小悪魔コンビ
ブクマ登録、評価、感想ありがとうございます!!
子供が好きすぎる変態、小鳥遊ここなが手を繋ぎながら泣きじゃくる冬瑚と津麦を見つける30分ほど前のこと。
「とーこ!今日は何して遊ぶ?」
「昨日のイタズラは面白かったもんね!今日は何しようか?」
冬瑚と津麦が和やかに話をしながら小学校の校門を出る。その周りでは周囲の者がこそこそと話をしている。
「なぁ昨日のアレ知ってるか?」
「2年生の小悪魔コンビが4年生のいじめをしてた男子を成敗したってやつ?冗談だろ?」
「ほんとだよ!俺その場にいたんだよ。4年生の3人が1人にランドセル持たせてたんだけどさ、それを見た小悪魔コンビがよ・・・」
『4年生で体も大きいのにランドセル一つ持てないなんて・・・はっ!まさかどこか怪我してるんじゃないですか!?どうしよう津麦ちゃん!?』
大きな青色の瞳をうるうるさせ、顔色を悪くしながら4年生3人組を心配する金髪の人形のような見た目の女の子。まるで大けがをしている人を前にしたようなその姿にいじめっ子たちは唖然としている。
『は?何言って、』
全てを言い切る前にもう一人、猫のようにつり目の印象がきついが可愛らしい顔立ちの少女がスマホを片手に焦った様子で現れた。
『救急車呼ばなきゃ!ぽちぽち・・・ぷるるる・・・あ、もしもし救急車お願いしま、』
救急車を呼ばれそうになっている、その事実にようやく気付いたいじめっ子たちが急いで止めに入る。
『待って!俺たち怪我なんてしてないから!』
『そーだぞ!勝手なことすんなよ!』
『勘違いしてんじゃねーよ!ブス!!』
4年生の体格の大きい男子3人が小柄な年下の女の子二人を責め立てている。その異様な風景に周囲の大人たちや子供たちが振り向く。
その場にいた全員の注意が集まった瞬間・・・
『そ、そんな・・・冬瑚は、あなたたちが怪我してるって思って、心配しただけなのに・・・うぅっ』
小さな肩を震わせながら顔を手で覆う少女。
『冬瑚は悪くないよ』
肩を震わせる少女にそっと寄り添いながら慰めるもう一人の少女。通行人がどちらに味方に付くのかは、火を見るより明らかだった。
その他大勢を味方につけた小悪魔たちは見事いじめっ子をこらしめ、ランドセルを持たされていた男の子に感謝されたのでした・・・
「っていうことが本当にあったんだよ」
「まさか、さっき言ってたイタズラって、そういうこと?」
「だろうな」
「ひぇ~さすが小悪魔コンビ」
年齢なんてお構いなしに学校のヒエラルキーの頂点に徐々に近づきつつある彼女らを畏怖を込めて俺たちは『小悪魔コンビ』と呼んでいるのだった。
一方その頃の小悪魔コンビはというと、歩道橋の階段に座って通せんぼしていた5年生たちを排除し、歩道橋の上からの景色を満喫していた。
「ねぇとーこ。さっきの5年生たち、わたしらのこと『小悪魔コンビ』って呼んでたね」
「ねー。もっと可愛い名前が良いよね!」
冬瑚と津麦の連携で5年生たちを蹴散らしているときに、「小悪魔コンビが出たぞー!!」と叫ばれたのだ。
「魔女っ子コンビ」
「TT姉妹」
「てぃーてぃー?」
「とうこのTとつむぎのTでTT姉妹!」
いいねそれ!とキャッキャしながら戯れる少女たち。一人はつり目で少しきつい印象を受けるが、緩くウェーブがかった柔らかそうな髪と小柄な体格も相まって子猫のような印象を受ける。もう一人は金髪青目の人形のように美しい少女。声も透き通るように綺麗だ。そんな二人に迫る男の影があった。
「はぁっはぁっ、ねぇちょっと道を聞きたいんだけど、ぐひっ」
後ろから急に話しかけられて、二人揃って振り返り顔をしかめた。見た目は30代くらいの小太りの男。11月だというのに汗をかいていて、赤色のシャツに汗のシミができていた。なにより男からはアルコールの匂いが立ち上っており、思わず顔を背けるほどに臭かった。
「行こ、冬瑚」
「うん」
