冬瑚選抜お風呂の共ドラフト会議
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クズ男が黒服部隊の人たちに連れて行かれた後、春彦の絵は一旦黒服の人たちに渡した。
そして、泣き止まない冬瑚を秋人と2人あわあわしながら慰めて、その日は香苗ちゃんの待つ家に帰った。もちろん冬瑚と例の白猫も一緒に、だ。
「おかえり」
「「ただいま」」
香苗ちゃんが何も言わずにいつも通りに出迎えてくれる。ちなみに白猫は活躍しすぎて疲れたのか、俺の腕の中でスピスピ眠っている。
「いろいろと話したいことはあるけれど、冬瑚ちゃん、おかえり」
「・・・」
ぽかんとしながら香苗ちゃんの言葉を聞いている冬瑚。家に着くまでに、これから冬瑚は俺たちの家で過ごすことになるという旨は伝えたが、やはり急すぎただろうか。
「あの、えっと」
もじもじと両手の指を絡ませながら言葉を紡ぐ冬瑚。誰も言葉の先を急かそうとはせず、冬瑚のことを見守っている。視線を彷徨わせながら、一生懸命に言葉を紡ぎだした。
「ただいまって言ったことなくて。その、冬瑚が言ってもいいのかなって」
その言葉を聞いた香苗ちゃんが、冬瑚の両手を外側から包み込んで正面から目を見てゆっくりと話す。
「ここはもう冬瑚ちゃんの家だから、ただいまって言ってくれたら嬉しいな」
「俺も。冬瑚にただいまって言ってほしいし、おかえりも言ってほしい」
家に帰ったら「お兄ちゃんお帰り」と迎えてくれる冬瑚を想像するだけで心が湧きたつ。が、今回は「おかえり」を言われる側ではない。俺たちは妹を迎える側だ。
「「「おかえり」」」
俺と秋人と香苗ちゃんが同時に「おかえり」を冬瑚に言う。これから何回もこの言葉をこの家で交わしていくのだ。
「・・・ただいま!」
その後は秋人がぱぱっと作ってくれた晩御飯をみんなで食べて、お腹をあっためた。きらっきらした目で本当に美味しそうに食べる冬瑚を見て、秋人が嬉しそうだった。うむ、俺の弟妹が尊い。
夕食を終えると始まったのが冬瑚選抜お風呂の共ドラフト会議。
「冬ちゃん、お風呂に一緒に入るのは私がいいよね~?」
「冬瑚、香苗ちゃんと入るとおもちゃにされるからこっちにおいで?」
「僕の所においで、冬瑚」
香苗ちゃん、俺、秋人が順にそれぞれ手を伸ばす。さながらハイハイができるようになった赤ちゃんを親戚のおじさんおばさんが数人で呼びよせているような光景である。
「冬瑚は、」
「冬ちゃんすべすべ~」
「ふみゅ~!くすぐったいよー!」
浴室の方から楽しそうな香苗ちゃんと冬瑚の声が聞こえる。ドラフト1位指名は香苗ちゃんだった。いや、まぁね、俺と秋人は冗談で立候補したわけで。決して本気というわけでは。と誰にかわからない言い訳を脳内でしていると、スマホに電話が入った。
「はい、御子柴です」
『さっきぶりだね、智夏君』
この低めの声は今日一日、俺を何度も助けてくれた人の声で間違いないだろう。
「お久しぶりです。えーっと」
『自己紹介がまだだったね。黒木だ。よろしく』
黒木・・・似合う。名が体を表しているというか。黒が似合う仕事人である。
「黒木さん、今日は本当にありがとうございました。それと、すみませんでした」
ハプニングが重なっていたとはいえ、俺も秋人も独断専行していた節がある。横に座っている秋人も会話の内容が気になるようなのでスピーカー機能にして二人で聞く。
『いいや、謝るのはこちらの方だよ。本当にすまなかった。二人を危険な目には合わせないという約束を守ることができなかった。不甲斐ない大人で恥ずかしい限りだ』
電話の向こうから後悔が滲み出るような声で黒木さんが謝罪した。俺は危険な目にはあっていない、と思うので、この謝罪は主に秋人に対してだろう。
「結果的に僕も冬瑚も怪我はしていないので、あまり自分を責めないでください」
『本当に、すまなかった。本来なら、君たち二人とあの男は会わせない予定だったんだ。それなのにこちらの不手際であの男を取り逃がし、君たちの所へ向かわせてしまった』
向かわせた?言われてみればなぜ秋人たちの居場所がクズ男にバレていたのだろう。あんな林の中でピンポイントに探し出すことは不可能に近いはずなのに。同じことを秋人も思っていたのだろう。黒木さんに質問した。
「あの男、僕たちを待ち構えていたんです。あんな林の中で一体どうやって?」
『先ほど分かったことなんだが。冬瑚ちゃんが持っていた絵にGPS装置が付いていたみたいなんだ。位置情報があの男の携帯に送られるように設定されていたから、それで先回りして君たちを待ち構えていたんだと思う』
他人から幸せを奪うことに固執しているように見えたクズ男。奪ったものは自分のモノ、という認識なのだろう。自分のモノを誰にも奪わせない、という執念を感じる。それが例えオークションに出品するものであったとしても。
『預かっているあの絵だけど、明日には君たちに返せると思う』
「本当ですか!」
『私たちの目的はあくまで闇オークションの関係者であって、絵ではないからね。きちんと本来の持ち主に返すよ』
あの闇オークションに出品されていたものはほとんどが非合法に入手されたもの。今日、押収しただけでもかなりの数があるだろう。それら一つ一つを本来の持ち主に返すのは本当に大変な作業だと思う。それを率先して正造氏率いる黒服部隊が引き受けてくれたのだ。彼らには頭が上がらない。
『あと君たちに伝えたいことがあってね。名前すら聞きたくはないかもしれないけど』
言い淀む黒木さんに代わって言葉を続ける。
「由比マリヤ、俺たちの元母親のことですね」
その名前を聞いた途端に、秋人が苦虫を百匹以上噛み潰したかのような表情になった。あの女が出て行ったのは秋人が幼いころ。普通に母親をしていた姿より、俺たちを置いて出て行った姿の方が印象に残っているのだろう。当然といえば当然だが。
『あぁ。彼女の処遇について、話しておこうと思ってね』
「「はい」」
『彼女は闇オークションの経営には関わっていなかった』
「そうですか」
つまりゲス男の言っていたことは本当だったわけだ。それがわかったところで、春彦の絵を持って出て行ったこと、冬瑚に愛情を与えなかったことを許す気もないのだが。
『彼女の身柄は現在私たちが預かっているが、かなり精神状態に支障をきたしていてね。まともに会話できる状態ではないんだ。多分近いうちに精神病院に送ることになると思う。・・・その前に、彼女に会っておくかい?』
思い起こすのは、ドリボのロビーでヒステリックに喚く姿。だが、それと同時に普通に母親だった昔の姿も脳裏にちらつくのだ。ここで会わないという選択を取れば、多分二度と会うことはない、という予感がする。
窓から見える空に星は見えず、重い曇天が広がっていたのだった。
~執筆中BGM紹介~
ドメスティックな彼女より「カワキヲアメク」歌手・作詞・作曲:美波様
城、といえば日本の城が最初に思い浮かぶのですが、みなさんはどうでしょうか。シンデレ〇城とか思い浮かぶのでしょうか。