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変容

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メリークリスマス!




屋上に集まった俺、田中、香織、鈴木、井村、元生徒会長の陽菜乃先輩、従者のザキさん、新生徒会長兼カンナ親衛隊1番隊隊長の新藤友里恵の8人で話を進めていく。このメンバーは今学校中、いやSNS上でかなり拡散されてしまった噂に対処するために集まってくれた人たちである。


「現状報告は以上です」


ザキさんがこれまでの状況を報告し終えると、今度は新藤さんが手を挙げる。


「我から御子柴殿に伝えねばならぬことがある」


おぉ武士みたいな話し方だ。黒髪のポニーテールなのも相まって帯剣でもしていたら(さむらい)に見えそうだ。


「なんでしょうか?」


新藤さんとは同い年なので敬語じゃなくてもいいのだが、どうしても見た目から敬語になってしまう。


「正確には我ではなく、親衛隊一番隊隊員の(はなぶさ)からだ」


入ってこい、と屋上の入り口に向かって新藤さんが声をかけると、躊躇いがちにおずおずと扉が開かれる。そこから出てきたのは細身の女子生徒だった。8人の視線を一身に受けて、体が震えている。うん、気持ちはわかる。このメンツすごいもんな。三大美女が二人に新生徒会長、従者にその他男子生徒数名。


「いっ一番隊隊員の1年F組、英で、です。みこ、御子柴先輩に、お、お話があって」


泣きそうになりながらも懸命に言葉を紡ぐ後輩に少し同情しながら声をかける。


「うん。わかったから、ゆっくりでいいよ」

「うっ」

「「「う?」」」

「うぇぇぇぇええええんっ!」


声を掛けたら後輩女子生徒に号泣された件について。


ええ!?なんで!?なんか俺悪いこと言ったか?田中たちからの「あー女の子泣かせたー」という視線が痛い。


「ごめんにゃさいぃぃ・・・!わた、私があんな噂を流さなければ。こ、こんなことになるなんて。しかも先輩は優しいしっごめんなさいいいい!」


えっと、つまり


「あの噂を流したのは、英さんってこと?」

「はい」


それを聞いた新藤さんと俺以外の生徒たちからの鋭利な視線が英さんを刺す。真っ青を通り越して顔色が真っ白になった英さんに質問が集中する。


「なんであんな噂流してしまったの?」

「あの、」

「お前親衛隊隊員なのになんで主のカンナを傷つけるような噂を流したんだ!」

「そ、それは、」

「なんで今まで黙ってたんだ」


先輩たちから弾劾されて震える姿をどうしても見ていられなくてみんなと英さんの間に割って入る。


「みんな待ってくれ」

「なんで御子柴がそいつを庇うんだ」

「お人好しも大概にしろよ」


俺たちのために怒ってくれているのはわかる。わかるのだが、どうにもおかしい気がするのだ。


「みんな、とりあえず英さんの話を聞こう」


質問の最中にも英さんが何かを言おうとしていたのは伝わっていたのか、それとも俺の顔を立ててくれたのか、しぶしぶといった様子ではあるがみんな話を聞いてくれるみたいだ。


「さぁ、英さん。話してくれる?」

「っはい」


涙を袖口で拭いながら、毅然と顔を上げて話し始めた。


「私、放課後校舎の外にいたら、たまたま空き教室に入る御子柴先輩とカンナ様を見かけて」


なるほど外から見られていたのか。確かにカーテン開きっぱなしだったのを思い出す。


「それで、窓の傍に張り付いて、中の様子を窺ってたんです」

「うん?」


え、疑問に思ったの俺だけ?そうですか、俺だけですか。


「でも、会話の内容は聞き取れなくて。親衛隊はこういうときどうすればいいのかまだわからなかったので隊長に電話で聞こうとしたらカンナ様が教室から出たんです。それで、こっそり中の様子を除いたら、ぬぼーっと御子柴先輩が立ってたので」


擬音からほとばしる俺への敵意。親衛隊から良く思われていないのはわかってたけどね。


「あ、これ御子柴先輩がカンナ様に振られたんだな、と」


なるほどなるほど。・・・え?


