屋上
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「冬瑚、元気だった?」
『みんな大好き!くだものちゃん!』の初日顔合わせが終わり、家に帰って挨拶もそこそこに秋人が冬瑚について聞いてきた。
「元気そうだったよ」
「そっか、よかった」
俺の言葉に心底安心したように秋人が息を吐きだす。昨日あの男がヤバい仕事をしていると聞いてから冬瑚の安全が心配で堪らなかったらしい。
「秋人」
「なに?」
「冬瑚のこと、心配か?」
「当たり前でしょ。僕たちの妹なんだから」
躊躇なく秋人が言った言葉を、兄として誇りに思う。俺は13年間、秋人の兄なので下の子の存在に抵抗はない。しかし秋人にとって冬瑚は初めての下の子。抵抗があっても不思議じゃない。だが秋人は、誰に言われるでなく兄として妹のことをちゃんと思いやっている。
「お兄ちゃんしてるなー秋人」
「馬鹿にしてる?」
「してないしてない」
ものすごく秋人の頭を撫でまわしたい気分なのだが、これをすると怒られるのでぐっと堪える。いつか冬瑚にもなでなでを嫌がられるのだろうか・・・あ、考えただけで血の気が下がってきた。
「兄ちゃん!?顔色悪いけど大丈夫!?」
「・・・反抗期について少し考えてた」
「はぁ?」
秋人や冬瑚に「お兄ちゃん嫌い!」なんて言われた日には再起不能になる自信がある。
「秋人ーお兄ちゃんを嫌いにならないでー」
「は?わけわかんないんだけど。・・・ていうか、」
ぽそっと秋人が言った言葉に、堪えきれずに頭をわしゃわしゃと撫でまくる。
「やーめーろー!」
「愛いやつめ!」
『嫌いになんて、なるわけないじゃん』だってさ。どいつもこいつも俺の可愛い自慢の弟妹だよ!
この後、デザートのミルクプリン無し!と怒った秋人に言われてめっちゃ謝った。
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「田中、ちょっといいか?」
「ん、いーぞー」
昼食後の昼休み後半、眠そうな田中を起こしてやってきたのは屋上。
「おー屋上ってほんとに来れるんだなー」
「早乙女先生に借りた」
「へー・・・仲いいんだなー」
なんだか含みのある言い方をされた。
「言っとくけど、田中の想像しているような関係ではないからな」
「なんだ、つまんねぇ」
一緒にコンクール会場に行ったら少しばかり融通を利かせてもらえるようになっただけである。断じてやましい関係ではない。
「で?人のいない屋上の鍵をわざわざ借りて、俺を呼んだのはなんで?」
「えっと、力を借りたいんだけど」
「いーよー」
「だよな、いきなりそんなこと言われても困るよな、って、え?いまなんて?」
「いーよー」
「いやいや、詳しく話を聞いてから返事をしようよ。とんでもないこと頼もうとしてたらどうすんのさ」
急にイエスマンになったので心配になってきた。怪しい壺とか買いそうでかなり怖い。
「例えとんでもないことを頼まれても、それがダチの頼みなら断らない。間違ってると思ったらぶん殴るけどな」
「歯をくいしばっておくよ」
「おう、アップしとくわ。で?どんな頼み?」
「田中さ、前に俺が嫌がらせを岡村唯から受けてた時、元凶の神田を教室にメールで呼んだって言ってたよな?」
「あぁ、あの『神田&岡村ざまぁ回』な」
元美術教師の神田に恋情を抱いていた元生徒の岡村が、俺に嫌がらせを繰り返していたのだ。それを止めるために、田中たちが尽力してくれたのだ。
「神田のメアド、教えてくれないか?」
「・・・あいつは、しばちゃんを殺そうとしたやつだぞ」
「うん、覚えてるよ」
頭上から鉢植えを落とされて、危うくぶつかるところだったのだ。忘れるわけがない。でも、神田のメアドが必要なのだ。
「それでも、教えてほしいんだ。頼む」
田中に頭を下げて頼み込む。
「はぁーーーー」
すっごい深いため息された。ごめんな、田中。毎度毎度心配かけて。
「理由を聞かせてくれ」
と言われて、話そうか一瞬迷ったが、話さないと話が進まないので早々に諦める。さて、どこから話せばいいのやら。とりあえず、
「次の授業、サボるけどいい?」
「屋上で授業サボるとか青春だな」
「だな」
それから授業開始の鐘が鳴っても、話を続けた。ドリボに母とその旦那が来たこと、血の繋がった妹がいたこと、母の旦那が闇オークションを経営しているかもしれないこと。
「それで、なんで神田なんだ?」
一見この話に神田は関わっていないように聞こえる。しかし、神田は重要なカギを握っている、かもしれない。現時点では確定はできない。
「神田は以前、兄の『春』が描いた絵をそれはもう変態的に好いていたよね?」
「病的を通り越してもはや変態的だったよな」
「で、思ったわけです。それだけの変態的なファンなら、闇オークションの会員なんじゃないかと」
「なるほど、それでか」
闇オークションでは『春』の絵が多く取引されていたと思われるので、あの変態がその場にいないわけがないと推測したのだ。闇オークションを潰すには内側からの協力者が必要だ。つまり、完全会員制の会員になりすます必要がある。俺の思いつく中では神田以外心当たりはない。一刻も早く冬瑚を助け出す。そのためなら死なない程度の無茶はするつもりだ。
「・・・わかった、教える。けど一つ条件がある」
「条件?」
「万が一、会うことになったら俺も連れて行くこと」
「わかった」
「ならよし!」
さすがに俺も神田と1対1で対峙する気はない。あんな変態、さすがに一人では手に負えない。満足気に俺の肩を叩く田中が、ふと思い出したように言った。
「それじゃあ、パソコンのメアドと、スマホの3つのメアド、あとガラケーのメアドのどれがいい?」
いや、メアドってそんなにあるのかよ!?っていうか
「田中なんで全部知ってんの?」
メアドは偶然手に入れたものと思っていたが、どうやら違うようだ。
「うん?それは企業秘密」
にっこり、にこにこ。まぁ、知らない方がいいことも、あるよな?と思わせるには十分な迫力満点の笑顔だった。
~執筆中BGM紹介~
けものフレンズより「ようこそジャパリパークへ」歌手:どうぶつビスケッツ×PPP様 作詞作曲:大石昌良様