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決行日当日




恒例になってきたドリボの社長室での報告会。だがこの報告会もこれで最後である。


「昨日、正造(しょうぞう)氏から連絡をもらった。予定通りあの男から闇オークションに招待されたそうだ」


正造氏とは、満開アニメーションで俺にねちねち嫌がらせをしていた佐藤という男のお爺さんのことである。自分の孫が迷惑をかけて申し訳なく思っていたことと、芸術に造詣が深く闇オークションの存在に憤っていたことから、『闇オークションぶっ潰し作戦』に二つ返事で協力してくれたのだ。


しかも正造氏はあらゆる分野に顔が利くすごい人であり、この人を敵に回したら最後、日本で平穏に暮らすのは不可能らしい。あの男に気付かれないようにじわじわと首に縄をかけていく。


「招待客は同行者を一名まで連れて行けるそうだ。どちらか行く覚悟はあるか?」


俺と秋人にまさかお誘いが来るとは予想外だった。てっきり「待っていろ」と言われるのかと思っていたのだ。そんな思いが顔に出ていたのだろうか、社長が苦笑いをしながら提案の理由を答えた。


「本当は「待っていろ」って言いたいよ。でも、それじゃあ二人は納得しないし、勝手に行動し始めるだろう?だから、目につくところで動いてもらおうと思ってな」


なるほどなるほど。俺たちの行動を先読みしてのこの提案。この提案が一週間前にあったなら喜んで飛びついただろう、けど・・・。


「俺はもう招待券ゲットしてるから、秋人が行くといいよ」

「りょーかい」

「・・・うん?」


さらっと流す秋人。さすが俺の弟を13年間やっているだけはある。と感心していると、


ピシっ


と何かに亀裂が入る音が聞こえた。音の出どころである社長の右手を恐る恐る見ると、お馴染みの扇子にひびが入っていた。佐藤(孫)を成敗したときに床を粉砕した扇子にひび、だと!?どんな握力してるんだ。平気でりんご握りつぶせそう、というか俺が今現在握りつぶされそう。


「ふぅー・・・うん。まぁ、ね。今回は事後報告じゃなくて事前に言ってくれたからね。うん」


自分に言い聞かせるように社長がぶつぶつ言っている。


「あのー、お咎めは・・・」

「咎められるとわかっていてなぜやるんだ、はぁ」


てっきり雷が落ちてくるかと思ったが、代わりに落ちてきたのは深い深いため息だった。


「私はね、君たちを守りたいんだよ。たとえそれが私の自己満足であろうとも。身近にいる大人として、少しでも君たちを子供でいさせられるように。でも、」


少し寂しそうな眼をして、社長は話す。子供でいさせられるように、か。社長だけじゃない。周りの大人は俺が何かしでかすたびに叱り、褒めるときは全力で褒めてくれた。まるで親代わりをしてくれてるみたいに。


「子供の成長は本当に早いのだな。守りたいと手を伸ばしても、勝手に先へ先へと進んでいってしまう」

「社長・・・」

「二人ともそんな顔するんじゃない。要は子離れする時が来たってことを私は言いたかったんだ」


無理やり笑ったような顔で、社長は言った。社長は俺たちが1人で成長できたような言い方をしたが、決して1人でここまで来れたわけじゃないことは俺だってわかっている。


「社長が俺たちのことを成長したって言ってくれるのは嬉しいです。でも成長できたのは香苗ちゃんや、社長や周りの大人のおかげです。俺たちが安心して、前だけを見て進むことができたのは、背中を押してくれたのは、他の誰でもない社長たちです」


俺の言葉に社長は驚いたような顔をした後、ぎこちなく視線を彷徨わせてから小さく笑った。その笑顔に寂しさはもう見えなかったことに安心した。


「・・・冬瑚ちゃんのこと、幸せにしてやれよ」

「「はい!」」


最後の方の言葉が震えていたことには気づかないふりをした。


「ついでにクソヤローをぶっ飛ばしてやれ!」

「もちろんです」

「成層圏まで飛ばす」


秋人はあの男をロケットで打ち上げる気なのだろうか。宇宙ゴミが増えるからやめようね。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





数日後。『闇オークションぶっ潰し作戦』の決行日当日。


「スーツも似合うわね、御子柴君」


神田さんと事前に合流し、メールで指定された場所へと向かう。オークション会場はその指定場所ではなくて、そこからさらに移動するので直前まで場所が分からないようになっているらしい。あの男の用心深さが窺える。


俺はあの男に顔を知られているので、少し変装をしている。と言っても黒のカラコンを入れて髪をオールバックにしただけだが。あとグラサンかけてる。この格好はなんだか悪役のようでそわそわしてしまう。


「神田さんもスーツなんですね」

「この時期にドレスは寒いじゃないか。それに御子柴君がスーツならお揃いの方が楽しいだろう?」

「いえ別に」


押しキャラのコスプレをするようなものだろうか。いや違う。こいつはただの変人の変態だ。


「う~ん楽しみだねぇ。早くこの目で見てみたいよ、『春』の遺作を!」


変態の言葉を右から左に聞き流し、今日の計画内容を頭の中で反芻(はんすう)する。


まず俺と秋人が会場入りを果たしたら、服に仕込んだGPSを追って正造氏の部下の謎の黒服部隊の到着を待つ。イヤホン型の小型インカムに到着次第合図が入るそうなのでそれが入ったら、俺が隙を見て席を立ち、こっそり抜け出して会場内のブレーカーを落とす。ブレーカーの位置は黒服部隊から指示が入るらしい。一体何者だよ。最後に電気が切れたところで黒服部隊が突撃し、関係者全員取り押さえるという予定である。ちなみに秋人はオークション会場内の監視役であり、異常があれば報告してくれる。


「どうやら私たちが最後のようだね」

「みたいですね」


俺たち二人が入ると同時に絞められた門。集合場所に指定された庭園は広く、既に30人ほどが集まっていたがまだまだ余裕があった。奥には大きなバスが3台ほど見える。今からアレに乗って敵の根城に向かうのだろう。


さりげなく辺りを見渡せば、参加者の中に秋人がうまく馴染んでいた。その横に立っているのが正造氏だろう。なんというか、風格がある。


目的は3つ。1つは冬瑚を保護すること。事前調査では冬瑚やあの女はオークション会場には来ないことが分かっている。2つ目は闇オークションをぶっ潰して春彦の描いた絵を取り戻すこと。そして3つ目は闇オークションの経営者であるあの男をぶん殴ること。


スタッフらしき人物が声を上げる。


「皆様お待たせいたしました。準備が整いましたのでバスにお乗りください」


こうして長い長い一日が幕を開けた。




~執筆中BGM紹介~

「凛として咲く花の如く」歌手:紅色リトマス様 作詞:あさき様 作曲:TOMOSUKE様

今回は読者様からのおススメでしたー!テンション上がるゥ!

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