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究極の2択

前回、予約投稿できてなくて中途半端な時間に投稿してしまって申し訳ございませんでした!


本作では『春』やら『夏』やら呼び名がややこしいのでここでちょっとおさらい。サウンドクリエイター『春彦』のときは『』を用いております。それがないときは兄の春彦だと思ってください。紛らわしくてすみません。


・智夏

サウンドクリエイターとしての活動名が『春彦』。画家として活動していたときの名前が『夏』


・春彦(故人)

智夏の兄の名前。画家として活動していたときの名前が『春』


ほんっとすみません!読者の皆様にすみません!全世界の皆様にすみません!すみませんにすみません!




「『春』の幻の21作目、真偽のほどはわからないがそれもまた一興。御子柴君も見に行くかい?」

「はい!」

「はぁーーーーーしばちゃん・・・」


最早言葉もないと言わんばかりのため息を田中につかれてしまった。だがしかし、兄の遺作が仮にあったとするならば、兄の絵の一番のファンである俺が見ないわけにはいかない。もちろんあの男と女をぶっ潰すという目的も忘れていない。忘れてはいないのだが。


「私が言うのもなんだが、君は学習能力が無いのかい?」


馬鹿にしたように、というか本気で心の底から思っているような響きで神田が言った。


「私は君に酷いことをしただろう。それなのに私と来るなんて」


正直なところ、俺は神田に対して特に何も思うところはないのだ。鉢植えを落とされた時だって、実際には当たらなかったわけだし。って言うとみんなから「危機管理能力なさすぎ!」と怒られてしまうだろうが。その後に受けていた嫌がらせは別の人から受けていたし。まぁ嫌がらせを受けていた原因は神田だったけれども。嫌がらせ云々よりも、皆が俺のために動いてくれたことの方が何万倍も嬉しくて、神田には大して感情を持っていない。要は無関心なのだ。


「学習能力があるかどうかは知りませんが、俺と取引しませんか?神田さん」

「取引?私が君をオークション会場に連れて行ったら、何かくれるのかな?」


神田が訝しげに言葉を繰り返す。そう、これは取引だ。こくりと頷く。


「はい。その対価として、俺が描いた絵を1枚差し上げます」

「・・・えっ。なに?」


急に聞き取れなくなったのだろうか?まるで白昼夢を見ているかのような顔で神田が俺を見ている。


「だから、絵を差し上げますよ」

「え?」

「あんたも耳の遠い冥土さんか!!」


平均年齢80歳くらいの冥土さんたちに囲まれているおかげで、どうやら彼女の耳はかなり衰えてしまったらしい。


「絵より補聴器の方がいいですか?」


と本気で尋ねた瞬間、目にもとまらぬ速さで神田に肩を掴まれた。衝撃がすごすぎて首からボキッと不穏な音が聞こえたのだが、折れてないよな?首、とれてないよな?


「『夏』の絵をくれるのかい!?本当に!?」


滝のような汗、という表現があるが、今の神田の状況を説明するなら、滝のような涙を流している。滂沱の涙ともいう。などと現実逃避しているが、目の前の状況がやばい。何がヤバいって、神田の鼻から伸びた鼻水が俺の左肩についている。くっそ汚い鼻水の架け橋が俺の左肩から神田の鼻にかけて伸びている。つらい。


「しばちゃん、顔死んでる」

「だろうね、ははっ」


笑うしかない、これは。


その後、田中に頼んでティッシュを取ってもらい、汚物の架け橋の撤去作業に入る。なぜか脳内で『〇〇の架け橋』が壮大なオーケストラの演奏で流れていて余計に虚しくなってきた。


