見ないふり
ただいま3日連続投稿しております。あと、例の如く投稿時間また遅れました。
クラスメイトのほとんどに顔を知られたわけだが。以前田中に顔を初めて見られたときに「素顔晒したら女子に囲まれる」とかなんとか言われたが、むしろ逆だった。あんなに周りを囲んでいた女子たちが俺の顔を見た途端に一斉に去っていった。
「これもう眼鏡外してもいいのでは?」
「ダメだよ御子柴君」
眼鏡に手をかけたところで隣の席の松田さんが声をかけてきた。松田さんとは修学旅行のときに部屋でトランプで遊んだとき以来たまに話している。なにより席となりだし。
「普段受けと見せかけて眼鏡を取ると究極の攻めとかおいしすぎるから取っちゃダメだよ。ぐふ腐」
「うけ・・・?せめ・・・?」
意味は分からないけど、深く突っ込んだら負けな気がする。そして他の男子に助けを求めたらもっとダメな方向に転がり落ちていく気がする。
「まさかこんな身近に逸材がいたとは驚きだよ。なんでずっと隠してたの?」
一応チャイムは鳴ったのだが、先生不在の自習時間のため、みんなそれぞれ駄弁ったり勉強したりしている。のだが、松田さんがこの質問をした途端に俺の周囲がおしゃべりを止めてこっちを見る。
「そーだよ。なんで隠してたんだ?」
「でもこんな顔晒して毎日学校来てたら肉食女子に取り囲まれるよ?」
ひぇっ。いま、副音声でハイエナとか聞こえたのは気のせいでしょうか・・・?
「「「確かに」」」
「男子からはやっかまれそうだしな。御子柴優しいしなおさら」
「御子柴君はせっかくその顔なんだしもっと俺様になったら?」
オレサマ?会話がどんどん変な方向に・・・
「「跪け」とか言ってみて」
嬉々として松田さんが俺様なセリフを言わせようとしてくる。俺様なセリフの何が一体何が良いというんだ。けど、もし鳴海さんが俺様キャラが好きだったら・・・?
「ひ、跪け」
「「「・・・」」」
「沈黙やめて!」
やれと言われたからやったのに、なぜみんな沈黙するのか。メンタルがぽっきり折れそうだ。
「いやだってねぇ?今の御子柴君はえっとその、見た目陰キャじゃん?」
なるほど。陰キャに「跪け」と言われても・・・ってなんか、なんか理不尽!
「じゃあ眼鏡外してもっかいやる」
「ストーップ!!」
「わー!外さないで!」
「俺らが悪かったから!」
「そんなに拒絶されると傷つくんだけど」
そんなに俺の素顔は見たくないですか、そうですか。
「ごめんごめん。そうじゃなくって。心の準備ができてないの!」
「どういうこと?」
じとっと松田さんの顔を見るが、あたふたと目を逸らすばかり。仕方ないので前の席の男子に目を向けると、しどろもどろに答えが返ってきた。
「いきなり太陽見ると目が焼けるだろ?そんな感じだよ」
「そうそう、そんな感じ!」
「なおさらわけわからん」
このまま話を続ける、のもいいが、そろそろ正午だ。ちらりと例の人物を横目で見たら、思いっきり目が合ってしまった。しかもめっちゃ睨んでる。
「てかさ、顔もやばかったけど」
やばい顔とは。
「御子柴君て本当にあの『春彦』なの?」
今度こそクラス全員が口や手を止めて俺たちの会話に耳を傾けているのがわかった。
「うん。俺が『春彦』だよ」
と言った瞬間、例の人物が机を蹴飛ばして立ち上がった。辺りの女子生徒からは悲鳴が上がる。
「てめぇいい加減にしろや!」
予定通り罠にかかったな。真犯人・デッドベアーこと、2年A組村上拓篤が。
