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ナンバーワンよりオンリーワン

総合評価が8800ptを超えました!ありがとうございます!




2年間の想いに、ようやく決着をつける。


「だからね、智夏。私を振って」


智夏が私の言葉に息を飲んだ。そりゃ、告白した次の瞬間に「振って」なんていう女、後にも先にも私だけだろう。ナンバーワンよりオンリーワン、なんて思えるほど諦めがついたわけでもない。できることなら、智夏のナンバーワンにもオンリーワンにもなりたかった。でも、智夏が変わった姿を見て気付いちゃったんだ。悔しいけど、私じゃダメなんだって。


「カンナ」


大好きな声が私の名を呼ぶ。


「俺のこと好きになってくれてありがとう。初めて告白されたから素直に嬉しい」


そっか、初めてか。私は初めての女になれたわけだ。ほんのちょっぴり優越感。


夕日に照らされてオレンジ色だった空き教室に、だんだんと夜の帳が下りていく。智夏がゆっくりと、慎重に言葉を選ぶように、口を開いた。


「好きな人がいるんだ。その人と、これからも一緒に歩いていきたいって思ってる」


うん、知ってるよ。好きな人ができたことくらい。私を差し置いて好きになる人だもん、きっと素敵な人に決まってる。


「カンナと同じ気持ちを、俺は返せない」








「うん、知ってる。振ってくれてありがと」


上手く笑えてるかな?いつか智夏がこの日を思い出したときに、この思い出が苦しいものにならないように。いつか「こんなこともあったねー」って友人同士、笑いながらお酒を酌み交わせるように。だから、笑え。


「じゃあね、智夏」


さようなら、私の初恋。






空き教室から出た後、ふらふらと当てもなく校舎内を歩く。グラウンドから聞こえる運動部の掛け声。後者に響く吹奏楽部の音色。うるさいくらいに人の気配がするのに誰にも会うことなく、気づけば告白スポットで有名な中庭に来ていた。


「なーんで傷心中に告白スポットなんかに来ちゃったんだろ」


夕日は完全に沈み、段々とあたりは暗くなってきている。頬を撫でる風も冷たいものになっているが、今はこの冷たさが心地いい。


近くのベンチにすとんと腰を落とす。なんか、力抜けちゃった。


前の自分だったら、振られても何度でもアタックしてやる!友情より恋愛を取ってやる!って息巻いていたのに。


「っん、ひぐっ」


ぽろぽろ、なんて可愛いものじゃない。滝のように涙が溢れてくる。「振って」って言ったのは私だけど、いざ振られてみると辛い。悲しい。悔しい。2年分の想いが溢れて止まらない。


ガサガサッべちゃ


「!」


誰もいないと思っていた中庭に突然人の気配が降ってわいた。…いやほんとに。頭上の木から降ってきたのだ。


「お、お邪魔しました~」


木から落ちた男が、いそいそとこの場を去ろうとしたのでがしっとその腕を掴む。


「あなた、お名前は?」

「いやいや、名乗るほどの名なんて」

「名前は?」

「鈴木、博也(ひろや)です…」


そういえば智夏のクラスに鈴木、という生徒がいたようないなかったような。


「そう。鈴木君、あなたここで何をしていたの?」

「えと、それは」

「まさか、覗き?」

「違うけど!?真っ先に疑うのがそれ!?普通「木に登って降りられなくなった子猫を助けてたの?」とか「夕日が沈む風景をセンチメンタルに眺めていたの?」とかあるでしょうが!!」


なんだこいつ。


「そんな「うわ、何こいつめんどくせー」みたいな顔しないで!!」

「ゼンゼン、シテナイワヨ」

「一ミリも感情が入ってないんですけど。機械かなんかなの?」


なんでこんなほぼ初対面な人と益体(やくたい)のない会話してるのだろう。なんか冷静になったらまた涙が。


「うぇええ!?ごめん!機械みたいって言ったの傷ついた!?俺バカだからそういうのよくわからなくて!あの、その、とりあえずハンカチ使う?」

「~っ使う!!」


涙をごしごし拭って、ついでに鼻水もかむ。


「あ、そのハンカチあげるよ」


あまりにも冷徹な反応に思わず気持ちが爆発してしまう。


「なによー!!私だって好きで鼻水垂れ流してるわけじゃないのよ!傷心中なんだからちょっとは優しくしてくれても罰は当たらないじゃない!!~っ好きだったの!大好きだったの!大好きだから振られたの!」


自分でも滅茶苦茶なことを言っているのはわかる。それでも言葉が身体のうちからどんどん飛び出してくるのだ。


「私が一番最初に好きになったのに!!」


過ごした時間の長さは関係ない。それは数々のアニメの幼馴染ヒロインが体当たりで証明してきたこと。


「でも、もう疲れた………。だって全然振り向いてくれないんだもん。押せ押せで振り向かないなら引いてみるかって、ほんの思い付きだったのに。その間に智夏は私じゃない誰かに恋してた」


「あーもー!くーやーしーいー!」


私があれやこれや叫んでも、鈴木はただ静かに聞いているだけだった。一通り叫び終えた後、ぽつりと、


愛羽(あいば)さんて、ほんとはそういうキャラなんだな」


ってのほほんと言い放った。


「カンナでいいわよ。私も鈴木って呼ぶから」

「前半はともかく後半は俺のセリフじゃね?」

「気にしないで」

「いや、それも俺のセリフ…」


鈴木が何か言っているが気にしないことにする。


「「振って」って言ったのは私からだけど、()()()()を言ったらぶん殴ってやろうと思ってたの」

「えぇ、めちゃ理不尽」

「でも、言わなかった」


()()()って言わなかった。ありがとうって言ってくれた。…こんなにも素敵な人と今後巡り合えるだろうか。


「好きになれて、良かった…」


こんなにも素敵な恋を、またすることはできるだろうか。


「『せつなる恋の心は尊きこと神のごとし』だな」

「樋口一葉さんの言葉ね」


鈴木の目から見ると、私の恋は尊いものに見えたらしい。それがなんというか、嬉しかった。私の2年間の片思いが、無駄じゃなかったって思えた。


「ありがとう」

「どーいたしまして」


居心地の良い沈黙の時間が中庭に流れる。


「ところでカンナさんや」

「なんだい鈴木」

「俺のこと初対面の人って思ってるだろ」

「違った?」


心外な、という顔をしながらこちらを見てくる鈴木。どっかでお会いしましたっけね?


「修学旅行のときカンナさん俺たちの部屋に来ましたよね?一緒にトランプしましたよね?」

「あーんーうー?」

「覚えてないんかーい」





~執筆中BGM紹介~

フルーツバスケットより「For フルーツバスケット」歌手・作詞・作曲:岡崎律子様


鈴木は1対1で女子と話すときは多少まともになります。多数の女子を前にすると阿保になります。残念。

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