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秋人兄さん

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「君が秋人(あきと)君だね。初めまして。儂は佐藤正造という。(しょう)ちゃんって呼んでくれ」


はっはっはっと快活に笑う正造氏に戸惑う。およそ70代後半くらいのかなり年上の人に「ちゃん」付け!?いや無理無理。無理でしょ。


「御子柴秋人です。今日はよろしくお願いします。正さん」

「おじいちゃんでもいいんじゃよ?」

「いえ、正さんで」


どうも、NOと言える日本人です。将来はホワイト企業就職希望です。






「佐藤様、本日はご足労いただき、」

「堅苦しいのは結構だ」


オークション会場には場所を特定されないために向こうが用意したバスで向かうことになっている。今着いたのは指定場所の庭園。佐藤さんはかなりVIPな人のようで、着くなりスタッフらしき人物がペコペコと低姿勢で挨拶をしてきた。


「あの、こちらは?」

「儂の孫だよ。絵画がとても好きでね」

「なるほど、お孫さんですか。道理で利発的なお顔をしていらっしゃる」


血の繋がりは一切ございませんよ。わっかりやすいゴマすりに笑いをこらえる。ペコペコスタッフが去って、正さんがいたずらっ子のように笑った。


「見事に騙されておったなぁ。ぷぷ」

「正さんも迫真の演技でしたね」

「だてに歳はとっとらんからな。にしても、孫か」

「?」


孫、と言った後に諦めのような表情を浮かべた正さん。兄と正さんの孫の間で起きたトラブルは聞いた。言ってしまえば僕たちは加害者側と被害者側の人間なのだ。だが、それは過去の話。今は協力者であり、仲間である。気落ちした様子の正さんになんと言葉をかけるか考えていたとき。


「アフリカで、うまくやっとるかのぉ」

「アフリカ」


島流しされたのか、孫。アフリカか・・・アフリカの料理ってどんなだろ?と思考が脱線していたとき、ちょうどスーツを着た兄貴が変な女の人とやってきた。兄貴は自分のスーツ姿を「ザコの悪役」とか言っていたが、そんなことはない。スーツを着こなしている。対して僕はスーツに着られている感が否めない。冬瑚も含めて兄弟で俺だけ父親似なのが恨めしい。


「皆様お待たせいたしました。準備が整いましたのでバスにお乗りください」


スタッフの誘導に従ってバスに向かう。バスは前後の間隔が広く、シートもかなりゆとりのある作りになっていた。後ろの方の席の窓際に座ると、横に正さんが座る。あ、こういうときって正さんが席を決めたほうが良かったのかな。


「バスとか久しぶりでワクワクするのぉ!」

「遠足じゃないんですから落ち着いてください」


席を勝手に決めてしまっても大丈夫みたいでよかった。しばらくしてバスが走り出したタイミングを見計らって上着のポケットからワイヤレスイヤホンを取り出す。およそ30秒後、イヤホンから低い男の人の声が聞こえてきた。


『こちら黒服部隊、智夏君、秋人君、聞こえていたらイヤホンを二回叩いてくれ』

『コンコン』


兄貴が音を立てた後に、コンコンと二度イヤホンを軽く叩く。


『会場に入るとスマホを回収されるらしいので注意してください。今のところ智夏君に付けたGPSは正常に作動しています。何か異常があったら3回イヤホンを叩いてください。すぐに対応します』


いや、バスで異常なんておきないでしょ。それにしても正さんが隣の席の人とかなり盛り上がっている。イヤホンからの声が聞こえなくなったので正さんの方を見る。


「正ちゃんは甘納豆が好きなんですね!」

「うむ。甘納豆はおいしいぞぉ」

「冬瑚、食べたことないよ」

「それじゃあこの後一緒に食べに行くかの?ほっほっ」


・・・・・・・・?・・・!?!?!?


