さっきまで喧しかった教室が水を打ったような静けさに包まれる。


「鹿野、どいてくれ」


前にいた鹿野をどけて、村上が正座するとそのまま頭を下げて、カンナに謝罪を口にした。


「迷惑かけて、傷つけて、すみませんでした」

「私にだけ?ふざけてるの?」

「・・・御子柴も、八つ当たりして、傷つけた。すみません」


最初の間はなんだ。いろいろ納得できない部分はあるが、一番被害を被ったカンナより先に何か行動を起こすのは違う気がするので無言を貫く。


「その、自分も興味本位で記事書いて、愛羽先輩や御子柴先輩の気持ちを無視してました。ごめんなさい」

「二人とも目をつぶりなさい」

「「は、はい」」


素直に目をつぶった二人のおでこに順番に鈴木が作っていた割りばしでできた輪ゴム鉄砲を発射するカンナ。威力は相当のようで、バチンッとかなり大きな音を立てていた。


「智夏もやる?」


と輪ゴム鉄砲を差し出されたが、カンナが鈴木から武器をもらったように、俺も田中から武器をもらっている。村上の耳元にそっと囁く。


「お前の父親、会社の金に手を出したのバレて今大変なことになってるぞ」

「な、はぁ!?おい、嘘だろ!!」


周囲には俺の声は聞こえていないのでいきなり顔色が悪くなった村上を俺を交互に見て困惑していた。


田中にもらった武器はひとつ。さっき言った村上の父親の情報。けれどこの情報の使い道によってはもう一つの武器になる。昨日田中から、俺が鹿野に嘘告白されそうになってた、というのを聞いて驚いた。だからちょっとくらい仕返ししてもいい、よな?村上を見て困惑する鹿野の耳元にそっと近づき、


「村上はもうすぐ学校からいなくなるよ、多分だけど」


と言ってやった。俺の言葉に鹿野は目を見開くと、呆然と呟いた。


「は?御子柴何言ってんの・・・?」


村上を慕う鹿野にはこれが一番効果的だと思ったのだ。こんな状況になってもひたすらに慕う相手をかばい続ける鹿野には。寄生先がなくなるぞ、と脅しをかけることが一番だと思う俺はなかなかにいい性格になったと思う。



それからヨシムーが慌てて教室に入ってきて村上を連れ出し、教室は騒然となった。1年生の・・・真の指揮者(塵)は新藤先輩に連れられて職員室に行った。


「本当にあれだけでよかったのかよ?」


鈴木がカンナと俺に聞いてくる。心残りは無いのかと、わだかまりにはならないのかと。


「正直言って、もっとぼっこぼこにしてやりたい気持ちはあったけど」

「この噂を利用することにしたから、な?」

「えぇ」


だいぶ前に、カンナとメイトに行った帰りにカフェで即興で作った曲。あれの発表の日がちょうど明日なので宣伝に使ってしまおうということになったのだ。御子柴智夏として初めて出す曲でもある。色々な意味で忘れられない曲になりそうだ。




~執筆中BGM紹介~

機巧少女は傷つかないより「回レ!雪月花」歌手:歌組雪月花様 作詞・作曲:ヒゲドライバー様

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更に噂をコントロールしていた奴がいたとは。ついでだからそいつも名誉棄損で通報しときます。 おまわりさーん2日連続で出番ですよー。両津巡査長を指名しまーす。 馬鹿どもの所業が明るみになって、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