竜の逆鱗
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噂の件についてクラスメイト達からの謝罪を受け、なんやかんやで俺とこれからも友達でいてください宣言したときだった。
「私もね!!」
いきなり教室のどこかから声が聞こえたと思ったら、後ろの掃除用具入れの中から愛羽カンナが出てきてクラスメイト達は事態を呑み込めていなかった。カンナの「私もね!!」に対して、なにが?とか声でかくない?とか思うところはあったが、とりあえず事情の知らないほとんどのクラスメイト達は
(((なんで掃除用具入れの中から愛羽カンナが!?)))
驚愕に見舞われていた。
勢いよく登場したにも関わらず皆無反応なため、何を勘違いしたのかもう一度、しかもドヤ顔でカンナが言い放つ。
「私もね!!」
三大美女の一人であり、人気声優の愛羽カンナといえばクールなキャラなのだ。
(愛羽さんってもしかして・・・)
(その片鱗はちらほら見えてたけど・・・)
(((ちょっとポンコツなのか・・・?)))
ドリボやプライベートのときに、親しい人にだけ見せていたカンナの元気娘な部分が2年A組生徒に決定的に露見した瞬間であった。
「カンナちゃん、「私もね」って何に対してなの?あ、髪に埃ついてる」
カンナの髪についた埃を取りながら、同じく三大美女の一人である同じクラスの花村香織がようやくカンナの発言について言及する。
「ありがと。私ってほら、自分のクラスよりこのクラスの方が友達多いじゃない?」
「そうだね~」
埃を取ってくれた香織に礼を言い、説明を始めたカンナ。よくうちのクラスに遊びに来るなーとは常々思っていたが、カンナって自分のクラスに友達いるのか?・・・はっ、まさか、いない、のか!?思い返せばカンナがクラスの人といるところを見たことがない。おっといけない、うっかり涙が零れそうだよ。
「私も噂の件で迷惑被った一人だし、もしこのクラスの人たちが私に対しても罪悪感を抱いていたなら、もういいわよって言いたかったの」
あ、そっちか。友達になってくださいの件じゃなかったのか。内心ほっとしていると、カンナが鋭い目つきで俺の前にガムテでぐるぐる巻きにされている村上を見る。
「私の怒りは他にある」
美人が怒ると怖い、とかそういうことではなく、もっと根源的なものでその場にいた生徒たちは震えていた。これは竜の逆鱗に触れたような、踏み込んではいけない領域だ。その怒りが自分に向いていないと頭ではわかっていても、その場にいるだけで体が勝手に震えてしまう。
まっすぐに、こちらに向かって歩いてくるカンナ。間にいた生徒たちは彼女の怒りに触れまいと、波が引くように道を開けていく。
「オ、オレは知らない!なんも知らない!!」
怒りを真正面から受けた村上は地面に転がりながら芋虫のように、うにょうにょと後退している。ここに来てしらばっくれようとする村上の耳元でぼそっと囁く。
「『デッドベアー』」
面白いくらいにびくっと跳ねる村上。それでもなお否定しようとする村上に、今まで静観していた田中が凄む。
「知らないとは言わせない。お前のスマホから『デッドベアー』で投稿しているのはもうわかってる」
視線が田中に行ったところで、ちょうど到着したカンナが村上の正面に立つと、何かに気付いたようでじっと顔を見ている。
「あなた、学校祭の前に告白してきた人?」
「チッ、やっと思い出したのかよ」
先ほどまで感じていた恐怖より怒りが勝ったのか、舌打ちしながらカンナを睨み返す村上。昔カンナがイベント期間は告白が多いとかなんとか言っていたが、どうやらそのうちの一人だったらしい。
「お前がオレを振った後も、何事もなかったようにズカズカと教室に入ってきて楽しそうにしてる姿に心底ムカついてたよ!!しかも、オレのことなんざ見向きもしねぇでよ!お前、オレがこの教室にいることにすら気づいてなかっただろ!」
「それは・・・ごめんなさい。無神経なことをしたわ」
「っ!」
あっさりと謝罪するカンナに面食らった様子の村上だが、それで調子付いたのかさらに捲し立てる。
「そ、そもそも御子柴テメーがオレに舐めた態度取ったからだろーが!」
村上拓篤という人間は、高校に入るまではすべてにおいて一位だったのだ。大して勉強せずとも学年で一位を取り、周りからはチヤホヤされて育った。しかし、高校入学を期に、華やかな人生は陰りを見せる。高校に入学してから今までのテストのレベルは今までのものとは比べ物にならないほどに難しく、クラスで一位どころか最下位を取り、担任からはこのままでは進級は難しいとまで言われた。こんなことになった原因、思い当たるのは一つだけ。入学早々に御子柴とかいう陰キャに馬鹿にされたせいだ。そのせいでカースト上位から転落し、徐々に取り巻き達は去っていき、今や二人だけになってクラスでは腫れ物扱い。
なんとかカーストトップを取り戻そうとして思いついたのが、三大美女の一人を彼女にすることだった。相手は3人のうち誰でもよかったが、声優の愛羽カンナを彼女にした方が箔が付くと思い、初めて自分から告白したのだ。学校祭で見せびらかすために学校祭前日に呼び出して。それなのに、この女はオレの誘いを断りやがったのだ。ふざけんなふざけんなふざけんな!
「村上はそうやってなんでも人のせいにして生きてきたんだな」
「んだよっ!その目はなんだよ!」
なんでこいつに哀れまれなきゃいけねぇんだ!
「俺がこの教室にいなくても、村上はいずれそうなってたよ」
なに、言ってんだ?俺がこうなったのは、御子柴があのときピアノを弾いたせいで。こいつがいなかったら、オレは今頃、いまごろ・・・
「もうやめてよ!」
呆然と俯いた村上の前に躍り出たのは、最後まで村上の傍に居続けた鹿野という女子生徒だった。以前智夏に告白のフリをしようと呼び出して、ポニーさんというあだ名で呼ばれただけで終わった彼女である。
「・・・鹿野」
「たくまは悪くない!噂を流したのも全部うちだから!うちが悪いの!」
「やめろ、もうやめてくれ、鹿野」
涙を流しながら村上を背に庇う鹿野。まるで傷ついたヒーローを庇う健気なヒロインだな。
~執筆中BGM紹介~
革命機ヴァルヴレイヴより「僕じゃない」歌手:angela様 作詞:atsuko様 作曲:atsuko様/KATSU様
連日投稿が3日で終わってしまってすみませんでしたぁぁあ!隔日投稿でこれからもよろしくお願いします!僕じゃない~僕じゃない~