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デッドベアー

あちこちで「良いお年を」と作者様たちがおっしゃっているなかではありますが、本作は今年は30日にも投稿予定であります。




コンピュータ室で準備運動のように手首をぐりぐりと回しながら、田中がジト目でヨシムーを見る。


「で、ヨシムーはここにずっといるわけ?」

「んな邪険にすんなよ。俺がいたほうが他の先生が来た時に対処しやすいだろ?」

「あら、ヨシムー先生、それは建前でしょう?本音は?」


陽菜乃先輩がにこやかに吉村先生を問い詰める。あの迫力満点の笑顔で迫られるとなんでもぺろっと吐いてしまいそうになるんだよな。


「本音は?」


先生も3秒ほど耐えたが、それ以上は耐えられなかったらしい。


「『スノードロップ』の雄姿を見たい」


勝利の笑顔が眩しい陽菜乃先輩と生徒に迫力負けして悔しそうな吉村先生。そういえば吉村先生と高校時代バンドを組んでいた香苗ちゃんが「あいつはヘタレなのよ」と黒い笑顔で言っていたのを思い出す。


「見せ物じゃねぇから、あんま見んなよ」


田中はどこか諦めたように俺たちに言うと、教壇のパソコンの前にドカッと座る。そしてその周りに集まる8人のギャラリーたち。


「・・・近いわっ!まだ電源付けただけじゃろがいっ!」

「だって~」

「あの『スノードロップ』だよ?」

「間近で見たいじゃ~ん」

「「じゃ~ん」とかやめろ、気色わりぃ!お前ら近すぎて鼻息当たってんだよ、もっと散れぃ!」


吠えるように文句を言う田中。ちなみに「じゃ~ん」と言ったのは吉村先生である。渋々パソコンに近づけていた顔を各々離すが、それでも近いことに変わりはない。


「・・・とりあえず、裏掲示板を表示するけど、その、大丈夫か?しばちゃん」


心配げに俺の様子を窺う田中。きっとその裏掲示板には心無いことが書き込まれているのだろう。


「どこの誰が書いたかわからない中身のない言葉より、俺はここに集まってくれた人たちの言葉を、大切な人たちの言葉を信じるよ。心配してくれてありがとな、田中」

「ほんっと、よく恥ずかしげもなく言えるよな。聞いてるこっちが恥ずかしくなってきたんだけど・・・これが例の裏掲示板」


画面をスクロールすると、匿名の書き込みが見えた。


『御子柴ってだれだよ』

『昼休みに愛羽カンナとよく昼食べてるの見た』

『おいらこの前愛羽カンナと御子柴が二人で街を歩いてたの見たぞよ』

『ほんとに振られたのか?もしかしてこの二人付き合ってるんじゃね?』

『ないだろ(笑)人気声優と陰キャじゃ釣り合わない』


わぉ、言われ放題だな。だが、思ったよりも酷いものじゃなかった。ふと視線を感じてパソコンから目を上げると、皆心配げに俺を見ていた。・・・本当に、俺の周りには心配性が多い。こうして気にかけてくれる人がいるから、俺は傷つくより先に喜びの方が出てきてしまう。これを言うと「危機感がない」とか言われそうなので、決して口には出さないが。


しかし、何も感じていないわけではない。カンナを悪意を持って傷つけようとしている人物には腸が煮えくり返るほどの怒りを覚えている。


「で、噂を一番初めにこの裏掲示板で流したやつが、こいつ」

「えーっと?この『特上マグロ』って人?」

「そう」


書き込みをした人はきっと英さんから噂を聞いた人だろう。それにしても特上マグロ・・・?人、だよな?人外と対峙しようとしているわけじゃないよな?


「流した噂の内容は、さっきの一年生が流した「とある男子生徒がカンナ様に振られたらしい」という内容」

「ここまではさっき聞いた通りだね」


裏掲示板の反応も「またかー」や「勇者増えたなー」などで、カンナに対する悪意は感じられない。


「問題はその30分後に書き込まれたやつ」


画面を少し上にスクロールすると、例の噂の発信源に辿り着いた。


『愛羽カンナがとある男子生徒に振られたらしい』


名前は『デッドベアー』。悪趣味な名前である。


「この『デッドベアー』だが、書き込みはこれだけじゃない。ネットニュースのURLを流したのもこいつだし、今日の「愛羽カンナが告白したMは2年A組の御子柴智夏らしい」という情報を流したのもこいつだ」


ほんっとに悪趣味極まりないやつ。


「それで?私の可愛い後輩君と後輩ちゃんを貶めるような真似してくれやがったのはどこの命知らずなのかしら?」


先ほどまでの笑顔が嘘のように無表情な陽菜乃先輩が田中に問いかける。その気迫に押されるようにして田中が画面に視線を戻す。キーボードを目にも止まらぬ速さで打ち込んでいる姿は、どこかピアノを演奏する姿にも似ていて。軽快に響くキーボードのタップ音は聞いていてとても心地良いものだった。


「・・・出た」


田中の言葉に一同が食い入るように画面を見る。が、素人目にはパッと見てわかるような情報は何もなかった。


「こんな暗号みたいなやつよくわかるな」

「暗号みたいなやつ、じゃなくて暗号な。これを鍵を使ってちょちょいとすると、目的のものが出る」

「おー・・・お?」


日本語らしきものが出てきたが、これは・・・?ギャラリーが理解していないのを察したのか、田中が説明してくれる。


「この書き込みがされたスマホの情報。で、ご丁寧に『デッドベアー』はスマホのIDを本名で登録してくれてたみたいだな」


田中が指さしたところを見ると、そこには見たことのある名前が載っていた。


「こいつは・・・!」





~執筆中BGM紹介~

某CMより「たらこ・たらこ・たらこ」歌手:キグルミ様 作詞:加藤良一様 作曲:上野耕路様

読者様からの用法用量注意なおススメ曲でした!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「匿名だから」と好き勝手に書き込んで人を傷付ける連中、本当に頭にきますね。相応かそれ以上の天誅を下してやって下さい! くっ、内容的に通報するチャンスがない・・・これではポリカーボネイト製の…
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