コンコンコンコンコンコン!!!!(イヤホンを高速ノックする音)


『秋人君、どうしましたか!?緊急事態ですか!?』

「と、とととととっ」

『『ととと?』』

「冬瑚がいる!!」

『なんだって!?』

『っ!?』


オークション会場には妻と子供は連れて行かない、と事前の調査で分かっていたんじゃ!?なんで冬瑚がバスに乗っているんだ!おち、落ち着け。とりあえずなんでいるのか聞かないと。


「冬瑚、なんでいるんだ?」

「お兄さん冬瑚のこと知ってるの?」


迂闊!存在に気を取られすぎて冬瑚と初めて話すということが、頭からすっぽりと抜けていた。


「さっき自分のこと、冬瑚って言っとったじゃろ?」

「そっかぁ!」


正さんナイスフォロー!子供みたいなお爺さんだと思っててごめん!


「それで、冬瑚はなんでここに?」

「お父さんがこそこそしてたから、気になって着いてきちゃったの!バレないようにバスに隠れてたら正ちゃん達が入ってきたの」


妹のことを言えた義理ではないが、独断専行がお家芸なのだろうか。末っ子にまでしっかりと受け継がれている。


「大冒険じゃのぉ」


正さんがうまく会話を代わってくれたので、そのまま黒服の人たちに判断を仰ぐ。


「だ、そうです。聞こえてました?」

『イレギュラーはつきものですから、仕方がありません。秋人君、冬瑚ちゃんの保護をお願いできますか?』

「保護って言われても・・・」


どこにどうやって保護すればいいのかわからない。


『冬瑚はどんな服を着てるのかな?ワンピース?パンツスタイル?ドレス?』

「黙れシスコン」


なぜ今聞くことが冬瑚の服装なんだ。ちなみに薄桃色のワンピースを着ているが、我が妹ながらとても可愛い。兄貴には絶対教えてやんねぇけどな。夜に冬瑚と電話してるの知ってるんだぞ。


「ねぇねぇ」


袖をクイッと引っ張られたので横を見ると、正さんの隣にいたはずの冬瑚が俺の足元にしゃがんでいた。可愛い。身をかがめているのは見つからないためだろうか。小動物みたいで可愛い。


「お兄さんのお名前教えて?」

「・・・秋人」

「あきとお兄さん?」

「んんっ秋人兄さんって呼んでくれる?」

「あきと兄さん?」

「ぐぎゅうっ」


冬瑚から「兄さん」と呼ばれたのは僕が初めてじゃないか?はぁー!このバスに乗って良かった!!


「あきとってどんな字を書くの?」

「季節の秋に人間の人で秋人だよ」


教えた後に思ったが、秋という漢字は習っているのだろうか。


「秋人兄さんも季節が入ってるのね!冬瑚と一緒!」

「うん、一緒だな」


なでなでなでなで。頭を撫でると猫のようにすり寄って、もっともっとと催促された。これは、もう猫かわいがりするしかないですよね。


「秋人君が冬瑚ちゃん取ったー儂にも構ってーさーみーしーいー」

「良い大人が何言ってんですか」


隣の老人に呆れていると、天使の不満の声が聞こえてきた。


「撫でてー」

「・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、可愛い。


『秋人?聞こえてるよ?何自分だけ冬瑚可愛がってるの?全部聞こえてるんだけど?』

「兄貴は冬瑚に何回も会ってたんだから、これくらいいいだろ?それに兄貴は『夏お兄さん』。僕は『秋人兄さん』だから」

『ギリィッ!!』


いや、悔しがりすぎだろ。そんなに力強く歯ぎしりしたら歯欠けるぞ。




~執筆中BGM紹介~

王立宇宙軍オネアミスの翼 BGM 作曲:坂本龍一様

曲名がわかりませんでした、すみません!読者様からのおススメの曲でした!神が作曲した神曲!

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[一言] 「黙れシスコン」・・・秋人君、その言葉はブーメランだよ?
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