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星空



ほんのり赤く染まった頬で声優の鳴海(なるみ)彩歌(さいか)は言った。


「私たち、この場所に二人っきりっスね」


プラネタリウムに投影された星々が優しく彼女を照らす。


「なんだかデートみたい」


人工の星を見上げながら、彼女は綺麗に笑ったのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



それは昨日のこと。社長室で秋人と二人、ありがたいお説教を聞いていたとき。


「満開アニメーションの件も踏まえて、今まで智夏の仕事量をセーブしてきた」


かなり疲れた様子で社長が言ったのだ。どうりで仕事量が少ないと思った。気のせいじゃなかったのか。「疲れたから肩を揉め」と言われたので仰せのままに社長の背後にまわり、肩をもむ。あ、めっちゃ凝ってる。


「だがっ、暇があると、ううん!どうやら問題を起こすらしいとわかったのでなっ」

「うっ」


肩を揉んでいるだけなの艶めかしい声を出さないでほしい。秋人が聞いているでしょうが!なぁ、秋人・・・


秋人の方を見るとスマホを取り出し、耳にはイヤホンをしていた。呆然と秋人を見ていると、視線に気づいたのか片耳のイヤホンを外して「なに?」と聞いてきた。いや、なにって。


「いま『超時短クッキング』見るのに忙しいから」


そう言うや否やイヤホンを再び装着してスマホの画面に視線を戻してしまった。そんな「お母さんいま忙しいから、外で遊んでなさい!」みたいな言い方されても。お兄ちゃんショック。まぁ、さっきの聞こえてなかったんならいいけどね。


「話に集中しろ!あと手も止まってる!」

「・・・すみません」


弟はスマホを見てても何も言われないのに、俺は肩もみの手を止めただけで怒られた。・・・そもそも俺に話しているのだから俺が注意されるのは当然かもしれないが。


「もっと丁寧に!女性の扱いは繊細なガラス細工を扱うように丁寧に!」


世の女性はともかく、社長はどちらかというとガッチガチに硬いダイヤモンドでは?そう、ダイヤモンドは傷つかな、


「ほほぅ?いい度胸だなぁ?」

「ひぃっ」


何で!?聞こえてた!?


「何を怯えている。ちょっとからかっただけだろうが」


カラカラと笑いながら再び前を向いた社長。これ仕返しだ。俺が問題ばっか起こすから仕返しされてるんだ。


「何の話だっけ?」

「俺が暇があると問題を起こすという話です」


なぜ自己申告せねばならんのか。言ってて情けなくなってくる。自業自得だけど。


「そうそうっん!で、早速明日から仕事を程よくみっちりっ入れといたからな、あ!そこもっと!」


話の内容が全然頭に入ってこなかったが、とりあえず言われた通りグリグリとご所望の場所をほぐす。一心不乱に、他のことが頭に入ってこないぐらいに肩を揉むことに集中する。気にしたら負けな気がする!


「鳴海彩歌によろしくな」

「はい・・・はい?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





余計なことまで思い出してしまった。つまり俺は現在、久方ぶりにサウンドクリエイター『春彦』としての姿で鳴海さんと仕事をしている。


『劇場版 月を喰らうー新月奇譚ー』の制作に伴い、ドリボでは映画の制作風景をYeah!Tubeでファン向けに流しているらしい。絵コンテのチラ見せや、作画風景などを動画でアップしており、かなり好評なのだとか。そして次の動画は劇中歌がメインであり、実際に俺がピアノを弾いて、鳴海さんが歌っているところを撮る。


アニメの世界観を表すため、プラネタリウムを貸し切っての撮影。中央の開けた空間には、星々を反射して、まるで星空を切り取ったかのようなグランドピアノが鎮座している。そしてその横にはスタンドマイクが立っている。


