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お前だけだよ

一週間後には来年!




「天才ハッカー『スノードロップ』ここに見参!ってな」


屋上に響き渡った田中の声に各々が反応を見せる。


「『スノードロップ』ってどこかで聞いたような・・・」

「天才ハッカー『スノードロップ』ってあの!?」

「ほほう。まさかこんなところで有名人に会うとはね」

「うそだろっ!?田中があの『スノードロップ』だと!?」

「後でサインを頂いてもよろしいでしょうか?」


数人は『スノードロップ』と聞いてもピンと来ていないようだが、ほとんどがその名を聞いて驚き、高揚している。やっぱり田中ってすごいんだなぁ。


「みんな落ち着けって。別に俺有名人でもないし。てか山崎先輩、俺サインとかないんで」

「それは残念です」


どこからか出してきた色紙を残念そうに持っているザキさん。そんなにファンだったのか。ザキさんの意外な一面に驚いていると、田中が苦笑いをしながら聞いてくる。


「やっぱりしばちゃんは気づいてたんだな。いつ気が付いたんだ?俺が『スノードロップ』だって」

「闇オークションのとき、こっそり手伝ってくれたろ?そのときに。っていうかその前からちょくちょく助けてくれてたよね?それで気づいたんだよ」

「そっか。闇オークションのときは踏み込みすぎたとは思ったんだよな」


頬をポリポリと掻きながら田中が言ったが、後悔はしていないように見える。それに、あのとき田中が情報を提供していなければ、事態の収拾にもっと時間がかかっていたはずだ。


「それでも、あのときの田中の行動のおかげで、兄の絵を取り返せたし、冬瑚と一緒に過ごすこともできてる。だから改めて、」


ずっと伝えたかったのだ。田中に、そして『スノードロップ』に。


「ありがとう。俺たちに力を貸してくれて。今までずっと助けてくれて、本当にありがとう。あとこれから先もお世話になります」


世話にならない、とは言えないのがなんとも申し訳ないのだが。『スノードロップ』だと名乗ってくれたから、礼を言うことができた。きっと昨日までの田中に礼を言っても「なんのことだがさっぱりだ」とかなんとかいってはぐらかされただろうから。


「おう。任せろ、親友」


その短い返事はとても田中らしいもので、思わず笑ってしまうのだった。







その後、英さんは教室に戻り、俺、田中、香織、鈴木、井村、陽菜乃先輩、ザキさん、新藤さんの計8人の大所帯で屋上からコンピュータ室に移動する。授業開始のベルはとっくに鳴っており、俺たち8人はもれなくサボりである。


コンピュータ室の扉に手をかけた田中だったが、それはピクリとも動かなかった。


「鍵がかかってやがる」

「この中にピッキング(鍵開け)の技術を持つ方はいらっしゃいませんかー?」


鈴木がふざけた口調で残る7人に問いかける。そんな都合よくいるわけ、


「持っております」


・・・いた。これまたどこからか出してきた細い金具を指の間に挟んで格好良くポーズを決めているザキさんを見る。従者の仕事にピッキング技術は果たして必要なのだろうか・・・


「お嬢様がいつかどこかに閉じ込められたときにいち早くお助けするため、弟子入りしてピッキング技術を習得しました」

「面白そうだから横で見て私も覚えちゃった」


楽しそうに笑う陽菜乃先輩。え、お嬢様本人がピッキング技術持ってるの?囚われのお嬢様が自力で脱出できちゃうの?なにそれかっこいい。


「うちのお嬢様がこの通りたくましすぎるおかげで、この技術は日の目を見ることはないと思っていましたが。いやはや、人生何が起きるかわかりませんね」


うきうきとしながらザキさんが金具を鍵穴に刺そうとしたとき、後ろから声をかけられた。


「な~にやってんだそんなとこで、揃いも揃って」

「あ、ヨシムーじゃん」

「「あ、ヨシムーじゃん」じゃねぇよ。なに堂々と授業サボってんだ」


背後から現れたのは俺たち2年A組担任の吉村先生だった。


「で?こりゃ一体どういう集まりだ?俺のクラスのやつらが5人に、元生徒会長と現生徒会長、あとお前誰だ」

「山崎信と申します」

「いや誰だよ」


先生が聞いたのにその返事はあんまりだと思うのだが。あぁほら、先生がそんなこと言うからザキさんがしょぼくれてるよ。


「サボるならバレないようにサボれよなー」


といいながらズボンのポケットを漁る先生。自由人か。


「ヨシムー見逃してくれよー」

「あ?俺は別に咎めたりしねぇよ。俺も高校生の頃はよく授業サボってたしな」

「へー意外でもない」

「そこは意外ですねって言っとけよ」


小言を挟みながら、ポケットからおもむろに手を出した。その手には鍵が握られていた。


「吉村先生、その鍵ってもしかして」

「御子柴、お前だけだよきちんと吉村先生って呼んでくれるのは」

「ヨシムーその鍵ここのやつ?」

「持ってるなら開けてくれー」

「ピッキング技術をお披露目できると思ったのに・・・」

「お前らもっとありがたがれよ」


ぶつぶつと文句を言いながらコンピュータ室の鍵を開ける吉村先生。


「なぁヨシムー。なんで開けてくれたんだ?」


田中が訝しげな表情で吉村先生に問いかける。そこは俺もずっと気になっていたことだった。


「俺の可愛い教え子の名前がネットに晒されてるってんでちょっと確かめにな」

「職員室ですりゃいいじゃん」


一瞬納得しかけたが、言われてみれば確かに。教員なら職員室で調べるのが普通だよな?田中の追及に「降参だ」と両手を挙げながら白状する吉村先生。


「あー・・・あの屋上な、俺の数ある休憩スポットの一つなんだよ」

「ってことは昼休みの会話聞いてたのかよ!?」

「おう、全部聞いてたぞ『スノードロップ』」

「っ~、つまり、ヨシムーは協力者ってことでいいんだな!?」

「ま、そういうことだな」


顔を赤くしながら叫ぶように言質をとる田中なのであった。


こうして8人+教師1人の9人でコンピュータ室に入るのだった。




~執筆中BGM紹介~

魔法少女特殊戦あすかより「KODO」歌手:nonoc様 作詞:川田まみ様 作曲:中沢伴行様

読者様からのおススメ曲でした!

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― 新着の感想 ―
[一言] 有名人ならもう一人ここに居ますよ~とばらしたらどんな反応が返るだろうか。 不法侵入で通報出来る!と思いきや、先生と共に入るとは。 はっ、孔明の策かっ!
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