「過去にカンナ様に振られた人たちの中には、振られた後もしつこく迫った男がいたのです。なので今回もそうならないようにと思って、「とある男子生徒がカンナ様に振られたらしい」と噂を流しました。本当にごめんなさい!」


話を聞いていた他のメンバーもその話のおかしさに気付き、戸惑った様子だ。


「つまり英は「とある男子生徒がカンナ様に振られたらしい」という噂を流したんだな?」

「はい。まさかこんなことになるなんて、思ってもみなくて。本当にすみませんでした」


田中の言葉に是と頷く英さん。噂に尾びれ背びれが付くのはよくあることだが、この変わりようはあまりにもおかしい。


「英さんが噂を流してから噂の内容が変わったのはいつ頃?」

「それが・・・翌日には既に「カンナ様がとある男子生徒に振られたらしい」に変わっていて。しかもかなり広まってるみたいでした」


翌日に?それはいくらなんでも早すぎないか。


英さんは自分の流した噂が変容してこんな事態になったと思っているみたいだが、そんなことあり得るだろうか。そもそも英さんが流した「とある男子生徒がカンナ様に振られたらしい」という噂はこの学校ではよく流れるものだ。これではまるで・・・


「まるでカンナちゃんを貶めるために噂を流したみたい、よね?」


ふふふっと笑いながら、その目はどこまでも冷え切っており、見る者すべてを氷にしてしまいそうだった。


「陽菜乃先輩もそう思いますか?」

「えぇ。だって明らかにおかしいもの。噂がいつの間にか変わっていたのではなくて、悪意ある誰かによって変えられた可能性が高い」

「高いっていうか、絶対そうだろ」

「しかも噂を流した翌日には違う噂が広まってたっていうなら、SNS上で噂が流されたんだろうな」


これは思っていたよりも複雑で、闇が深いもののようだ。しかも皮肉なことにその噂の内容は当たっている。


「それじゃあ、私がカンナ様を傷つけたわけじゃないって、こと?」


今までの流れを聞いていた英さんがほっとしたように呟いたが、それを聞いて香織が形の整った眉を吊り上げる。


「元は(はなぶさ)さん、あなたの流した噂がカンナを傷つけるために利用されたの。それに、カンナを守るためとはいえ、智夏君を傷つけていい理由にはならないよ。自分の言葉に、行動に、もっと責任を持ちなさい」


香織の言葉を聞いて英さんがはっとする。


「それに、智夏君が傷ついたら、カンナはもっと傷つくよ」


その言葉に止まっていた涙がまたあふれ出した。そして俺の正面にやってきて、深く深く頭を下げる。


「本当に、ごめんなさい・・・!私、親衛隊も辞めます。もう二度と、先輩たちの前には現れません・・・」


ぽたりぽたりと屋上の地面に涙の跡が零れていく。


「うん、もういいよ。俺のことはいいから、カンナに謝ってあげて。あと、カンナは自分のものは大事にする人だから、君がいなくなってしまったら悲しむよ」

「嘘です。カンナ様が私のことで悲しむなんてありえません。そもそもこんな下っ端の存在すら知らないでしょうから」


その言葉を聞いた親衛隊一番隊隊長の新藤さんが下っ端隊員の英さんに声をかける。


「いいや、それは違うぞ英よ。カンナ様は我ら親衛隊のことは全て把握しておられる。もちろん顔も名前も憶えておられる。我らがカンナ様を大切に思うように、カンナ様もまた、我ら親衛隊を大切にしてくださっているのだ。そのことを努々(ゆめゆめ)忘れるな」


そう、カンナは自分の懐にあるものは大切にする人だ。だから、こんなにも慕われるのだ。英さんをこんな風に泣かせる原因を作った真犯人をカンナは絶対に許さないだろう。


「はい・・・!一生ついていきます!!」


忠実な犬がここにも爆誕したところで、田中が覚悟を決めたように口を開く。


「さっき、SNS上で噂を流したって言ってたことが本当なら、その真犯人わかるかもしれない」

「なっ、田中まさか」

「しばちゃんのためってのもあるけど、これは俺のためだぜ。いけすかねぇ真犯人とやらを引きずり出したくてうずうずしてんだよ」

「本当にいいのか?」


今までずっと正体を隠していたのに。


「いいんだよ。天才ハッカー『スノードロップ』ここに見参!ってな」


全員の視線を浴びてもなお、堂々と胸を張って笑う親友は一瞬うっかり惚れそうになるレベルで輝いていた。



~執筆中BGM紹介~

ヴァイオレットエヴァーガーデンより「Sincerely」歌手:TRUE様 作詞:唐沢美帆様 作曲:堀江晶太様

読者様からのおススメ曲でした!

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― 新着の感想 ―
[一言] 親衛隊の諸君、プライバシーというものをまるっきり無視していないかい?芸能人だからプライバシーなどあり得ないとでもいうのでしょうかね。 ハッカー・・・惜しい事にグレーだ。クラッカーならば迷わ…
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