「服、汚しちゃったね・・・ごめん。代わりの服持ってくるから少し待ってて」


ぐすんぐすんと鼻をすすりながらお店の奥に消えていく神田。あれだけ出したのにまだ鼻水出るのかよ。店内を見回して気付いたが、お婆さんたちの姿が見えない。


「お婆さんたちなら「後は若い人たちで~」って言って帰ってったぞ」

「えっあの服で帰ったのかよ」

「上から割烹着を着てる人はいたけどな」


あーいるよね、街歩くときエプロンかけるおばさん。あれなんだろう?ファッションなのか、実用性なのか、取るのを忘れているのか。秋人も以前エプロンを着たままスーパーから帰ってきたので「なんでエプロン?」と聞いたら顔を真っ赤にして「外し忘れてた!」と言っていたのを思い出した。うちの弟可愛い。絶対スーパーの奥様方から微笑ましい目で見られてる。秋人がその日に付けてたエプロン、何かの付録のひよこ柄だったし。


「御子柴君、サイズが合うかはわからないけど」


と言って差し出された紙袋を受け取る。


「服洗って返すから、脱いでくれる?」


言われるがままその場でシャツを脱ぎ、神田に手渡す。うぉー寒い。室内とはいえ、今は11月。足早に奥の部屋に入る。


やたらと分厚い紙袋を開けて目に飛び込んできたものに、頭の中で大量に疑問符が浮かぶ。あ、あれだ。渡す服を間違えたんだ。


「神田さん」

「あら?サイズが合わなかった?」

「いや、サイズの問題じゃなくて」

「じゃあ何が不満なの?」


なんで我が儘を言う子供みたいな扱いを受けてるんだ。「何が不満」ってこの人本気で言っているのだろうか。さっき言った無関心は訂正だ。こいつ嫌いだ!


「なんで用意した服がメイド服なんだよっっっっっ!!!」

「それはここがメイド喫茶だから」

「メイドさん一人もいないのに!?冥土さんしかいなかったのに!?」

「失礼ね。私がいるでしょ?」

「貴様、メイドを舐めているのか!?」


突然田中が口を挟んできたと思ったら、メイドに着いてそれはもう熱く語り始めた。


「っくしゅ」

「しばちゃん、風邪ひくから服着ろよ」


確かに、11月に半裸は風邪をひいてしまう。マイエンジェル冬瑚にうつってしまったら大変だ。でも、服が・・・。メイド服を着るよりは、神田の鼻水付きの服を着たほうがましだ!


「さっき来てた服、返してください!」

「もう洗濯しちゃった☆」

「しちゃった☆、じゃねーよ!」


こうなったら半裸で帰るか・・・いや、それだと捕まってしまうし・・・。ちら、と足元の紙袋に視線を落とす。捕まるか、メイド服か、究極の2択。






「ねぇ見て!あのメイドさん超かわいいんだけど!」

「お人形さんみたい!」

「金髪に青い目で青いメイド服、なんだか摩訶不思議の王国のアイリスみたい!」

「写真撮ってもらおうぜ!」

「お前声かけろよ!」

「無理だよ!俺なんか近づいたら彼女の神々しさのあまり灰になっちゃうでしょうが!」


聞こえてんだよ!とイラつきながら大股で街を歩く。すると隣から


「ちょっと夏子、女の子なんだからその大股はアウトでしょ」

「誰が夏子だ」

「その儚げな妖精のような見た目でそんなドスのきいた声を出すなよー」


なんだか無性にイラっと来たので田中の足を無駄に高いヒールで踏んでおいた。


「さっさと帰るぞ!」

「へーい」




あの後、一度洗ってクリーニングに出すと言って聞かない神田によって、帰りは洗濯し終わった服を着る作戦が失敗に終わった。


「こんな格好で知り合いに会ったら恥ずか死ぬ」


と言った俺の発言聞いた神田がどこからともなく化粧道具とウィッグを取り出した。


「完全に別人になればバレないわよ」

「は?」


すると音もなく背後に忍び寄った田中に後ろから羽交い絞めにされ、その隙に神田が俺のメガネを外し、化粧をしていく。コンビネーション良すぎかよ!




知り合いに会いませんように知り合いに会いませんように、と念仏のように唱えながら駅から出る。知り合いに会わないように、と祈るときに限ってばったり遭遇してしまうのはよく聞く話なわけだが。まさか一番会いたくなかった人に会うなんて・・・


「・・・智夏クンっスか?」


最悪だ。




~執筆中BGM紹介~

マルモのおきてより「ramdom-E」作曲:澤野弘之様


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