冥土かふぇ
あれれ・・・?記憶では予約投稿したはずだったのですが。すみませんでした!
「なぁしばちゃん、場所ココであってるよな?」
田中が本日三度目の質問をしてくる。そしてコレに答えるのも三度目。
「『冥土かふぇ 〜伽羅〜』で合ってる、はず」
田中に教えてもらった神田のPCのメアドにメールを送ったところ、位置情報のみが添付されたメールが返信されたのだ。そのメールを田中に見せて一緒に来たところ、謎のお店の前に辿り着き、嫌がらせのメールを送られただけではないかと悩む。
「冥土はともかく、伽羅ってなんだ?」
お店の看板を前に田中が唸っている。お店の外観はコンクリートのビル。その一室にお店が入っているのだ。
「高いお香の香りのことだって」
スマホの検索画面の情報をざっと要約して伝える。
「冥土にお香、か」
どこか遠い目をして田中が呟く。この二つの言葉から連想されるお店の趣旨に鳥肌が立つ。
「嫌な予感がするのは俺だけか?」
小刻みに震え出した田中の肩を安心させるように叩く。
「Me too.」
扉を開けるとカランカランと軽快なドアベルの音が響いた。そして入り口に並んだ従業員(?)たちが俺たちを迎え入れる。
「「「いぃらっしゃいやしぇ〜ご主人さま〜」」」
平均年齢80歳くらいの10人のおばあちゃん達がフリフリふわふわのメイド服を着て出迎えてくれた。
勝手に回れ右をして帰りそうになる足を叱咤してメイドさんというか、冥土さん?に神田について尋ねる。
「神田沙由美さんはこちらにいますか?」
「えぇ??なぁんだってかぁ?」
冥土さんたちは「聞こえねぇなぁ!」と言って笑っている。笑いすぎて奥の紫色のメイド服を着た冥土さんの入れ歯が取れていた。まじか。
腹から出すことを意識して声を出す。
「かんださん!は!ここにいますか!?」
すると3秒くらい静かになってから、冥土さんたちが動き出す。なんだろうこのタイムラグ。時差かな。同じ空間で時差が発生してるのかな。
「かんだぁ?そんな子いたかね?」
あ、聞こえてた。このタイムラグは俺の声が耳に入ってから脳に伝わるまでの時間なのだろう。それにしても色とりどりのメイド服が目に刺さる。さっきの入れ歯の人の紫の他にも金や銀、虎の顔がついたメイド服まである。
「ここは年寄りの集会場だからねぇ。探せばかんだの一人や二人出てくるよ」
「急にいなくなることもあるけどねぇ!」
「ここにいなかったらぽっくり逝ってるかもしれないからねぇ。うきゃきゃきゃ」
いや、笑えない、笑えないですよ。シルバージョークだろうが、冗談に聞こえないのでなんと返していいのかわからない。こういうとき、いっつも助けてくれる田中がそういえば静か・・・
「あぁあんたうちの旦那の若いときにそっくりだよ!」
「ちょ、」
「いやぁうちの孫に似てる」
「あんたんとこの孫はまだ3歳だろがぁ」
「すべすべのもちもちじゃ~」
けらけらと魔女のように笑いだす集団に揉まれて埋もれていた。あ、辛うじて右手が見えた。どうやら生きてはいるらしい、と他人事のように田中を見ていたが、魔の手がこちらにも伸びてきた。
「ピッチピチじゃのぉ」
「あんた細っこいねぇ。ちゃぁんと食べてんのかい」
「ひぃっ、どこ触って、」
「あらほんと。声が小さいと思ったら、こんなにもやしみたいな体してたのぉ」
「や、やめ、あぁぁぁああーー!!」
~自主規制~
「ほんとに来たのね、御子柴君」
「・・・神田さん」
「いたのならもっと早く出てきてくれよ・・・」
燃えカスのようになった俺たち二人の目の前に現れた神田は、以前と変わらず何事にも興味のないような表情をしていた。が、服装は冥土さんたち同様、メイド服を着ている。しかも王道の黒。推定30半ばほどと思われる女性がメイド服。これがなかなかに似合っているのがまた・・・。
「主役は遅れて登場するものでしょう」
「誰が主役だよ」
神田と田中のやり取りを見ていると、ふと神田が付けているネームプレートに目がいった。そこには
『オーナー さゆみ♡』
とピンク色の丸文字で書かれていた。それを見て、考えるより先にうっかり疑問を口にしてしまった。
「どういう意図でこのお店を建てたんですか」
「聞きたいことというのはそれかい?」
「いえ、違いますけど」
冥土さんたちに揉みに揉まれている間に冷静な判断力を落としてきたらしい。だが気になるものは仕方ない。
「意図はないよ。ただ、こういうお店があったら面白そうだなーってね」
面白半分でこんなとんでもないお店建てちゃったのかよ。あんたの好奇心にさっき危うく殺されかけたわ。
「それで?聞きたいことがあるのだろう?ついて来たまえよ」
ブーツをコツコツと鳴らしながら奥の個室に入る。部屋に入るなり、目に飛び込んできたのは懐かしい一枚の絵。
「『春』の14作品目の絵画、『朝焼け』」
「・・・」
横2メートル、縦1メートルのキャンパスに描かれたそれを、俺も憶えている。なんせ隣にいたのだから。まだ秋人が生まれたばかりの頃、二人で早起きして朝焼けで真っ赤に染まった街並みを見たのだ。その時の風景を忠実に再現するために、兄がキャンパスのサイズを窓枠の大きさと同じものにしたのだった。あぁ、本当に懐かしい。
「『春』の遺作を弟の『夏』と見れるなんて・・・!はぁぁぁ、興奮するわぁ」
「黙れ変態女」
神田と田中が何か言いあっているが、それすら頭に入ってこない。この作品はあの女が持ち出した13作品の中の一つ。もう見ることはないと半ば諦めていたが、まさかこんなところで再会しようとは夢にも思わなかった。
「神田さん、コレどこで手に入れました?」
「オークションで競り落としたよ」
「ということは、やはり闇オークションの会員ですね?」
「そうだね」
ここで普通に肯定してしまうあたり、かなり常軌を逸している。
「仕方ないじゃないか、欲しいものがあったら手に入れる。赤子でも生存本能でしていることだ。私が君たち兄弟の描いた絵画を手に入れようとするのも生存本能と言っても過言ではない」
「過言ですよ」
どういう理屈で言っているんだこの人は。
「オークションと言えば、非常に興味深い情報が流れてきてね」
聞いてもいないのにペラペラと喋りだしたが、思わぬ情報が手に入った。
「全部で20作と言われていた『春』の未発表だった21作目がオークションに出品されるのですって」
「21作目?」
どういうことだ?兄の遺した絵画は全部で20作のはず。なのに、21作目だって?偽物だろうか。でも、万が一これが本当だったら・・・
急ぎすぎたため、BGM紹介はまた次回!