村上とは入学して一発目の音楽の授業で俺がピアノの伴奏を先生直々に頼まれたのが気に喰わず、かなり突っかかってきたのだ。そのときに大人げなく(同い年だが)、ショパンの『革命のエチュード』を弾いて見せて、ぎゃふんしたのだ。それ以降、クラスカースト上位から転落したらしく、その原因を作った俺にかなりイラついていた、らしい。正直村上など眼中にもなかったので気づきもしなかった。
「何回オレの神経逆撫ですりゃあ気が済むんだよ!あ゛ぁ?」
村上が通り道にあった机を蹴飛ばしながら最短ルートで俺に向かってくる。そんな村上をさらに煽るようにへらっと笑って話す。
「俺が村上に何かした?」
「てんめぇ!」
遂に村上が俺の前に辿り着き、俺の胸ぐらを掴んですごんできた。うぅ、唾かかる・・・と辟易していたときだった。
「や、やめて!」
さっきまで話していた松田さんが俺の胸ぐらを掴む村上の腕をどかそうと震えながら掴んでいる。それを見てぎょっとする。今の村上は誰が相手だろうと何をするかわからないのだ。
「松田さん!?俺のことはいいから離れて!」
「いや!!」
「女子はすっこんでろ!」
「もう見て見ぬふりは嫌なの!」
松田さんを剥がそうと村上が腕を振り回す。しかし松田さんはその腕を決して離そうとしない。
「ここでまた見ないふりをしたら!もう友達じゃいられなくなる!」
涙を滲ませながら、懸命にしがみつく松田さん。その言葉に他のクラスメイトも突き動かされ、鈴木が一回りも体格の大きい村上に突っ込んでいく。
「噂流れてるとき、俺なんもできなくて!今になって死ぬほど後悔してる!」
反対側から松田さんと仲が良く、修学旅行のとき一緒に部屋で遊んだ工藤さんが松田さんを支えるように飛び込んできた。
「友達を見捨てるのはもうごめんなんだっつーの!」
周りで見ていた生徒たちが次々に暴れる村上を抑えていく。井村と田中があらかじめ用意していたガムテープで村上の手を後ろ手に固定する。
「っざけんなよ!なんだよ外せよ!」
「外すと暴れるだろーが」
手際よくガムテープをぐるぐる巻いていく二人に他の生徒たちは驚いていた中、松田さんが俺の前まで来て、深く頭を下げた。
「御子柴君、ごめん。噂流れてるとき、私なんにもできなかった」
それに続いて工藤さんも頭を下げてくる。
「ほんとにごめん!」
「俺もごめんな」
「ごめんなさい」
ほとんどのクラスメイトが頭を下げてきて狼狽える。
「みんなとりあえず顔上げて」
「・・・許してくれるの?」
「許すも何も、俺はみんなに怒ってないし!」
これは真実だ。だって、このクラスの奴らは俺の前では絶対に噂のことは言わなかった。陰では言っていたのかもしれないが、少なくとも俺の前では言わないでいてくれた。この教室だけが、噂が聞こえない、心安らげる場所だったのだ。
「俺の方こそ、みんなに隠し事してたけど、前と変わらず話しかけてくれてすっごい嬉しかった」
サウンドクリエイターをしていると知って、教室では以前と同じようにはいられないと思っていたのだ。けど教室に入ってみれば、『春彦』のことよりなぜか素顔見られるし。『春彦』のことを興味ないのかと思えば、興味津々で聞いてくるし。わけわかんなかったけど、いつもと変わらないクラスメイト達でほんとに嬉しかった。
「だから、俺とこれからも友達でいてください」
「私もね!!」
「「「え???」」」
あちゃ~。予定が狂っていつ出てくるかと思っていたが、まさかこのタイミングでとは。
掃除用具入れの中からパーンと扉を開けて出てきたのは、三大美女の一人、愛羽カンナであった。
~執筆中BGM紹介~
アルスラーン戦記風塵乱舞より「翼」歌手:藍井エイル様 作詞:Uki様 作曲:Ryuhey Yamada様
読者様からのおススメ曲でした!
明日も投稿するかは、明日次第ということで何卒。。。