羞恥心で死ぬことはない
新年あけましておめでとうございます。2021年もよろしくお願いいたします。読者の皆様が健やかに一年を過ごせるよう、心から祈っております。
決戦当日。午前九時。
声優愛羽カンナの所属する事務所のホームぺージにて、とある手書きの文が公表された。
『応援してくださっている皆様へ
今日は私、愛羽カンナから皆様にお伝えしたいことがあり、このように書面にて失礼致します。今日流れているニュース”私がとある男子生徒に振られた”というのは、真実です。しかしながら、ネット上に流れているように、私が手酷い振られ方をされたという事実は一切ございません。彼は誠実に、真摯に私の気持ちと向き合い、そして振ってくれました。
皆様からはたくさんの応援のメッセージを頂いておりますが、ごくごく一部の方の間では、私が告白した相手を探し出し、事実に反することをネット上に流している人がいます。どうか、そのようなことはやめてください。自らの品位を貶める行為はなさらないでください。言葉には力があります。人を癒すことも、傷つけることもできる特別なものです。あなたのその言葉で、傷ついている人がいます。鋭利な言葉を使う前に、今一度考えてください。もし、あなたに対してその言葉が使われたら、もし、あなたの大切な人たちに使われたら、と。あなたの言葉が傷つけている人が大勢いることに、凶器を振り回していることに、どうか気づいてください。
最後になりましたが、皆様の支え、応援があってここまで歩んでくることができました。今後も頑張って参りますので、暖かい応援を頂けましたら大変に嬉しく思います。
愛羽カンナ』
同日同時刻。アニメーション製作会社ドリームボックスよりとある発表がなされた。
『関係各位の皆様
当社所属のサウンドクリエイターである「春彦」は本日をもって「御子柴智夏」に改名致しましたことをご報告させていただきます。』
主に話題になったのは、声優愛羽カンナが自筆で発表したものであった。しかし、愛羽カンナと御子柴智夏両名が通っている桜宮高校では、愛羽カンナが告白した相手が御子柴智夏であったことがほとんどの生徒に知られているため、朝のSH中だったにも関わらず、その情報は一気に校内を駆け巡った。そしてその当事者二人が学校に普段と変わらず登校していることにも、彼らの周りの人間が態度を変えずに彼らに接していることにも驚いていた。
「しばちゃんやりよるなぁ。自分たちが冷やかしの対象にしていたヤツが急に有名人だとわかって噂が一気に鎮静化したぞ」
「俺は有名人じゃないよ。それに、噂が聞こえなくなったのも、変なからかいを言われることもなくなったのも、全部カンナのおかげだよ」
ほんの少し前にカンナの事務所とドリボが発表した二つのこと。さすがは現代っ子たちといったところか、瞬く間にその情報は広がった。俺もカンナから「言いたいことを言う」とは聞いていたが、内容はさっきホームページを見て知ったのだ。
「カンナは強いね」
「我が強いだけよ」
「うわぁっ!」
心臓がバクバクと早鐘を打っている。
「何よ、声をかけただけじゃない」
「タイムリーな奴が急にきてビビったわ~」
「カンナちゃんおはよー!」
「おはよう、香織さん」
クラスメイトどころか廊下からも俺たちの様子を大勢の生徒が窺っている。
「カンナ、おはよ」
「おはよ、智夏」
ざわざわ。挨拶を交わしただけでざわつくってどうなんだ。
「カンナの言葉、見たよ」
「私も見たわ、本名でこれから活動するのね。田中君は知っていたの?」
「俺は一年のときから知ってたぞ」
「わ、私はさっき知ったんだけど・・・」
そう、この学校で俺が『春彦』として活動していたことを知っているのは田中とカンナのみ。そしてさっきの発表により全校生徒が知るところになったわけだが。
ずっと香織と目が合わないんだよなぁ・・・
「香織は、俺が『春彦』だったのは嫌だった?」
香織は『春彦』のファンだって前言ってたし、それに『春彦』は女かもとか言ってたし・・・やっぱり期待に沿えなかったかな。がっかりされてしまっただろうか。
「嫌じゃない!嫌じゃないの!」
「じゃあなんでこっち見てくれないの?」
香織と目を合わせようと視線の先に移動するも、すっすっと移動してしまう。
「そ、れは・・・だって!私智夏君に、『春彦』様本人にあれやこれやと語った記憶が・・・うぅっ!過去の私が私の首を絞めてくるっ!恥ずか死ねる・・・」
「大丈夫よ、羞恥心で死ぬことはないわ」
「マジレスやめてぇぇぇ」
なんだろう、聞いている方もいたたまれなくなってくる・・・
有名人がクラスメイトだと知って沸き立つ教室の片隅で、憎悪をさらに募らせる生徒がいた。
「なんであいつばっかり特別扱いされるの!?なんで誰も***を見てくれないの!」
~執筆中BGM紹介~
「春の海」作曲:宮城道雄様
新年おめでたいので連日投稿しようかな・・・(未定)
某銀魂のアニメタイトルに「未定は未定であって決定ではない」という名言があるとおり、未定であります。新年一発目から言い訳をかます作者にはジャーマンスープレックスっ!