知らない人に話しかけられても関わっちゃだめだよ、と兄二人から耳にタコができるほど言われ続けていた冬瑚。そして責任感の強い津麦が冬瑚の手を引いてその場をすぐに離れようとした。
「なんでオデのことを無視するんだよぉぉおお!生意気な目ぇしやがって!!躾てやるぅっ」
男の大きな肉が詰まった手が迫ってきて、咄嗟に冬瑚が津麦の前に飛び出してその身を盾にする。
「とーこ!!」
冬瑚が恐怖に目をつぶった瞬間、
「ぶぎゃういぎゃああああ!!!」
という耳障りな悲鳴がすぐそばで聞こえてきた。ゆっくりと冬瑚が目を開けると、そこには股を押さえながら悶絶する男と、自分より少し背が高いくらいの女の人が男をゴミを見るような目で見ながら立っていた。
「イエスロリ・ノータッチは人類の常識だろうが。なに人類の掟破ってんだよ。あぁそっか。あんた人類じゃなくてゴミクズだからわかんなかったのか」
と言った後に冷や汗を滝のように流す男の髪をぐいっと持ち上げ頭を上げさせ、吠えた。
「幼女怖がらせてんじゃねーよ!!」
自分が言われたわけではないと分かっているのに思わずびくっとなってしまうほどに目の前の女の人の怒りは凄まじかった。
女の人は男の髪を放すと、カバンから取り出したアルコール除菌シートで手を入念に拭いたあと、私たちの方に向き直るとこう言った。
「美幼女×2が私を上目遣いで見とる・・・尊い・・・」
その言葉を聞いた瞬間に冬瑚と津麦は顔を見合わせ、頷くと、手を繋いで一目散に駆けだした。
「待って~」
歩道橋の階段を一気に駆け下り、がむしゃらに走る。すると背後から例の女の人の声が聞こえてきた。
「コレ、落としたよー!!」
あれ?変な人だと思って逃げたけど、落とし物拾ってくれたならいい人?と思って一度立ち止まって後ろを振り返る。そこには津麦が落としたであろうリコーダーを持って鼻血を出しながら走ってくる女の人の姿があった。
「「へ、変態だー!!」」
必死に逃げて逃げて、角を曲がってすぐに近くの公園に入る。そこで津麦と二人、息をひそめながら草むらの陰に潜む。そういえば前にもこんなことあったような・・・あの時は秋兄が一緒にいて守ってくれたんだっけ、と思い出していたら、ぽろぽろと涙がこぼれてきた。それを見た津麦があわあわと冬瑚に謝る。
「ごめんとーこ!津麦が5年生倒したいって言わなきゃこんなことにならなかったのに。ごめん!」
「ちが、津麦ちゃんのせいじゃないよ!」
「でも、とーこ泣いてるじゃん・・・それにさっきだって、津麦を守ろうとしてくれた・・・津麦、何もできなくて、ごめん、ごめんねぇええええ!!」
冬瑚の涙につられるようにして涙を流す津麦。周りが見えなくなるほど号泣しているが、それでも互いに手は握ったままだった。その姿をぱしゃりと写真に撮られ、大変誤解を生みそうなメッセージ付きで兄たちに送られているなど露知らず。
「うわぁ!変態女に追いつかれた!逃げろ、冬瑚!」
「いやだ!津麦ちゃんと一緒に戦う!」
「幼女同士の友情、眩ちい・・・」
決死の覚悟で変態に挑もうとしていたとき、一瞬の浮遊感の後、突然視界が高くなった。
「きゃあ!」
「おわぁ!・・・ってお兄ちゃん!?」
突然視界が高くなったのはどうやら津麦ちゃんのお兄ちゃんが抱っこしてくれたかららしい。急いで来たのだろう、息を切らし少し汗を流しながら、それでも左手に津麦ちゃん、右手に冬瑚を抱いて変態と対峙していた。
「おい、小鳥遊ぃ・・・!これは一体どういうことだ!?」
ぎゅううっと痛いほどに抱きしめられる。その手からは「絶対に守ってやる」という強い意志が感じられ、とても安心できた。そして安心すると涙は止まらなくなるもので・・・
「「うわぁぁああんんん!!」」
二人揃って泣き出した。夏兄よりも少し大きくてごつごつした大きな手。火が付いたように泣きだした二人を地面に下ろし、よしよしと不器用に頭を撫でてくれる手に、心臓が大きく弾んだのだった。
~執筆中BGM紹介~
「英雄」歌手:doa様 作詞・作曲:Akihito Tokunaga様
読者様からのおススメの曲でした!