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ゲスの極みクズ男

最近寒さが本気を出してきましたね。。。読者の皆様、お体にお気をつけて。




外から聞こえた猫の声に導かれるようにして偶々鍵の開いていた窓を開け放ち、窓から外に身を投げる。1階の窓から飛び降りたので着地の時に大けがを負うことも無くすぐに立ち上がった。しかしここから先、どこに進もうか。闇雲に進んでも広大な敷地の中を彷徨うことになるのは目に見えている。一刻も早く最短距離で秋人たちの元に向かいたいが・・・と0.5秒くらい悩んでいたが、少し先の木が生い茂っている場所からさっきの声の主だと思われる白猫が「ついてこい」とでも言いたげな目をしてこちらを見ていたのでついていくことにする。


「待てこら、クソガキー!!」


2階から颯爽と飛び降りたら追手も()けたのかもしれないが、ブレーカーがあった場所は1階だったので飛び降りることに抵抗はない。当然追手も窓から飛び降りて追いかけてくる。


道なき道を突き進む猫の後を追って走っているが、全然違う場所に案内されたらどうしようか。それかどこぞのヤマイヌのように「遅い!乗れ!」と言って巨大化して背に乗せてくれないだろうか。と走りながら考えていたら、いつの間にか俺を追っていた足音が消えていたことに気付いた。走りながら後ろを振り返ると、さっきまで俺を追っていた二人の男が木に吊り下げられていた。


「ん!?」


え、なんで吊り下げられてるんだ!?何事だよ!?


「智夏君」


聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、木の上からカッコよく飛び降りたのは全身黒スーツの男。俺も一応黒スーツを着ているのだが、比べ物にならないほど着こなしている。そう、例えるなら凄腕の殺し屋のような雰囲気だ。


「ここは我々に任せてください」


この声ってまさか、さっきまでイヤホン越しに話していた黒服部隊の人だろうか。と思ったが、今は後回しだ。最優先事項が他にある。


「お願いします!」


5メートルほど先の方でくわっとあくびをしていた白猫が、こちらを見てまた走り出した。律儀に俺のことを待っていてくれたのだろうか。今更だがこの猫は一体何者なのだろう。首輪をしていないところを見るに、ノラだろうか。


「本当にこっちにいるのか?」


前を走る白猫に問いかける。返事はないとわかってはいるが、どうしても聞きたくなってしまう。


「にゃにゃ」


返事をしてくれた、というより「口より足を動かせ」と言われた気がしたのは俺の被害妄想だろうか。この猫、実は前世が人間だったのでは?と疑ってしまうほどに人間じみている。


走っている最中、風に乗って子供と大人が言い争うような声が聞こえてきた。


「、、それを持って、、、なさい!」

「いーやー!!!」


男の声はどこかで聞いたことがあるような気がしたが、それよりも後者の声だ。間違いない、あれは冬瑚の声だ、と直感した瞬間に自分でも驚くくらいの速さに加速した。一心不乱に走りだしたとき、背中に小さな衝撃を感じたと思ったら、白猫が背中に飛び乗ってきた。お前、本当に道案内してくれたんだな、ありがと。と心の中でお礼をしつつ、林を突破する。


「冬瑚、そんな出来損ないと一緒にいるんじゃない!早くその絵を持ってこっちに来なさい!」

「秋人兄さんは出来損ないじゃない!取り消して!」

「僕のことはいいから」

「「よくない!」」


秋人の言葉に対して反論した声が2つ。ひとつは冬瑚のもの。そして残る一つは、秋人たちとゲス男の間に突然現れた智夏が発したものだった。


「俺の可愛い可愛い秋人が出来損ない?寝言は棺桶に入ってから言え!それにあの絵はお前なんかのものじゃねぇっ!あの絵にも冬瑚にも、もう二度と触らせない!」


あぁ、冬瑚の前ではなるべく丁寧な言葉遣いを心掛けていたのに。口調が荒くなってしまった。それもこれも目の前に立つ、ゲスの極みクズ男、略してゲス男のせいだ。


「出来損ないを出来損ないと言って何が悪いんだい?それに、自分が出来損ないだということは、君が一番よくわかっているんじゃないのか?えっと、名前なんだっけ?すまないね、能力のない人間の名前を覚えるのは苦手なんだ」

「てめぇ・・・!」


ゲス男の口を二度と開かないようにしてやろうかと思ったとき、秋人がそれを止める。


「兄貴、冬瑚の前で暴力はなし」

「うっ」


というかそもそも喧嘩したことなかったわ、俺。


「それに、出来損ないっていうのも間違いじゃない」

「秋人・・・」

「だってそうだろ?春くんは絵画。兄貴はピアノとか作曲とか。冬瑚は声楽」


春くん、と昔秋人が春彦を呼んでいたことを思い出す。


「でも、僕にはない」

「4兄弟の中で君一人だけがなんの才能も持たずに生まれてきた。これを出来損ないと言わずになんという?」


秋人の言葉に被せるようにしてゲス男がしゃべりだした。こいつは今までこうして他人を幾度も見下してきたのだろう。才能だなんだと薄っぺらいことを口にしながら、人の本質をまるで見ようともしていない。本当に気分が悪い。


冬瑚は俺たちの言っている内容が理解できていないようで、忙しなく視線が俺たちとゲス男の間を行ったり来たりしている。


「以前智夏君をマリヤが迎えに行った時があったろう?あの時はマリヤが勝手に秋人君も、と言っていたが私は智夏君が欲しいんだよ。天使の歌声を持つ冬瑚に、今をときめく作曲家の智夏君。しかもピアノまでうまいときた。喉から手が出るほどに欲しい人材だよまったく」


聞いてもないのにいきなり語りだしたゲス男。ナルシスト臭がプンプン漂ってくる。


「もう一度言う。冬瑚が今後一切お前に関わることはない」

「何を言うかと思えば。私と冬瑚は親子だが?」

「違うだろ」


黒服部隊の人や社長が調べてくれた情報でわかった真実。


「冬瑚はお前の娘じゃない。御子柴マリヤと御子柴水月の間に生まれた俺たちの妹だ」


落っこちてしまいそうなほどに目を丸くした冬瑚。この事実に幼心が傷つかないか、それだけが心配だった。




~執筆中BGM紹介~

いつだって僕らの恋は10センチだった。より「聞こえますか feat.春輝<幼少期>(CV:こいぬ)-N.Edit-」制作:HoneyWorks様

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