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もういらない

ゲスの極みクズ男視点でお送りします。

胸クソ注意です。




黒スーツの軍団に縄で体を縛られながら3人の子供たちを見つめる。あぁいいなぁアレ。やっぱり欲しいな。


智夏たちを見る男の目は、スーパーでお菓子をねだる子供のような目だった。ただひたすらに、目の前のものが欲しくて欲しくてたまらないような、そんな欲望に忠実な目をしていた。




昔から()()だったのだ。他人の持っているモノがとても素晴らしく見えて、なんとしてでも手に入れたくなってしまう。


幼少期は子供の我が儘、お強請(ねだ)りでなんとか通っていたが、成長するにつれてだんだんとそれも受け入れられなくなっていった。俺の我が儘をよく聞いてくれていた祖父母も立て続けに亡くなり、誰も俺の声に耳を傾けてはくれなくなった。


両親は無視をすることで俺の性格を矯正したかったのかもしれない。けど、手に入れられないものほど、欲しくなるよね?


誰かのお菓子、誰かのおもちゃ、誰かのゲーム・・・


初めはこんなものだったと思う。だが、無視されるようになってからは更に衝動が強くなっていった。


誰かのオトモダチ、誰かのオカネ、誰かのカゾク、誰かのシアワセ・・・


隣の芝生は青く見えるって誰かが言ったように、誰かの大切なモノはピカピカキラキラと輝いて見えるのだ。




こんな俺でも()()はダメだとわかっていた。だからずっと我慢して我慢して我慢して。両親の望む真っ当な人間ってやつになった。就職したのは美術品仲買(なかがい)をしている会社。このまま皮を被り続けて死んでいくと思っていたとき、目にしたのは社長の家族が楽しそうに公園で遊んでいる姿だった。


いいなぁ、欲しいなぁ。


社長の持っている会社も、お金も、家族も、幸せも。全部全部ほしい。


そう思ったらもう止められなかった。あぁ!全部手に入れられたらどんなに気持ちが良いのだろうか!成功したときの快感を妄想しながら、頭の中で綿密に計画を立てていく。その過程で偶然にも社長の妻、マリヤが妊娠していることを知ったのだ。男の子かなぁ、女の子かなぁ。この子欲しいなぁ。



調べていくうちに、社長の息子たちの特異性に気付いた。長男は絵画に、そして次男はピアノに非凡な才能を持っていたのだ。人が持って生まれる才能は、どう足掻いても手に入れることはできない。手に入れられないとわかったら、なおさら手に入れたくなってくる。


あの二人、ハルヒコ君とチナツ君欲しくなっちゃたな。


計画をいつ実行しようかと嬉々として考えていたとき、ハルヒコ君が事故で亡くなったと聞いた。彼はもう永遠に手に入れられなくなった。チナツ君もピアノを弾かなくなったと聞いた。それならもういらないや。




欲しかった社長の会社、お金、妻、娘、そして幸せを奪ってやった。あの社長が、いや元社長があんな無様な姿になるなんてな。他人の不幸は蜜の味。他人の幸せは天上の美酒の味だ。





マリヤが冬瑚と名付けた娘は、やはり非凡なる才能を持っていた。マリヤは金の卵を産むダチョウだな。もっと産ませれば才能を持った子供が次々と現れるのだろうか。だが俺は子供が嫌いだ。これ以上増えるのは耐えられない。


マリヤに命じて持ってこさせたハルヒコ君の絵画は新たな事業に大いに役立った。俺と同じような、何としてでも手に入れたいという欲に忠実な人間に、美術品をオークションという形で売り付けていった。


ばかみたいに金が入ってくる。馬鹿な奴らが娘に金を使うおかげでどんどん金が舞い込んできた。金があって、綺麗な妻がいて、非凡なる娘がいて、これが幸せなんだろう。きっとそうだ。


「約束が違うじゃない!!あなたは春彦の絵を守ると言ったのに!返して!あの子の絵を返してよ!!」


どうやら絵をオークションに出していたことがマリヤにバレたようで、散々罵られ、ヒステリックに泣きわめかれた。あーうざい。


「うるさい。お前は冬瑚だけを見てればいい。俺のことに口を出すな」

「嫌よ!もう嫌!冬瑚と一緒にここを出るわ!」


バチン!


マリヤが後ろに吹っ飛んだ。しまった、思わず手が出てしまった。手が痛いな、殴んなきゃよかった。でも、うるさいマリヤが静かになったし、別にいいか。


「お父さん、お母さん?どうしたの?」


二階で眠っていたはずの冬瑚が騒ぎを聞きつけて起きたらしい。目をこすりながらリビングにやってきた。


「なんでもない。それよりも明日はコンサートなんだ。しっかり寝なさい」

「・・・でも、お母さんが」


床にうずくまりながら泣いているマリヤの姿を見て、冬瑚が言う。


「なんでもないと言っただろう。同じことを二度も言わせるんじゃない」

「ごめんなさい・・・」


顔を俯かせ、部屋に戻る冬瑚。泣き続けるマリヤ。俺が欲しかったシアワセってなんだっけ・・・?









柔らかな太陽の光に包まれながら、泣いている幼い妹を慰めている兄弟。いいなぁ、俺の兄弟はくそみたいなやつだった。それなのに、こいつらは互いが互いを想いあっている。さっきだって、俺が秋人君を侮辱したら、智夏君も冬瑚も即座にかばった。その姿は俺が欲しかった、奪ったはずだった家族のかたちそのもの。


俺が手に入れたと思っていたモノ。会社、金、家族、幸せ。会社も金ももう失う。家族や幸せに至っては初めから手に入れていなかった。


「結局、他人から幸せを盗んだところで幸せは得られなかったわけだ。だが、幸せを奪えたのなら、それだけで満足さ」


負け犬の遠吠え。だが、本心だ。だから、そんな目で俺を見ないでくれよ、智夏君。そんな可哀そうな奴を見る目で見ないでくれ。





家族も幸せも、何もかも。手に入れられないのなら、もういらないや。






~執筆中BGM紹介~

ドラえもんより「おれはジャイアンさまだ!」歌手:歴代ジャイアン様 作詞:たてかべ和也様 作曲:菊池俊輔様

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