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抱きしめる側へ

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「何色がいいかなー?やっぱり白色?夏兄(なつにい)秋兄(あきにい)


黒木さんから電話があった翌日。冬瑚と秋人と3人で今朝届いたばかりの春彦の絵を囲んでいた。未完成だった俺たち兄弟の絵。椿(つばき)(えのき)(ひさぎ)(ひいらぎ)の絵は、椿だけが色付けされており、他は線画のままだった。


「柊は本来なら白色だけど、冬瑚の好きな色でいいんだよ。これは冬瑚の絵だから」

「冬瑚の好きな色?んーっと、青!」


買ってきた油絵セットの絵の具から青を選ぶ冬瑚。昨日、お風呂から上がった冬瑚にいきなり「夏兄」「秋兄」と呼ばれた時には驚いたが、冬瑚の性格上この呼び方が合っている気がした。まぁ、あれだ。つまり妹激カワってことだ。金色の豊かな髪を揺らしながら冬空の澄んだ青色の瞳をまっすぐにこちらに向け、笑顔で「夏兄」と呼ぶ姿はもう天使。え?シスコン?ふっ誉め言葉DAZE☆


「現代では楸はキササゲじゃないかって言われてるらしいけどこの花も白とか赤だし。赤だと椿と被るんだよな」


秋人が冬瑚の横でうんうん唸っている。


「秋人も好きな色でいいよ」

「そうは言ってもなー。椿は普通の色だし」


春彦が唯一色を付けていた椿は赤色。普通の赤椿の色である。しかし、秋人よりも数年長く春彦といた俺にはわかる。


「この椿が赤なのは、兄さん、あー春彦が赤が好きだからだよ」


俺がこの場で「兄さん」と言うと冬瑚が混乱しそうなので「春彦」と呼びなおす。冬瑚には亡くなった兄がいる、ということを大まかには話してある。会ったこともない兄が亡くなっていると聞かされても実感は湧かないだろうに、話を聞いてぽろぽろと涙を流していた冬瑚はとても優しい心の持ち主なのだろう。


春兄(はるにい)は赤が好きだったんだね」

「そうなんだ。全然知らなかった」

「そうそう。たしか「長男と言えば赤だろ!」とか意味不明なことを言ってた気がする」

「「?」」


二人して「何言ってんだこいつ」みたいな目で見なくても。言ったの俺じゃなくて春彦だし。


「僕の好きな色はきつね色かな。おいしい色だし」

「「お母さん」」


お、冬瑚とハモった。お兄ちゃんうれぴい。


「きつね色と言えばオレンジかな。もう少し優しい色にしよ」


秋人が色づくりに入ったのを見届けて、俺も榎の色を考える。本来の榎は木であり、花というより実がなる。しかし線画に実は描かれてはいない。木の枝と葉っぱだけである。


「夏兄の好きな色は何色なの?」

「金色かな」


と言って冬瑚の綺麗な金色の髪を一房(すく)う。きらきらと太陽の日を浴びて輝く髪は本当に綺麗で、俺の好きな色である。


「そういうことは好きな人にやってよ」


何故か秋人が恥ずかしそうにそう言った。冬瑚も頬を赤く染めてコクコクと秋人の言葉に頷いている。はて、そこまで照れるようなことを俺は言っただろうか?


「冬瑚は俺の好きな人だけど?」

「likeじゃなくてloveの方!」


自分でloveと言ってさらに恥ずかしくなったのか、秋人が真っ赤になって黙ってしまった。それにしても、loveの人、か。「待っていてくれ」という俺の身勝手な言葉を受け入れてくれた彼女。はたして俺は彼女に見合う人間になれるだろうか。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





コンコンコン


ノックしたのは『由比マリヤ様』と札に書かれた病室。正造氏の友人の持つ病院だそうで、本格的な精神病院に送る前に、この病院で検査などをしていたそうだ。


「誰も来ないで!来ないでよ!!」


中から喉がつぶれたような声が聞こえた。誰かが近づくたびに、こうして叫んでいるそうだ。喉がつぶれても、拒絶の声を叫び続ける。が、そんな要求を聞いてやる義理もないので病室のドアを開ける。俺に続いて秋人、冬瑚も病室に入る。


この呼び方をこの女に使うのは、いつぶりだろうか。こちらに背を向けてベッドの上で蹲る人物に声をかける。


(かあ)さん」


俺の声を聞いて、肩が大きく跳ね上がる。恐る恐る振り返る母。


「智夏・・・秋人、冬瑚・・・」


老けたな、と漠然と思った。以前ドリボで見たときは、変わらなさ過ぎて気持ち悪いと思ったが、それはメイクで隠していたからだろう。メイクをしていない今は、年相応かそれ以上に老けて見えた。食事を摂っていないのだろう、痛々しく痩せた頬に涙が一筋流れる。


「ごめんね、ごめんね。私のせいで、ごめんね・・・」


謝って許されると思うなよ、とか、謝るくらいなら初めからあんなことするな、とか言いたいことはやまほどあった。それは多分横に立つ秋人も同じ。だが、声に出しては言えなかった。


泣いている母の元に冬瑚が駆け寄る。


「お母さん、泣かないで」


愛情をもらえなくて寂しい思いをしたのに、こんな女のために今も冬瑚は心を砕いている。


「冬瑚、ごめんね。お母さん馬鹿でごめんね。弱くてごめんね。寂しい思いさせてたよね。ごめんね・・・」

「うん、うん」


今まで嫌って憎んで嫌悪してきた相手は、こんなにも小さい人だったのか。記憶の中の母は、とてもあったかくて、全てを包み込んでくれるような優しくて大きな人だった。


色のない冷たい部屋で10歳にも満たない娘に縋り付いて泣く母の姿は、記憶のものより小さくて頼りなくて、今にも壊れそうだった。


秋人が大股で冬瑚と母に近づき、二人を何も言わずに抱きしめた。


「秋人、ごめんね。あのとき、置いて行ってごめんね・・・」

「・・・」


言いたかったこと、聞きたかったこと、そのすべてを一度胸にしまい込み、抱き合う3人の元に向かう。今にも泣きそうな冬瑚、きつく歯を食いしばる秋人。いろんな思いを抱えながら、それぞれがこの場所に来た。


「智夏もごめんね。一人にして、ごめんね。逃げてごめんね・・・」


母の弱弱しい謝罪の声と同時に聞こえてきたのは、『とうさんとかあさん、のこと頼んだ、ぞ』という兄の最期の言葉だった。結局、兄の願いを叶えることはできなかった。けど、もう一度、ここからやり直すことはできるのかな?


そっと母と秋人と冬瑚を抱きしめる。本当に、小さいな。俺の腕の中に収まるくらいに小さい。


「智夏も、秋人も、大きくなったんだね。こんなにも長い時間が経ってたんだね・・・」


そうか、母が小さくなったのではなく、俺が大きくなったのか。抱きしめられる側から抱きしめる側へ。人はそれを成長を言うのだろう。


「話そう。4人で。これまでのこと、これからのことを」







~執筆中BGM紹介~

執事×僕SSより「ニルヴァーナ」歌手:MUCC様 作詞・作曲:ミヤ様 編曲:ミヤ・田中義人様

読者様からのおススメの曲でした!メニアーック!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女も騙されていたという弁護もあるだろうけど、それでも彼女の所業は許されるものではない。 でも、冬糊ちゃんに母親が必要なのは否定できない事実。シスコンの兄弟は、冬糊ちゃんの為に母親を許すの…
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