そういうとこ
これから寒さがかなり本気を出してくると思われるので、お体にはお気をつけて。
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4人で抱きしめあった後、互いに過去のことをぽつりぽつりと語りだした。冬瑚はもちろん、母も俺が無痛症であること、その経緯については何も知らず、父から受けていた理不尽を聞いて冬瑚は憤り、母は更に自分を責め、謝り続けた。母にこれほど謝られてわかったのは、俺は別に謝罪を求めていないということだった。
「もう謝らなくていいよ。・・・いいんだ、もう」
母さんが家を出たことをきっかけに、俺は狭い世界に閉じ込められ暴力を受け続けてきた。けれど母がもし家を出なかったら?そのときはきっと・・・
「もし、母さんがあの家に残り続けていたなら、暴力を受けていたのは母さんだったと思う」
そもそも母が家を出る前は、母が暴力を受けていたのだ。兄が亡くなってからの短期間とはいえ、暴力を受けたことに変わりはない。しかも当時母は冬瑚を身籠っていたのだ。
「それでもし、お腹にいた冬瑚に何かあったとしたら。俺は一生、俺が許せない」
あの辛く苦しい日々が、冬瑚の命を守ることに少しでも繋がっていたとしたら、無駄ではなかったのだと思えるから。だが、こんな風に思うことができるのは、凪いだ心で母と対峙できるのは、今もこの心が壊れずにいられるのは、あの人がいたからだ。あの人が俺の心に入り込んで来てくれたから。
「智夏のその顔。その目の力強さ。本当に春彦にそっくりね」
母はそう言って俺の顔を見ている、いや、俺を通して春彦を見ているのか。
母のこの言葉に冬瑚が興味を示す。
「春兄は夏兄にそっくりなの?」
「そうねぇ。昔は双子に間違えられるくらいそっくりだったわ。見た目で違ったのは目の色くらいかしら。春彦は黒色で智夏は青色」
「黒い髪で黒い目なら、春兄は秋兄にも似てたんだね!」
無邪気に冬瑚が放った一言に秋人が目を見開く。
「いや、僕は似てない。似てると言うなら僕より冬瑚の方が似てる」
即座に否定しながらも、どことなく嬉しそうな様子の秋人。もしかして自分だけが見た目が父親に似たことをずっと気に病んでいたのかもしれない。
「冬瑚は春彦より俺に似てるよ。あと確かに秋人は春彦に似てる」
と言うと、秋人と冬瑚が不思議そうに首を傾げる。
「春兄と夏兄が似てるなら、冬瑚は春兄にも似てるってことじゃないの?」
「顔は確かにそうだけど。ちょっとしたときの仕草とか雰囲気が秋人は春彦に、冬瑚は俺に似てると思う」
こっそり冬瑚に会いに行ったときに見たステージ上に立つ冬瑚は、俺がピアノを演奏する前に行っているルーティンと似たようなことをしていた。
秋人は意外と負けず嫌いなところとか、笑い方とか、そういった無意識化でおこなっていることが春彦に似ているのだ。
「そういえばそうね。声は智夏より秋人の方が似てるわ」
「そっか・・・僕もちゃんと弟だったんだ」
「当たり前だろ?」
零すようにそう言った秋人が、語りだす。
「父親が昔、言ったんだ。「お前だけが俺の息子だ」って。血の繋がりとかじゃなくて、多分見た目がそうだったんだと思う。見た目が母さんに似た兄貴が、兄貴だけがあいつに殴られた。それを僕はいつも後から知った」
痛みを感じないので怪我をしたことにも気づかない俺を、秋人はいつも手当てしてくれた。一体どんな気持ちで秋人は包帯を巻いてくれていたのか。
空虚な目で秋人が心の内を吐露する。
「僕が学校に行っている間に兄貴は殴られてたから、止められなくても仕方がない。だって僕はその場にいなかったんだからって自分に言い訳して。そのたびに自分が嫌いになって、無力な自分が憎かった。僕も母さんに似た見た目だったら、兄貴と痛みを共有できたのにって。もしかしたら無痛症になんかならなかったんじゃないかって」
初めて聞く秋人の本音。知らなかった、秋人と一番長く一緒にいるのに、何も知らなかった。しかし、何かを思い出したのか、空虚だった秋人の瞳に温かい火が灯る。
「でも、それは全部もしかしたらの話。僕はずっとその"もしかしたら"に苦しんできたけど、ある人が言ってくれたんだ。「過去は変えられない。けど、未来ならいつだって変えられる。"もしかしたら"は未来の可能性を広げるために使おう」って」
そう言った秋人の表情は俺の見たことのない、愛しい人を想うような表情だった。きっとその言葉は、秋人のかけがえのない大切な人がくれたものなのだろう。
「未来の可能性・・・?」
冬瑚には少し難しかったようで、秋人が言葉の意味を説明する。
「えっとあのときは確か「もしかしたら瑠璃と結婚したら世界で一番幸せになれるかもね」とか言ってたな・・・」
「突然の惚気」
お相手の子、瑠璃ちゃんっていうのね。兄や妹の前でこんなにも堂々と惚気られるとは。俺の弟、かなりの大物だよ。
「惚気?違うけど」
「「「え?」」」
違うの?プロポーズの言葉を言ったんじゃないの?「なにすっとぼけたこと言ってんだ」みたいな顔で秋人がこちらを見る。
「瑠璃は例えばの話を言っただけで、なんでそれが惚気になるんだよ」
恥ずかしくてむきになっているわけではなく、心の底から不思議そうに言ってくる秋人。え、え~?嘘だろ?
「秋人って鈍感だったんだな」
「はぁ?よくわかんないけど兄貴にだけは言われたくない」
「え、なんで」
「そういうとこだよ」
そういうとこってどういうとこ?
~執筆中BGM紹介~
魔法騎士レイアースより「光と影を抱きしめたまま」歌手・作詞:田村直美様 作曲:田村直美・石川寛門様
今回は読者様からのおススメの曲でした!