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なでなで

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冬瑚と二度目の再会を果たす前日のこと。


「あの男、由比伊織(いおり)の調査の中間報告についてだが、」


秋人と二人、スピーカー機能を使って家で社長の報告を聞いていた。今さらだが、あの男の名は由比伊織というらしい。全国の伊織さんに謝れ。


「どうやらヤバい仕事に手を出しているらしい。あくまで噂だがな」

「「ヤバい仕事?」」


ヤバい仕事というと、「ヤ」の付くお仕事だろうか。あぁぁ不安だ、そんな男の元に冬瑚がいるなんて・・・。


「どうやら美術品の闇オークションを経営しているらしい」

「闇オークション、ってなんです?」


秋人が疑問を問いかける。


「オークションはわかるな?」

「はい」

「通常のオークションとは違って闇オークションに出品される物は違法なものだ」

「あの、さっき美術品の闇オークションって言ってましたよね?」


美術品と言えば美術館やお金持ちの家なんかに飾られているイメージだったが、残念ながらそれが全てではないらしい。


「この闇オークションで出品される美術品は盗難品だ」

「「盗難品!?」」

「美術品は基本どれも一点物。その希少性は計り知れない。金持ちやコレクターなんかはそういうのに目がないんだよ。だから高額で売買される」

「そんな・・・」


絵を描いていた身としては、このような話を聞くのは辛いものがある。美術品は人の目を浴びてこその品。決して盗まれて違法に取引されて食い物にされるために生み出されたものではない。


「盗難にあった美術品は返ってくることもあるが、未だ見つかっていないものも多いと聞く」

「そうですか・・・」


沈痛な面持ちで秋人が声を漏らす。


「あの男が、それに関わっているんですね?」

「あぁ。関わっているどころか、経営者だ」

「そうですか・・・」


さきほどの秋人のセリフと同じ言葉をつぶやいたが、それに伴うニュアンスは180度異なる。自分の口端が笑みの形を作っているのがわかる。


「ずっと、謎だったんですよね。何故、あの女が家を出たときに兄の絵を持って出たのか」

「あ」


どうやら秋人もその可能性に気付いたようだ。可能性というか、ほぼ確定と言ってもいいかもしれない。


「あの女は絵に対して興味を持っていなかった。それなのに何故『春』の絵を13枚持っていったのか」


あの女が『春』の、兄の生涯で描いた20枚のうちの13枚を持っていった理由。


「あの男が原因?」


震える声で秋人が口にする。『春』の絵はその界隈では有名であり、枚数も少ないこともあって現在、かなりの値が付いていると聞く。


「っ」


電話の向こうで社長が息を飲むのが伝わってきた。


「あの男は、俺たちの兄の絵を、」




「闇オークションで売りやがった」


絵を持ち出したあの女は、男に唆されたのだろう。「絵を持ってきてくれれば、現状から救ってやる」とかなんとか言って。ほいほいと容易く騙される姿が目に浮かぶ。


生活費のために残っていた兄の絵も売ってしまった俺が言えないことかもしれない。いや、家族が売るのと、赤の他人が売るのとでは全然違うだろ!


少し前の俺なら「俺もあの男と同じだ・・・」と落ち込んでいたかもしれない。しかし今、湧いてくる感情に、自責の念は含まれない。


ただひたすらに、俺は怒っている。


闇オークションなんぞに売りやがったあの男に、ほいほいと言われるがまま兄の絵を差し出したあの女に。


「・・・このまま調査を進めるが、その前に一つ伝えておくことがある。あの男を地獄に叩き落すための計画についてだ」

「なるほど、聞かせてください」


社長が言った作戦内容をようやくするならば、「上げて落とす作戦」だろうか。以前満開アニメーションの佐藤元監督のお爺様であり、社長たちの飲み仲間である正造氏の力を借りるらしい。あの男を正造氏の飲み会に招待するらしい。正造氏の飲み仲間といえば、経済界や政界に名を馳せる実力者が勢ぞろいしている。それに招待されるのは、少し金を持っている人間にとっては夢のような話らしい。


あの男の経営する闇オークションは完全会員制。しかも毎回場所を変えて開催するため、証拠がなかなか出ず、捕らえることができない。現行犯で取り押さえるためには、どうしても内側からの協力者がが必要になってくる。


そのためあの男を正造氏の飲み仲間に招待し、会員証を手に入れる。ついでに情報も聞き出す作戦である。


正直不満だが。この作戦で俺は何一つ協力できない。というか、手を下せない。俺はあの男の横っ面をぶん殴ってやりたいのだ。この作戦では何一つ手出しができないまま終わってしまう。どうすれば、どうすれば俺の手であいつらをぶっ潰すことができるだろうか。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「春お兄さん、春お兄さん。大丈夫ですか?元気出してください」


昨日のことを思い出して考え事をしていた俺を見上げて、冬瑚が心配してくれる。はぁ、癒し。この子からマイナスイオンでも出てるんじゃない?清浄な空気出しちゃってるんじゃない?


近くの椅子に座ってそのまま流れるように冬瑚を抱き上げて膝の上に乗せる。そしてそのまま形の良い頭をなでなでなでなでなで・・・


「春お兄さん?えへへ」


横抱きに膝に乗せていた冬瑚がふにゃふにゃと笑った後に、ことん、と俺に体重を預けてくる。何この可愛さ。これで街中歩いてたら攫われちゃったりしない?大丈夫?


なでなでなでなで・・・


無心で冬瑚を撫でていると横から和馬がやってきた。


「春彦さん」


春彦として和馬に会ったことはないので、多分俺が福井で会った智夏だとは気づいてないと思うが。なんとなく身構えてしまう。


「僕も撫でて」


そう言うと空いていた俺の左手を自分の頭の上に持ち上げて、ぽすん、と乗せた。


右手に冬瑚、左手に和馬、なにこれ。とりあえず撫でよ。癒されよう。気分的には両手で子猫を思いっきりかわいがっている感じだ。幸せ。


「春彦さん、久しぶり、だよね?」

「うん?初めましてじゃなくて?」


うんうんと何かに納得したかのように和馬が頷くと、いきなり核心を突いた言葉を言った。内心ドキドキしながらすっとぼける。


「福井で会った以来。だよね?なでなでの感触でわかったよ?」

「なでなでの感触」


なに、なでなでの感触って。世界共通じゃないの?






~執筆中BGM紹介~

ドラマ 信長協奏曲より「帰蝶のテーマ」作曲:Taku Takahashi様


ドラマのBGMも神曲いっぱいで、、、

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― 新着の感想 ―
[一言] お兄ちゃん、激おこですねぇ。母親叩いて、妹奪還して一石二鳥。 でも、シスコン兄弟に甘やかされる冬瑚ちゃんの将来が心配です。彼氏出来たら苦労するだろうなぁ。
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