準備が終わり、スタッフたちが撤収しているとき、なんだか二人っきりでデートみたいだな、とか思ったとき。


「なんだかデートみたい」


自分の口から飛び出た言葉かと思って一瞬驚いた。鳴海さんも同じことを思っていたようで、なんだか気恥ずかしい。


『それじゃあ、お願いしまーす』


アナウンスでスタッフから指示の声が。気恥ずかしさを振り払うかのようにいそいそと椅子に座る。


音出しをしながら、プラネタリウムに狐面ってどうよ、と思ったが、そもそもメインは俺ではなく鳴海さんなので気にしないことにする。


狐面越しに鳴海さんと目を合わせる。そのまま呼吸も徐々に揃えていき、ひとつになったとき、同じタイミングでピアノと歌声が重なる。うん、いいスタートを切れた。


「~♪」








順調に撮影が終わり、スタッフのご厚意に甘え、鳴海さんと隣り合ってプラネタリウムを鑑賞していた。実はプラネタリウムは以前に、兄と一緒に来たことがあるのだ。ここに来るまで、そんなこと忘れていたのだ。兄が死んで辛くて悲しくて、暖かな思い出ごと忘れようとして。そのまま本当に忘れてしまった。今になってようやく、兄との思い出を忘れてしまったことを後悔している。だから、今日思い出せて本当に良かった。


いつか秋人と冬瑚を連れてもう一度来てみたい。なんなら本当の星も見に行きたい。弟妹たちのことを考えるだけで胸がポカポカとあったかくなる。一刻も早く、あんな場所から冬瑚を助け出さなければ、と気合を入れなおす。


「春彦クン、なんか良いことあったっスか?なんだか嬉しそうに見えるっス」

「良いこと・・・そうですね。これからのことを考えてたら、少し」


仮面で顔色なんてわからないのに、よく嬉しそうだってわかったな。恐るべし超人気声優。


「女っスね?」

「うん?まぁ、女といえば女ですね」


妹だし。あ、でも秋人は男か。秋人の性別はオカンって感じだから、なんかうっかり。


「な!ほんとに女の話題だったっスか!?」

「カマかけたんですか?」


どひゃーと鳴海さんが言っていたが、その言葉を使っているのを俺は今までに犬さんしか見たことがない。犬さん以外にもユーザーいたんだな。


「年下っスか?年上っスか?」

「年下です、けど」


妹だし。年上だったら姉になってしまう。なんでこんなこと聞くのだろうか。


「っぐぅ!勝ち目なしじゃないっスか~!年齢はどうすることもできないっス!!」


足をバタバタさせながら何やら悔しがっている。どうしたのだろうか。


「鳴海さんは、年上ですけどなんだか年下っぽくて、可愛いですね」


世間の皆様は知らないであろう声優、鳴海彩歌の素顔を自分だけが知っているようで、なんだか嬉しい。


「かっかわっ!?」

「どうかしましたか?」

「~~~っ!なんでもないっス!」


涙目で睨まれてしまった。そして勢いよく立ち上がると、「もう帰るっス!」と言って去ってしまった。なにか悪いことをしてしまっただろうか。


俺ももう家に帰るだけだったので外に出ると、今にも雨が降りそうな曇天だった。天気予報では晴れだったのに。ま、秋人が持たせてくれた折りたたみ傘があるから大丈夫だけど。ありがとうオカン、と心の中でお礼を言っておく。


外に出てこそっと仮面を取り、駅に向かってしばらく歩いていると、尋常ではない男の声が聞こえてきた。


「さいかちゃん!!さいかちゃん!オレのこと、覚えてるよね!?」

「離してください!!」

「なんで?わざわざ迎えに来てあげたのにぃ!!手ぇ繋いで帰ろうよっ!!」


鳴海さんの腕を掴んでいた、俺よりもひょろっとしていた男の腕を掴む。


「鳴海さんから離れろ!」


ポツリ、ポツリと嫌な雨が降り出した。




~執筆中BGM紹介~

お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっより「SELF PRODUCER」歌手:茅原実里様 作詞:こだまさおり様 作曲:菊田大介様(Eiments Garden)

今回も読者様からのおススメ曲でした!

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